Photo by
waraineko
【創作大賞2025応募作・ミステリー小説】サウザンド・ティアーズ④ ~うまくいってるなんて思えた事は一度もない。ただ、涙を流さずに生きるだけで精一杯だ。
■
慶次朗は泣けるだけ泣いた。
誰憚る必要もなく、動かない恵美の横で床にへたり込み、大人気なくワンワン泣いた。
嗚咽し過ぎて、肺が痛い。
慶次朗は咳き込んだ。
リノリュームの床に、慶次朗の涙が盛大に零れた。
涎も鼻水も床に落ちた。
床には、小さな水溜りができていた。
1cc なんて、絶対に嘘だ。
こんな時に流れる涙は無限だ。
人が一生のうちで流せる涙の量は1000cc。
そう言ってた恵美姉の言葉が本当だとすると、今日を境に俺はもう泣けなくなるのか?
俺の涙はまだ、千回には達してないのに?
いや、恵美姉の言ってる事は全部正しいはず。じゃあ、俺はもう泣けないくなる?
まあ、いいんじゃないか?今日以上に悲しく辛い事は、俺には起きないだろう。
でも…
考えているうちに、慶次朗の涙は急に涸れた。
泣いてる場合じゃねえと思うようになった。
我を取り戻した慶次朗は、ポケットチーフを取り、涙を拭いた。
それでも、まだ身体に力が入らない。泣き過ぎて、全身のエネルギーを使い切り、カスカスになってしまったからだ。
慶次朗はのろのろと立ち上がった。そして、もう一度、恵美の顔を見た。
ところどころ剥げ落ちてるファンデーションで分かりにくくなっていたが、恵美の両目の端に涙が流れた跡がうっすら残っていた。
恵美姉も泣いたのか…
この涙は、恵美姉の何回目の涙なんだろう?
千回には程遠いよな。
それなのに、死んじまって…
いや、それは違うな。
恵美姉は、殺されたんだ。
殺したヤツを俺は絶対に許さねえ。
慶次朗の足に力が入った。
もう大丈夫だ。
慶次朗はこの部屋を出た。
