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【シロクマ文芸部】鍋の具は

鍋の具はなにが好き?
待って、当ててあげるわ。若い子はだいたいお肉でしょう。みんなもお肉、大好きよね。あら違うの?最近の子は分からないわねえ。

余った鍋って次の日には飽きちゃうじゃない?だから私はだいたいカレーにしちゃうの。どんな具材でもね、じっくり煮込むと不思議とまろやかにおいしくなるのよ。
あ、そうだわ。今日ね、賄いのカレーが残ってるの。よかったら食べていきなさいな。こんな時間まで残って勉強してたんでしょう?しっかり食べないと倒れちゃうわよ。
お肉、たっぷり入れておくわね。ほんと、思いがけずたくさん手に入っちゃってどうしようかと思ってたの。

いい匂いがするでしょう?遠慮しなくていいのよ。若いんだからたくさん食べなきゃ。

そういえば、ねえどうなったの?この前いなくなったお友だち。先週からだっけ?
ええ、聞こえてたわよ。ここで話してたでしょ?姿が見えなくなって誰も知らないって……心配よねえ。若い子が急にいなくなるなんて。

あの子、あなたたちと仲良しだったんでしょ。よく一緒にごはん食べにきてたもんねえ。
うちの娘からも名前を聞いたことがあったのよ。

そう、あなたたちと同じ学科だったのよ。うちの娘、知らない?
本当に?知らないの?
……そうなの。あなたたち、誰も知らないの。へえ……そうなのね。
まあ、あの子目立つタイプじゃなかったから。気づかれなくても、無理はないわ。ええ、ええ、いいのよ、気にしなくて。

カレー、どう?
味が普段のと違うでしょう。実はね、いつかあなたたちに食べてもらいたいと思って作ってたスペシャルなのよ。
ふふ、当ててみる?なんのお肉か。
わからない?そりゃあそうよ。あなたたちが食べたことないものだもの。
大丈夫、大丈夫。悪いものじゃないの。ちゃんと手間をかけておいしくしたんだから。

そういえばね、あなたたち学食でよく大きな声で話してたじゃない?
誰かのことを笑って、からかって、無視してたって。ここからでも聞こえるのよ、食堂って意外と音が響くのよね。
ほら、つい先週も話してたじゃない。“あの子、最近見ないよな”って。
その子の名前、覚えてる?
ああ、やっぱり覚えてないのね。そうよね、あなたたちにとっては、そんなもんよね。
いいの、なんでもないから忘れてちょうだいな。

あら、スプーンが止まってるわよ。
温かいうちに食べないと。カレーってね、いろんなものが溶けて混ざって……最後には、だれにも中身なんてわからない、ぜんぶ包み込んでやさしい味にしてくれる料理なのよ。

あら、みんな眠いの?いいのよ、無理に起きていなくても。顔がとろんとして……ずいぶん、素直な顔になってきたじゃない。

そのまま、目を閉じて。

大丈夫。あなたたちもすぐに“やさしい味”にしてあげるから。

(1124文字)

前回のお題はこちら⇩


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