【毎週ショートショートnote裏】フフン賞
妻には人を鼻で笑う癖があった。
フフン、と小さく息を鳴らして笑う。その顔が私は大嫌いだった。どうしようもなく腹が立つのだ。
けれど、それ以外のところは深く愛していた。
妻を失って半年が過ぎた。
葬式も火葬も終え、家には骨壺だけが残った。ひとりの生活には慣れたが、胸の奥に空いた穴は埋まらない。あの腹の立つフフンでさえ、もう一度聞きたいと思うようになっていた。
そんなある日、玄関の扉が開いた。
「ただいま」
顔を上げると、そこに妻が立っていた。
あの日、確かに見送ったはずなのに。
「……なんで」
私が言うと、妻はいつもの調子で鼻を鳴らした。
「フフン。あの世でね、フフン賞っていうのがあったの」
聞けば、いかに人のことを鼻で笑えるかを競う大会らしい。
妻はそこで見事に優勝し、賞品として「現世に戻る権利」を選んだのだという。
「だから帰ってきたの。すごいでしょ」
フフン、と。
今までで一番腹の立つ顔をして妻は言った。
私は立ち上がり、そのまま妻に抱きついた。
涙が止まらなかった。
「そんな顔して泣く?」
妻は呆れたように言う。
「だって、お前のそのムカつくフフンなんて、もう聞けないと思ってたんだ」
妻は少し黙ってから、優しく鼻で笑った。
「フフン」
(505文字)
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