企画「私のソウルフード2026」参加作品レビュー①五十嵐雉虎さん編
note参加一周年記念個人企画「私のソウルフード2026」にご参加の皆さん、ありがとうございました。
お仕事や執筆でお忙しい中、文章をお寄せくださいまして、感謝の気持ちでいっぱいです。
本日より、個別にレビューを書かせていただきます。
お一人目は、五十嵐雉虎さんです。
「忘れられない、あの日のカレー」には、三人の登場人物がいます。そこには善意の人しかいません。
ショートショート作品を得意とする五十嵐さんの作品としては、少し意外な印象です。
中学三年生になる前の春休み。おそらく、宿題もないでしょう。子どもたちにとっては最高の時間です。午前中からゲームに興じる五十嵐くんと山田くん。昼が近づいて昼食の準備をする五十嵐母。台所から漂うカレーの匂い。
慌てる五十嵐くん。なぜ?
山田くんはカレーが好きだという小学生の時の情報が、未だにアップデートできない母。
いつのまにか、カレー通でうんちくを傾けるような中学生になっている山田くん。そこに登場するりんごとハチミツ入りの甘いカレー。ここで、五十嵐くんと読者のハラハラはマックスに。
「…これ、カレー?」
「"俺"にとっては、これがカレーで、この味が好きなんだ」
二人ともエライ!
山田くんは甘いカレーとともに、それ以降の言葉を飲み込み、五十嵐くんは言うべきことを言ってお母さんを守ったのです。
子どもの成長のスピードは、親が思うよりずっと速い。親にとっては少々辛い面もあるが、甘いカレー事件で、五十嵐母もそのことに気づいたのです。五十嵐くんが地の文では「僕」と言っていたのに、山田くんには「俺」と言っている部分には、少年から思春期に向かう男の子の気負いを感じます。
五十嵐雉虎さんの上手いところは、こういう箇所にも現れています。緻密に組み立てていて、字数は少なくとも作者が言いたいことはきちんと伝えています。
noteでの交流を通して、このように素晴らしいクリエイターに出会えたことに感謝しています。
