構造で見る④ 半導体 — なぜ同じなのに株価はここまで違うのか
「半導体銘柄を買おう」
そう思ったとき、あなたはどの会社を選ぶだろうか。
アドバンテスト、信越化学、東京エレクトロン。どれも「半導体関連」と呼ばれる。でも、ここまでの3回で見てきた「3つの構造」で分解すると、中身はまったく別の会社だ。
前回までのおさらい。
株価を動かすのは、業績構造・評価構造・需給構造の3つ。OLCは評価構造が壊れた。日清は業績構造が弱った。壊れている場所が違えば、処方箋も違う。
今回は、この3構造を「同じセクター内」で使ってみる。
アドバンテスト(6857)──AI時代の主役
まずは業績構造から。
2026年3月期の通期実績は、売上高1兆1,286億円(+44.7%)、営業利益4,991億円(+118.8%)。利益が2倍以上になり、過去最高を更新した。
原動力はAI関連半導体の検査装置(テスタ)需要。NVIDIAをはじめとするAIチップの性能が上がるほど、検査工程の重要性も増す。アドバンテストはこの分野で世界トップクラスのシェアを持っている。
さらに来期(2027年3月期)も売上1兆4,200億円(+25.8%)、営業利益6,275億円(+25.7%)と、成長の継続を見込む。
✅ 業績構造 → 売上+45%、利益+119%。来期も+25%成長予想。
✅ 評価構造 → PERは高いが、利益成長が追いついている。成長プレミアム。
✅ 需給構造 → 外国人投資家の買い旺盛。信用倍率も締まっている。
3つとも健全。③で整理したパターン3:成長加速型に近い。
信越化学(4063)──財務の鉄壁、利益率の低下
次は信越化学。半導体ウェハーの世界最大手であり、塩ビ樹脂でも世界トップだ。
通期の売上高は2兆5,739億円(+0.5%)とほぼ横ばい。一方、営業利益は6,352億円(-14.4%)と減益。電子材料事業は堅調だが、塩ビなど生活環境基盤材料事業の営業利益が前期比-43%と大きく落ち込んだ。
来期予想は未定。ただし自社株買い2,500億円(上限4,500万株)を発表しており、株主還元で下支えする姿勢は示した。
⚠️ 業績構造 → 売上横ばい、利益率は低下中。塩ビ事業が重荷。
🟡 評価構造 → PERは半導体銘柄としては低め。安定評価。
✅ 需給構造 → 大きな売り圧力はない。自社株買い2,500億円が下支え。
③のパターンでいえば、パターン2:構造劣化型に片足を入れかけている。日清と似た構図だが、財務の厚みと自社株買いが決定的に違う。崩れにくいが伸びにくい、「守りの優良株」だ。
東京エレクトロン(8035)──減益なのに最高値の謎
最後に東京エレクトロン。半導体製造装置で世界3位。
通期の経常利益は6,303億円(-10.9%)と減益で着地した。
ところが、株価は4月27日に上場来高値47,710円を更新した。減益なのに最高値。
なぜか?
Q4単独で見ると、営業利益率は28.9%と前年同期の28.0%から改善。減益トレンドの底打ちが見え始めている。背景は生成AI向けの設備投資が伸びていること。来期予想は未定だが、市場は回復シナリオを織り込み始めている。
つまり東京エレクトロンは、「いま」の業績ではなく「これから」の期待で買われている。
⚠️ 業績構造 → 通期は減益着地。ただしQ4は回復兆候。
🟡 評価構造 → PBR10倍超、ROE27%台。高いが成長期待が支える。
✅ 需給構造 → 上場来高値圏。AI半導体投資への期待で資金が流入。
OLCと似た「高評価」だが、違いは明確だ。OLCは期待が剥がれた。東京エレクトロンは期待が積み上がっている。同じ高PERでも、その方向が違う。
3社を並べて構造で見る
🚀 【アドバンテスト】── 成長加速型
業績✅ 評価✅ 需給✅
AI検査装置で利益2倍。来期も+25%成長。3つの構造がすべて追い風。
🛡️ 【信越化学】── 安定だが停滞型
業績⚠️ 評価🟡 需給✅
財務は鉄壁だが利益率が低下中。自社株買い2,500億円で守りを固める。
🎢 【東京エレクトロン】── 期待先行型
業績⚠️ 評価🟡 需給✅
減益なのに最高値。「これから」への期待が株価を支えている。裏切られれば急落リスクも。
「半導体」で括るな、構造で見ろ
3社はすべて「半導体銘柄」と呼ばれる。でも中身はまるで違う。
アドバンテストは「いま」伸びている。
信越化学は「いま」停滞している。
東京エレクトロンは「これから」に賭けられている。
セクターやラベルで選ぶのは、構造を見ていないのと同じだ。
このシリーズで見てきた「業績構造・評価構造・需給構造」の3つは、どんな銘柄にも使える。OLCでも日清でも半導体でも、問いは同じだ。
① 稼ぐ力はどうか?
② 市場はいくらで評価しているか?
③ 誰が売って、誰が買っているか?
この3つを自分で確認できるようになれば、
「なんとなく投資」から卒業できる。
本記事は企業分析および投資教育を目的とした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
2026年3月期通期決算(2026年4月下旬発表)および公開情報をもとに作成しています。

