アイデンティティを考える読書夜会で「手をつなぐ」選書に触れる|リーディング・ナイト in 泊まれる古本屋山猫堂(岩手県陸前高田市)
『山猫堂が、どういう考えを持って選書しているかを知られるイベントです』
築180年を超える古民家の玄関を上がってすぐの所に佇む大きな机を挟んで、「リーディング・ナイト」の説明を受ける。机の前には荒々しくも洒落た字体で”Reading Night”と書かれた厚い板。机の上にはイベントのテーマ「手をつなぐ」に沿って選ばれた本たち。それらが、普段の山猫堂と仄かな差異を生みつつ、それでいて山猫堂らしさを感じさせる。
『この本は、とくに今回のテーマを感じられる』
その言葉とともに、手前側に置かれていた一冊の絵本が示された。谷川俊太郎の「わたし」である。手に取って、目を通す。わたしはわたしだけれども、人によってわたしはわたしではない呼ばれ方をしていく。一人、また一人、一生命体とページを繰る度にわたしを呼ぶ存在が変わり、わたしもまた変わる。
私たちが私たちであると信じるアイデンティティは、誰によって作られたものなのでしょうか。
わたしがわたしであるというアイデンティティが、異なる存在が異なる呼び方をすることで揺さぶられ、揺らいで、変化していく。その変化の中で生まれる無数の差分ーーアイデンティティは、一体誰によって作られたものなのだろうか。考える。呼び手だろうか、それともわたしだろうか、あるいは二人を取り巻く環境だろうか。
そもそもわたしとは何なのだろうか。人によって呼び方が変わる、扱いが変わる、捉え方が変わる、わたしにとってわたしは確固たる一人の人間であるはずだけれども、誰かにとってのわたしは異なるわたしで、もしかするとわたしが知らないわたしかもしれない。わたしは曖昧で模糊で、IだけどMyではないかもしれなくて。
そんなわたしが、わたしであってわたしでない誰かかもしれないわたしとして接してくるわたしからすればやはり誰なのか分からない存在と手をつなげるのだろうか、つないでいけるのだろうか。そんな深遠な思考を呼び起こさせられる。なるほど、たしかに「手をつなぐ」のテーマに合致する一冊だ。
会計をしてドリンクを注文し、店内の空いている席に座る。受付で手に取った本を開く。外に目を向けると傾いた日が沈みかけ、闇が落ちようとしていた。もうじき夜が来る。「リーディング・ナイト」の始まりを告げるかのような景色だと思いつつ、開いた本へと視線を落とす。
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「手をつなぐ」をテーマに山猫堂の選書した本を自由に読める夜|「リーディング・ナイト」in 泊まれる古本屋山猫堂(岩手県陸前高田市)
泊まれる古本屋山猫堂(岩手県陸前高田市)で、2026年7月10日に「リーディング・ナイト」が開催された。テーマに基づいて選書された本を読むイベントである。
今月から始める新しい定期イベント「リーディング・ナイト」。
数ヶ月に1回、テーマごとに自由に本を読む会です。
山猫堂がセレクトした本を自由に読むスタイルなので、事前の準備や難しい知識はまったく要りません。
今回のおしながきは、以下の通り。
まばゆい残像ーそこに金子光晴がいた / 小林紀晴
ノイエ・ハイマート / 池澤夏樹
国境を越えたウクライナ人 / オリガ・ホメンコ
鳥への挨拶 / ジャック・プレヴェール、奈良美智
わたしには夢がある / マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、カディール・ネルソン
昨日 / アゴタ・クリストフ
永遠の詩02 茨木のり子
隣人のあなたー「移民社会」日本でいま起きていること / 安田菜津紀
わたし / 谷川俊太郎、長新太
モモ(絵本版)/ ミヒャエル・エンデ、シモーナ・チェッカレッリ
アハメドくんのいのちのリレー / 鎌田 實、安藤 俊彦
戦争語彙集 / オスタップ・スリヴィンスキー
紛争地のポートレートー「国境なき医師団」看護師が出会った人々 / 白川優子
クリスチャン・ボルタンスキーー死者のモニュメント / 湯沢英彦
東北モノローグ / いとうせいこう
18歳のアトム 手塚治虫の鉄腕アトムから18歳のアトムへ / 手塚治虫、黒田征太郎、稲葉茂勝
新美南吉童話集
左川ちか全集



オスタップ・スリヴィンスキー「戦争語彙集」を借りて読む。時折、同じイベント参加者と軽く言葉を交わし、宵闇が降りた窓の外の景色を横目に黙々と読む。毎週、本を読みに訪れている山猫堂だけれども、設定されたテーマに基づいて選ばれた本の中から一冊を手に取って読む体験は新鮮だった。
また、普段からジャンルごとに本棚や屋内の至るところに置かれた本たちを目にはしていても、テーマごとにまとめられて並んでいる姿を見る機会はあまりなく、山猫堂の選書として複数冊をひとまとまりで提示される機会もなかったので、興味深さや面白さを感じている。次回が今から楽しみだ。
※選書自体は、普段から提供されている。過去のnoteでも記している通り、木津谷 氏から受けており、日々感謝している。
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