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構造で見る⑨ キオクシア(285A)——IPO半年で”日立超え”、市場はキオクシアの何を買っているのか

IPO価格1,455円。初値は1,440円。公募割れだった。

それが、わずか1年半で株価は30倍。時価総額は23.7兆円。日立もアドバンテストも抜いて、国内6位に浮上した。

かつて東芝の一事業部門だった会社が、なぜここまで買われるのか。

答えは「今の利益」ではない。


前回までのおさらい。

構造で見る④では、
同じ「半導体」でも
構造が違うことを示した。

株価を動かすのは、業績構造・評価構造・需給構造の3つ。壊れている場所が違えば、処方箋も違う。

今回は、この3構造を「いま最も株価が動いている銘柄」にぶつけてみる。


キオクシアとは何の会社か

一言で言えば、「記憶」を売る会社だ。

スマホの写真も、パソコンのファイルも、AIが学習するデータも、すべて「NAND型フラッシュメモリ」に保存される。キオクシアはこのNANDメモリで世界シェア約20%、世界3位の専業メーカーだ。

2017年、東芝の経営危機で切り出された「東芝メモリ」が前身。2024年12月に東証プライムに上場し、4年越しの悲願を果たした。

ここまでは「元東芝の半導体会社」という話で終わる。

しかし市場は、この会社に23兆円の値段をつけた。日立製作所よりも高い。なぜか。


業績構造——数字だけ見ると、実は減益

ここが面白い。

2026年3月期のQ3累計(4〜12月)は、売上1兆3,348億円(前年比-1.8%)、営業利益2,736億円(同-34.0%)。減収減益だ。

「え、減益なのに株価30倍?」

そう思うのが普通だ。しかしQ3単独(10〜12月)で見ると増収増益に転じている。つまり、業績の底は打っている。

さらに重要なのは前期の数字。2025年3月期は売上1.7兆円(+58.5%)、営業利益4,518億円(+279%)と、文字通り爆発的な成長を記録した。営業利益率は26%。

今期通期では営業利益は約8,000億円と前期比8割増が見込まれている。来期(2027年3月期)のアナリストコンセンサスはさらにその先、営業利益3兆円超という数字すら出ている。

市場が見ているのは「今の数字」ではなく、「これから来る利益の爆発」だ。

⚠️ 業績構造 → Q3累計は減収減益。しかし底打ちし、通期・来期は大幅増益見込み。過去に利益が3倍になった実績があるからこそ、市場は期待を織り込む。


評価構造——高いのか、安いのか

時価総額23.7兆円。PBRは10倍超。数字だけ見れば「高い」。

しかし、来期の営業利益が仮に3兆円になるなら、EV/EBITDA(企業価値対利益倍率)で見ると必ずしも異常ではない。成長率を加味すれば、「高いが、利益がついてくれば正当化される」水準だ。

問題は、その利益が本当に来るかどうか。

キオクシアの業績はメモリ価格に直結する。NAND価格が上がれば利益は爆発し、下がれば急落する。2022年〜2024年の市況悪化では、業界全体が大幅な減産と投資抑制を余儀なくされた。

つまり今の株価は、「AIデータセンターの需要がNAND価格を押し上げ続ける」というシナリオへの賭けだ。

🟡 評価構造 → 今期ベースでは割高。来期ベースでは正当化可能。ただしメモリ市況次第でシナリオが崩れるリスクあり。


需給構造——全員参加型の熱狂

5月7日、ストップ高。1日で+19%。

3月の月間売買代金は16兆円超。東証プライム市場で最大だ。機関投資家の買いに個人も追随する「全員参加型」の相場になっている。

信用倍率は高く、買い残が圧倒的に多い。強気ポジションが積み上がっている分、悪材料が出た時の反動も大きい。実際、2025年11月の中間決算が期待を下回った翌日にはストップ安(-23%超)を記録した。

5月15日の決算発表は、この需給バランスが維持されるか崩れるかの分岐点になる。

✅ 需給構造 → 資金流入は圧倒的。ただし信用買い残が多く、期待が裏切られた場合の急落リスクも大きい。


構造で見ると何がわかるか

キオクシアの株価を動かしているのは、「今の業績」ではない。

業績構造は底打ちしているが、まだ減益の途中だ。それでも株価が30倍になったのは、評価構造と需給構造が「未来の利益」を先食いしているからだ。

構造で見る⑤で取り上げたソフトバンクGと似ている。SBGも「赤字なのにストップ高」だった。市場が「今の利益」ではなく「何を持っているか」を買っていた。

キオクシアも同じだ。市場はキオクシアの「今の利益」ではなく、「AIが作る未来のメモリ需要」を買っている。

違いがあるとすれば、キオクシアには実際に利益がついてきていること。前期の営業利益率26%は本物だ。ただし、それがメモリ市況という「波」の上にあることも忘れてはいけない。


5月15日の決算で何を見るか

市場が注目するのは3つ。

1つ目は来期ガイダンス。営業利益3兆円という市場期待に対し、会社がどこまで出すか。

2つ目はNAND価格の見通し。Q4(1〜3月)で販売単価がどれだけ上昇したか。

3つ目はAIデータセンター向けの受注動向。エヌビディアとの共同開発SSDの進捗も含め、「AI需要が一過性でない」ことを示せるか。

期待に応えれば、株価はさらに上がる。裏切られれば、11月のストップ安が再現される。

どちらに転んでも、「構造」が変わったかどうかで判断する。


「半導体」で括るな、構造で見ろ

構造で見る④では、同じ「半導体」でもアドバンテスト・信越化学・東京エレクトロンの構造はまったく違うことを示した。

キオクシアはさらに異質だ。検査装置でも製造装置でも素材でもない。「記憶」そのものを売っている。

そして、メモリ市場は「サイクル」で動く。業績が良い時は天井知らずに見えるが、悪い時は赤字に転落する。この激しい波の中で、市場が今キオクシアに賭けているのは「AIがサイクルを壊す」という仮説だ。

その仮説が正しいかどうか。5月15日の決算が、一つの答えを出す。


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本記事は企業分析および投資教育を目的とした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

記載のデータは2026年3月期第3四半期決算(2026年2月発表)、2025年3月期通期決算および公開情報に基づきます。

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