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インドのシルク屋で組体操した話⑤ バラナシへ。5時間遅れの列車と変態ガイド


5時間遅れの寝台列車


アグラを出て、バラナシへ向かう寝台特急に乗った。

乗り込む前にインテリと合流した。インテリというのはこの区間だけ手配した現地ガイドで、メガネをかけたギークっぽい見た目のイケてない男だった。ただ情報量が多かった。列車の追跡アプリを教えてくれた。今インドで流行っている芸能人の話をしてくれた。生ものは絶対に食べるなと言ってくれた。有益だった。インテリと呼ぶことにした。

ホームで待っていると、場内放送が流れた。

5時間遅れます、というような内容だった。ジャジャーン、という効果音付きで放送された。

ジャジャーン!

胸毛から3時間遅れという情報を事前に聞いていた。その情報を信じてホームに来た。現地で5時間に変わっていた。結果2時間待つことになった。42度の炎天下、汗だくでホームに2時間座り続けた。その間にも別の列車のジャジャーンが何度も鳴り響いた。どの列車も遅れていた。ジャジャーンが鳴るたびにこちらのイライラが積み上がった。


ようやく列車に乗り込んだ。寝台車だった。2段ベッドが並んでいて、インド人がすでに思い思いの場所に陣取っていた。アグラでの敗北がまだ頭に残っていた。油断が全ていけなかった。バラナシでは同じ失敗は繰り返さない。周りのインド人を全員警戒していた。荷物は自転車用の鍵で柱にくくりつけ、靴は枕にして寝た。

エアコンが顔面に直撃した。

寝台車のエアコンの送風口が、ちょうど寝る位置の顔面に向いていた。寒かった。向きを変えても別のエアコンが顔に当たった。インドで寒いという感覚を初めて味わった。顔が寒くてなかなか眠れなかった。仕方がないので本を読んだ。

持ってきていたのは沢木耕太郎の『深夜特急』ヨーロッパ編だった。インドを旅しながらヨーロッパを読んでいた。車窓に広がるインドの夜と、本の中のヨーロッパのギャップが凄まじかった。どちらが現実かわからなくなりそうだった。

腹が減った。物売りが「チ〜ップス、ビスケット、ケ〜キ!」「チャーイチャイチャイ!」と行き来していた。サモサが美味しそうだった。ただインテリに「生ものは絶対食べるな」と言われていたので、包装されたお菓子だけで過ごした。なんだかんだそのうち寝た。

朝、「チャーイチャイチャイ!」という売り子の掛け声で目が覚めた。チャイを買った。うまかった。

Kはクルタパジャマを着ていた。アグラで買ったやつだ。お腹が減ってげっそりしているKは、スピリチュアル感が倍増していた。クルタパジャマとげっそり感が合わさって、インドの修行僧のオーラを醸し出していた。周りのインド人もどこか敬意を払っているように見えた。象の置物で敗北した男とは思えない仕上がりだった。

修行僧の雰囲気を漂わすK。ちらりと危なかったので一応の配慮です。

窓の外を見ると、線路に猿がいた。牛もいた。普通にいた。誰も気にしていなかった。

聖地バラナシ到着

バラナシに着いた。ガンジス川沿いに位置するヒンドゥー教の聖地で、世界最古の都市のひとつと言われている。暑かった。デリーもアグラも暑かったが、バラナシも同様だった。とにかく暑くて次から次へと汗が出た。現地の言葉でパニ、つまり水が手放せなかった。飲んでも飲んでもすぐ汗になって出ていく感覚だった。

街には物乞いも多かった。身体を白く塗った宗教的な修行者のような人もいれば、いかにもという格好の人もいた。デリーやアグラでも見かけたが、バラナシは特に多かった。聖地だからなのかもしれない。


変態ガイド・ラウール登場


ラウールと会ったのはその日のランチだった。

バラナシのガイドとして手配した男だった。初対面の印象は、メガネをかけた知的な雰囲気の男だった。日本語がかなり話せた。袖からちらりと入れ墨が見えた。知的な雰囲気と入れ墨が同居していた。

「日本人の彼女がいるんですよ」

開口一番そう言った。日本語がうまい人間は大体詐欺師、という出発前の教えがまたよぎった。彼女がいることと詐欺師であることは別の話だ。ただ警戒は解かなかった。

ランチの後、ラウールが夜のお祈りイベントの特別席に誘ってきた。

また営業かと疑った。ラウールは言った。

「日本人はフレンドだからお金はいらない」

怪しい。タダかどうかをこれでもかと確認した。チップは払わない。払うとしても物々交換だ。その条件を飲むなら行ってやる。そういう気持ちで乗ることにした。


夜のイベントまで時間があった。ホテルの近くでパニを買おうとした。

屋台のババアから買うと、お釣りを渡してくれなかった。代わりにパニをもう1本追加してくれた。英語が通じなかった。押し問答になった。結果パニが2本になった。ババアは悪い人ではなかった。ただお釣りをくれなかった。以降このババアをパニババアと呼ぶことにした。



ガンジス川の夜のお祈り


夜、ラウールと再合流してダシャーシュワメード・ガートへ向かった。ガートとはガンジス川沿いの階段状の河岸のことで、沐浴や祭祀に使われる。ダシャーシュワメード・ガートはバラナシで最も有名なガートで、毎夜盛大なお祈りのイベントが行われる場所だ。

道中、牛が道を塞いでいた。ラウールは牛をぶん殴った。牛はどいた。普通にぶん殴った。この男、すぐ手が出る。

特別席からガートのお祈りイベントを見た。たくさんの灯籠が川に流れ、僧侶たちが炎を掲げ、鐘が鳴り響いた。荘厳だった。デリーからここまで、毎日何かに騙されるか疑うかしてきた。それでも来てよかったと、この瞬間初めて素直に思った。インドという場所は、こういう顔も持っていた。

ラウールはその横で日本人の彼女に電話していた。全然通じていなかった。落ち込んでいた。慰めるために日の丸の鉢巻きを巻いて写真を撮った。ラウールは少し元気になった。日の丸の鉢巻きは人を元気にする力があるらしかった。

少し元気がでたラウール

熱々タプタプの袋ラーメン

その後、Kがカレーに飽きたと言い出した。

「カレー以外の店に連れていけ」

ラウールに直接指示した。ラウールは迷路のような路地を案内し、チベット料理屋へ連れていってくれた。

店に入ると、女主人が出てきた。

ブラジル人だった。白人で、色気があり美人だった。

ラウールの目の色が変わった。

そこからラウールはずっと口説いていた。ガイドのクセに口説きに集中してんじゃねえよ、と思った。
こちらはカレー以外の飯を食いに来ただけなのに、なぜガイドの恋愛交渉を見守っているのか。
料理が来ても口説いていた。結婚しているのか、恋人はいるのか。女主人は困った顔をしながらも愛想よく対応していた。慣れているようだった。

「私はシヴァ神と結婚しているのよ」

何度断っても、ラウールは引かなかった。シヴァ神に勝てると思っているのか。

店はエアコンがなく暑かった。テイクアウトを頼んだら「やっていない」と言われた。暑いのは嫌だったが、テイクアウトができないなら店で食べるしかないと思っていた。しかしラウールが「持ち帰れ」と強く主張した。現地ガイドのくせに、暑さに一番参っていたのはラウールだった。押し切られる形で無理やり持ち帰ることにした。チベット風ラーメンとモモをビニール袋に直接入れてもらった。スープごとだ。熱々でタプタプだった。袋が揺れるたびにスープが暴れた。持ち上げるだけで一苦労だった。できあがると早々に追い出された。

「センキューソーマッチマダム」

ラウールは名残惜しそうに店を出た。
「あのマダム、めちゃきれいだったね」
まだ引きずっていた。
Kはビニール袋のラーメンを食べづらそうに食べていた。


3人の青春

帰り際、ラウールが人力リキシャを呼び止めた。3人で乗ろうと言い出した。

どう見ても2人乗りだった。ガリガリに痩せた運転手も「無理無理!」と言っていた。ラウールは金を握らせた。運転手は折れた。ラウールと私が座席に座り、一番体重が軽いKが膝の上に座った。

漕ぎ出しは大変そうだった。ガリガリがよろめいた。ただ流れに乗ると意外にすいすい進んだ。3人でぎゅうぎゅうになりながら、落ちる落ちると笑いながらバラナシの夜道を走った。

なんか青春だった。ラウールとKと私、まるで幼馴染みたいじゃないか。どんどんラウールに懐柔されていく自分がいた。

仲良しトリオ

帰り道、ラウールがまた女主人のことを思い出したように言った。

「あの太もも、、、パ◯パ◯したいよ〜」

変態野郎めと思った。


次回、⑥バラナシ2日目。ガンジスと太ももと殴り合い。

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