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【シロクマ文芸部】紅葉色

紅葉色の葉が、駅前の並木をひらりと舞った。
その色を見るたび、僕は自分の「偏差値」が気にかかる。学力ではない。心の偏差値だ。

会社が導入した最新AIが社員の「精神偏差値」を算出し、適職配置を行うようになって何十年も経つ。僕は今日、その結果を受け取る日だった。

封筒を開くと、数字がひとつ。
精神偏差値21。
……低い。かなり低い。これでは希望部署どころか、会社に居続けることすら危ういかもしれない。
けれどその下には、見覚えのない文字が印字されていた。

「情緒:紅葉色」

人事は気まずそうに言った。
「あなたは部署ではなく、分類のほうに入ります」

案内された地下室には、数人の社員が静かに座っていた。誰も話さず、誰かが入ってきても反応しない。胸には全員、紅葉色の名札がついている。

「あなた方は創造性データセットに分類されます」
人事はためらいなく言った。
「精神偏差値が一定以下になると、情緒の色味が紅葉色になります。散る直前の、最後の煌めき。創造性や発想力が一時的に異常に高まるんですよ。それは通常業務には使えません。けれど、企画部のAIに“抽出”することで有効活用ができるのです」

そこで気づいた。
この部屋には窓がない。
スマホもパソコンも存在しない。
そして、さっきから僕の影が床に落ちていない。

自分の手を見ると、指先がかすかに透けていた。
紅葉が散る前に色濃く燃えるように、僕の思考も今、どこかで鮮やかに燃えているのだろうか。

人事は優しく言った。
「あなたの“最後の煌めき”を、会社は大切に使わせてもらいます」

その声だけが、やけに明るかった。

(658文字)

前回のお題はこちら⇩


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