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構造で見る⑫ 損害保険 ——「最高益」の裏で、3社の構造改革はここまで違う

損保3社の2025年4〜12月期決算は、合計の純利益が2兆747億円。前年同期比+17%。3社揃って最高益を更新した。

東京海上HD(8766)が8,992億円。MS&AD(8725)が6,571億円。SOMPO HD(8630)が5,183億円。

数字だけ見れば「損保は全部好調」だ。

しかし構造で見ると、3社の「好調の理由」と「次に何が起きるか」がまったく違う。


業績構造 ——なぜ最高益なのか

3社に共通する追い風が3つある。海外保険事業の好調、国内火災保険の料率引き上げ、そして政策保有株式の売却益だ。

しかし、この3つの「効き方」が3社で違う。

東京海上:「海外利益の王者」

東京海上の強みは圧倒的な海外利益比率だ。北米・欧州の特殊保険(スペシャルティ)で稼ぐ構造を持つ。

通期の純利益は1兆円に到達する見込み。政策保有株の売却額も当初の6,600億円から7,210億円に上方修正した。売却益も利益を押し上げているが、本業の保険引受利益が太いのが東京海上の構造的な強さだ。

バフェットが日本の損保に注目した理由も、この「海外で稼ぐ保険会社」という構造にある。

MS&AD:「合併で構造を変える会社」

MS&ADは、傘下の三井住友海上とあいおいニッセイ同和の合併を2027年4月に控えている。

Q3で通期計画の5,900億円をすでに超過した。にもかかわらず計画を据え置いたのは、降雪被害の支払い増や金利動向の不確実性を織り込んでいるからだ。保守的だが、裏を返せば「上振れ余地が大きい」。

MS&ADは、
3社の中で最も“変身途中”だ。

合併効果は、
まだ市場に完全には織り込まれていない。

SOMPO:「介護の構造改革」

SOMPOの特異性は介護事業だ。損保大手で唯一、介護を中核事業の一つに位置づけている。

Q3の純利益5,183億円は前年同期比2倍。資産運用事業が株高・金利上昇の恩恵を受けた。自社株買いも1,550億円と積極的だ。

ただしSOMPOの構造的な課題は、旧ビッグモーター問題に端を発する信頼回復にある。カルテル問題も含め、ビジネスモデルの抜本改革が求められている。

⚠️ 業績構造 → 3社とも最高益だが、理由が違う。東京海上=海外保険の本業利益、MS&AD=保守的計画+合併控え、SOMPO=資産運用+構造改革。


評価構造 ——政策保有株売却がもたらす「一時的な利益」

損保3社の業績を押し上げている要因の一つが、政策保有株式の売却だ。東京海上だけで7,210億円。

これは「構造改革」であると同時に「一時的な利益の嵩上げ」でもある。売却が一巡すれば、この利益は消える。

市場が評価すべきは「売却益を除いた本業の利益がどれだけ伸びているか」だ。

東京海上は本業の保険引受利益が太いため、売却益がなくなっても評価が大きく崩れにくい。一方で、売却益への依存度が高い会社は、一巡後に評価の修正が入る可能性がある。

もう1つの評価軸はコンバインド・レシオ(保険収支の効率性)だ。100%を下回れば保険本業で利益が出ている。自然災害の多寡で大きく変動するが、構造的にコンバインド・レシオを改善できている会社は、長期的な評価が高くなる。

🟡 評価構造 → 政策保有株売却益は一時的。本業利益(保険引受利益)とコンバインド・レシオで3社の「本当の実力」を見る。


需給構造 ——バフェット効果と外国人マネー

損保株の需給を語る上で無視できないのが「バフェット効果」だ。

バフェットが日本の商社株への投資を公表して以来、日本の大型バリュー株への外国人の関心が高まった。損保はその延長線上にある。高ROE、高配当、自社株買い。外国人が好む要素が揃っている。

加えて、損保3社はいずれも自社株買いに積極的だ。SOMPOの1,550億円(発行済み株式の7.4%)をはじめ、3社とも株主還元を強化している。これは需給面で株価を下支えする。

ただし、自然災害リスクは常に需給を崩す可能性がある。大型台風や地震が発生すれば、支払い保険金の急増で業績が急変し、需給も逆転する。

✅ 需給構造 → バフェット効果+自社株買い+高配当で外国人が買い。ただし自然災害リスクが構造的な不確実性。


構造で見ると何がわかるか

3社は同じ「損保」だが、構造改革のステージが違う。

東京海上は「完成形に近い」。海外利益基盤が確立し、政策保有株売却も大規模に進行中。最も安定した構造を持つ。

MS&ADは「変化の最中」。2027年の合併を控え、構造変化が最も大きい。上振れ余地もリスクも3社で一番大きい。

SOMPOは「再出発」。ビッグモーター問題からの信頼回復と、介護事業の差別化。3社で最もユニークだが、不確実性も高い。

「損保を買おう」ではなく、「どの段階の構造改革を買うか」だ。


5月20日の決算で何を見るか

損保3社の通期決算発表は5月20日だ。

注目は3つ。

1つ目は来期ガイダンス。政策保有株売却の一巡後、本業利益でどこまで成長を見通せるか。

2つ目は株主還元方針。自社株買いの規模と配当方針。PBR改善への継続的なコミットメントがあるか。

3つ目はMS&ADの合併進捗。統合効果の具体的な数字が出るか。構造変化が「期待」から「実績」に変わるかどうか。

メガバンク、証券、そして損保。金融セクター3社の構造を並べると、同じ「金利の恩恵」でも、稼ぎ方と構造改革のステージがまったく違うことがわかる。

「金融株」で括るな。構造で見ろ。


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本記事は企業分析および投資教育を目的とした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨・勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

記載のデータは2026年3月期第3四半期決算(2026年2月発表)および公開情報に基づきます。

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