このマンションに住みたい── 母の願いは、私を巻き込む命令
広くて不自由だった一軒家
富山は全国でも持ち家率が高い地域です。我が家も例にもれず、庭付きの一軒家でした。 土地も家も広く、それだけで手が回らない場所も増えていきました。
母にとっては、もともと手が回っていなかった暮らしが、年齢とともにさらに厳しく、しんどいものになっていったように見えました。
暮らしに手が回らなくなった現実
母はもともと片付けが得意なタイプではなく、広い家には物が溜まり放題。 2階へ上がることも減り、“使わない部屋”が増え、掃除や庭の手入れは後回しになっていました。
「掃除してる」と言いながら掃除の気配はない
母は「掃除してる」と言ってましたが、生活範囲以外の場所は存在しない部屋という認識をしているかのようでどう見ても手付かず状態。
なので私が富山へ行った際にまとめて掃除をしていました。
母は、人から指摘されることを極端に嫌う人で、常に自分が正しいと信じて疑わないタイプです。
掃除の話を出すと逆にこちらが責められるような空気になり、事実を指摘したとしても意味がないと私は感じていました。
口論になって掃除をしていないことを認めさせたとしても、結局は無意味。
だから私はあえて反論しませんでした。
雪かきはなかなか過酷です
雪かきは高齢の母にとって大きな負担になります。 市内に住んでいたため、雪に閉ざされるようなことはまずありませんが、それでも積もれば転倒のリスクは十分あります。
実際、玄関から道路、駐車場までの雪かきは滑ってケガをする危険もあるので、私は業者を手配したり、自分で出向いて除雪をしたりしていました。
近所に妹が住んでいましたが手伝いに来ることはなく、転ばれでもしたら大変だと思うと、結局私が行っていました。
母が口にした「私はこの家は好きじゃない」
かつては家族が住んでいた家。長年そこに住み続けてきた家です。
母にとっては “一軒家は重荷” になっていたようでした。
母が不自由している様子を見て、私は掃除の手伝いに行くこと自体に抵抗はありませんでした。
けれど、富山は遠く、私にも仕事がある。
気軽に通える距離ではなく、正直負担に感じることも多かったです。 それでも、高齢の母が一人で暮らしているという状況が気になり、「仕方ない」と自分に言い聞かせて動いていました。
「このマンションに住みたい」母の本気度
母が「マンションに住みたい」と言い出したのは、父が亡くなった後のことでした。 それまで家に愛着を見せたことのなかった母は、「あんたが住んでいるようなマンションに住みたい」とたびたび口にしていました。
父がよく手入れしていた家や庭木は、母にとって関心の外にあり、荒れ放題。 掃除は「人が来るときだけ」はしていましたが、そもそもそれも億劫らしく来客は玄関まで、人が来ること自体を面倒に感じている様子もありました。
もともと母は家に人が来るのを快く思っていなかった節があったので
私が実家に住んでいた時も友人を呼ぶことを嫌がり、叶いませんでした。
そんな中で、母が「このマンションを買ってほしい」と言ったのです。
私は東京に住んでいて、自宅のローンもまだ残っている。
そこへさらに、富山で、しかも新築マンションを買ってほしい、というのは容易に賛成できる簡単な話ではありません。
でも、母の本気度はすごかった。
何が何でも買うまでは絶対に引かないという気迫が感じられ、私の反応次第でさらに押し切る圧もありました。
母が希望していたのは、自宅から歩いて2〜3分ほどの場所の建築中のマンション。 生活圏はそのままなので、引っ越しをしても何ら影響が出ない。
私が東京でマンション暮らしをしていることもあり、それがとても快適に見えていたのかもしれません。
とにかく「そのマンションに住む」ことに母は執念のようなこだわりを見せていました。
当然ながらモデルルームへは毎日のように通っていました。
「実家を売ってマンションを買う」と決断した
母が新築マンションにこだわった背景には、見栄も多分にあったのかもしれません。 父が認知症だったことは近所の人に一切伝えておらず、むしろ必死で隠してました。
ですがどこかで知られていたのではないかと思っています。それでも頑なに隠していました。
だからこそ新しくできた綺麗で便利なマンションで暮らすということを、
“マウント” したかったのではないかと、私は思っています。
そして、気に入らないこの家で暮らしていくのがとにかく嫌だったんだろうと思います。
私は考えました。 母がこの一軒家で一人で暮らし続けたとして、何かあったときに気づける人は果たしているだろうか。
マンションでの暮らしなら、管理人もいて、誰かの目がある。
何より、掃除や雪かきといった物理的な負担がぐっと減る。
バリアフリーだし同じフロアですべてが済む。
そして想像してみました。
このまま一軒家に住み続けたらいつか段差につまづいたり、雪で転倒する日が来るだろう。
そしたら入院になり、そのまま筋力が落ちて歩けなくなり、そのまま寝たきりになったら、さらに負担が増えるではないか。
それなら、いっそマンションの方がいいのではないか──
そんなふうに思い始める自分もいました。
正直、母があまりにもしつこく言い続けるので、私としても「もう黙ってほしい」という辟易した気持ちの方が強かったかもしれません。
一軒家を暮らしやすくリフォームしたほうが予算的にはまだ安く済むし提案もしました。
聞きいれることも、聞く耳もなく、とにかくマンションに暮らす!の執念がすごかった。
なので決断しました。
実家を売って、母が望んだマンションを買うことを。
母の希望を叶えることは、私自身の安心にもつながるんだ。
そう思えたからです。
……けれど、この決断は本当に正しかったのか。
その答えを私は、これからの日々で考えることになるのです。
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