【毎週ショートショートnote裏】ほころびタンシチュー
秘密を食べられる、特別なタンシチューがあるらしいーーーそんな噂が、一部のセレブの間で流行っていた。
口に運べば、秘密の記憶が肉の奥からじわりとほどける。
念入りに閉じ込められた秘密も、熱と香辛料に溶かされ、煮込まれるほどほころんでくるのだ。
柔らかく煮込まれたタンシチューは、隠しておきたい真実ほど味が深く、濃い。
今夜も黒塗りの車が裏路地の小さな店に並んでいた。
会員制の扉の奥、白い皿の上に置かれた肉の塊は一見、ありふれたごちそうに見える。
ナプキンをつけ、ナイフを入れる。
とろりとあふれる肉汁に乗って、誰かの秘密が舌に落ちる。
噛むほどに、胸の奥がざらつくような背徳感がじんわり広がる。
他人の罪ほど甘いものはない。
すべてを平らげた客の前に、店主が人工発声器と鋭いナイフを手に現れる。
いつもと同じ仕草で、丁寧に告げる。
「それでは、対価をお支払いいただきます」
息を呑む客の皿はすぐに下げられ、奥の鍋にはまた新しい“材料”が沈められる。
秘密を味わう者は、やがて次の誰かの味になる。それがこの店の、変わらない仕組みだった。
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