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インドのシルク屋で組体操した話⑦ バラナシのシルク屋に監禁された。友情の証を示せ

※第7話ですが、この話だけでも読めます。インド・バラナシのシルク屋で値段交渉をしていたら、なぜか店員さんたちと組体操をすることになった実話です。


決意


アグラの大理石屋で3時間粘って敗北した。クルタパジャマで1勝はしているが土産屋通算1勝1敗。バラナシのシルク屋が3度目の戦いになる。

ガイドのラウールには前日から言われていた。

「日本人はシルクが好きだろう。私の友人がやっているシルク屋に行こう。ファクトリー直営店だから安く買える」

ファクトリー直営店。その言葉は魅力的だった。ただ前日の夜に作戦会議をしていた。警戒はしていた。ただシルクは買ってもいいかもしれないとも思っていた。絶妙なラインだった。

シルク屋へ到着


シルク屋に着いた。午後だった。

「ここが友人のファクトリーだ」

ラウールが言った。店の奥に案内された。真っ暗だった。従業員が全員寝ていた。

ラウールが慌てて起こした。従業員たちが急に何かをくるくる回し始めた。さも最初から作業していたかのような顔をしていた。

いやこいつら寝てたやん。

ダミー工場だった。


店の下っ端によるシルクの説明が始まった。おばあちゃんとお母さんへのシルクのお土産は悪くないと考えていた我々は商品の質問や値段交渉を始めた。

ふと入り口を見た。閉まっていた。いつの間にか店員が一人、扉の前にさりげなく立っていた。さりげなく、だが確実に塞いでいた。大理石屋の光景が頭をよぎった。また始まった。

Kが下っ端と会話しながら品物を選んでいる間、ラウールが突然耳元でヒソヒソ言ってきた。

「パ◯パ◯しない?いい娘がいるんだよ〜」

普通に怖かった。断った。するとラウールが含みを持たせて言った。

「実は、、、、パキスタンガールもいるんだよ」

だからなんだよと答えた。ラウールは「パキスタンだよ!?めちゃええやん!なんで断るの!?」と目を丸くした。パキスタンであることが付加価値になる世界線があるらしかった。インドの土産屋でそういう店を勧められるとは思っていなかった。

私にパキスタンガールを紹介することを諦めたラウールは、交渉に参加し始めた。Kにはあとで話した。

それ以降も交渉の合間にラウールは耳元で何か言ってきた。そのたびに「いらないです」と返した。ラウールはそのたびに「なんで!?」と心底不思議そうな顔をした。我々の価値観とラウールの価値観の間には、ガンジス川よりも深い何かが横たわっていた。


しばらくすると、奥から貫禄のある男が出てきた。ボスだった。ラウールが「こいつらは日本のフレンドだ、精一杯ディスカウントしてくれ」と本気か演技かわからない交渉を始めた。

交渉中の私とラウールとボス

最終奥義組体操へ

店に入って2時間が経った。手元のパニが空になった。今日もパニババアから2本買っておいてよかった。そろそろ本丸だ。概ねの購入品が決まり、値段がそれ以上下がらなくなってきた。Kと目を合わせた。切り出す時だ。

私は口を開いた。

「我々は短いながらも濃い時間を共に過ごし、お互いのよりよい結果を求めて交渉をしてきた。私とKはあなたたちにとても親近感を感じている。そこで日本式の友情の証を示さないか。ジャパニーズトラディショナルフレンドシッププルーフだ」

ボスは怪訝な顔をした。続けた。

「インドではガンジスが聖なる川として崇められているが、日本では富士山、マウントフジが聖なる山として崇められている。この聖なる山マウントフジを全員で身体で示そう。それができたら我々は真の友となれる」

従業員たちが顔を見合わせた。ラウールも困惑していた。ボスは訳がわからんという顔で渋った。

Kが静かにこちらを見た。マウントフジをやるのが当然だという顔だった。

ボスはまだ渋っていた。私はため息をついてKに話しかけた。

「残念だな。真の友人になれると感じていたのに、このまま帰るか」

Kは心底残念そうな顔をした。名演技だった。

ボスが慌てた。全従業員を集め始めた。

組体操が始まった。

扇の形に全員が並んだ。マウントフジを模した扇が完成した。みんな笑顔になっていた。ボスも撮影していた。人数が余ったので余りメンバーに○×の札を持たせて○を出すよう指示した。しかしその一人が頑なに×を向けて写真に写っていた。何度言っても直さない。最後の抵抗だったのだろうか。なにが×なのかはわからなかった。

ジャパニーズトラディショナルフレンドシッププルーフ

とにかく私とKは完全に主導権を奪った。こちらの土俵に引きずり込めた。

組体操が終わった後、ボスもラウールも笑顔になっていた。さっきまでの緊張感が消えていた。敵ではなく仲間になった空気だった。その隙に懐へ入り込む形でダメ押しの交渉をした。2割ほど下げることに成功した。シルクを無事購入できた。

ボスとK。友情が垣間見える笑み

土産屋戦績:2勝1敗。


帰り際、ラウールがお金を欲しそうにしていた。友人としてやっているというていを保ちながら、それでもお金が欲しそうだった。

ここで物々交換だ。カバンから100均の時計を取り出した。

「この時計はラウールに渡したい」

するとKが心配そうな顔で止めてきた。眉をひそめて首を横に振っていた。その時計は大切なものなのでは、という顔だった。

こいつは演技なのか本気なのかわからなくなるほど表情作りが上手かった。一瞬、本気でこれ大事なやつだっけと思ってしまった。

「ラウールは短い間だが非常に良くしてくれた。この時計は大切なものだが友情の証として渡したいんだ」

Kの制止を振り切り、ラウールに時計を差し出した。

「ジャパニーズニューハイテクブランドウォッチだ」

ラウールは目を輝かせた。

「どこ押したら光るの!?」

喜んでいた。次に印鑑を取り出した。

「ジャパニーズトラディショナルアイテムだ。私のファミリーネームが書いてある。日本ではオフィシャルドキュメントには必ずこれを使う。ファミリーの証だから受け取ってくれ」

ラウールは印鑑を見て言った。

「これは、、大丈夫だよ、、」

返してきた。無理やり押し返した。「俺らはファミリーだから」と涙ぐむ演技をしながら渡しておいた。

ラウールと別れた。濃い奴だった。

これからバラナシに行く人は、妙に下ネタが多く、なぜか日本の印鑑を持っているガイドにご注意を。

買ったシルクは帰国後、おばあちゃんとお母さんへのお土産になった。2人とも普通にきれいなシルクだと思ったはずだ。その裏にこの狂った経緯があることは知らない。


次回、⑧バラナシ最後の夜。人力氷と心優しい少年たち。


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