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【創作大賞2025応募作・ミステリー小説】サウザンド・ティアーズ㉝~うまくいってるなんて思えた事は一度もない。ただ、涙を流さずに生きるだけで精一杯だ。

金木が近づいてくると、ものすごく汚れ、げっそりとやつれている事が分かった。

髪は伸び放題だし、着ている白かったはずのシャツは、薄汚れて黄土色に変色していたし、スラックスは膝が抜け、靴は泥だらけだ。
不思議な事に、髭はあまり生えていなかった。

金木は拳銃を固く握りしめ、立ち尽くす慶次朗と山野辺の辺りに銃口を向けていた。意人は、山野辺の背中に隠れた。

「帰ってくるとこ見てたよ。君のバイク、後輪がパンクしたみたいだね?大丈夫なのかな?」
「いや、大丈夫じゃないね。修理にだいぶかかると思う。あれって、金木君の仕業なのかな?」
「いや、それは違うね。だって僕は今、ここに着いたんだからね」
「そうか…じゃあ、金木君、何でここに来たんだい?」


金木は黙った。
そして、慶次朗たちの方へゆっくり歩きだした。


「なあ、ケイ、人生って、何でこんなに不公平なんだ?」
「どういう事だ?」
「人が殺し合う場所にいたお前が、ここで幸せそうに暮らしてる間、俺は逃げ回って…何度逃げても、どこに逃げても、ずっと追っかけられて…もういよいよ逃げ場がなくなって…俺さあ、盗んだ自転車で久里浜からここまで来たんだよ。もう一か月近く、橋の下とかで寝泊まりしてる。なあ、何でなんだ?」
「そりゃ、簡単だろう。お前が盗んじゃいけない金を盗んだからだ。俺は誰の金も盗んじゃいない」
「盗む?俺は経費分を引いただけだ」
「過少申告して?」
「仕方がなかったんだ。バレないと思った」
「仕方がない?どういう事だ?」
「金丸連合は、会社組織にしてた。株式会社だ。表向きは金融トレード関係のコンサル会社で…うちに猿田ってヤツがいたの知ってるかな?」
「いや、知らない。そいつがどうした?」
「猿田は大学出で、FX関連の投資会社にいたんだが、僕が引き抜いて、うちで仮想通貨のトレードをやらせてたんだ。でも、その猿田が、客の儲けた金を持ち逃げしやがった。それも海外逃亡で、未だに行方知らずで…客っていうのが、またヤバいヤツらで、うちの会社で補填しなけりゃいけなくなって、でも、うちの金も猿田は根こそぎ持って行ってしまって。だから、僕は、あの4千万を元手に、返す金を作らなきゃいけなくなった」
「京極会を騙してまで、返さなきゃならない相手って、よっぽどじゃねえか」
「そうだね。よっぽどだ」
「誰なんだ?」
「関西」
「そりゃ、ヤバいな。お前んとこ、両天秤にかけてたのか?」
「うまくやれば、バレないと思ってた」
「でも、失敗した」
「…」
「それで?何でここに来た?何がしたいんだ?」
「ケイ、助けてくれないか?」
「助ける?どうやって?」
「君は、京極会に狙われない。池田さんが「君を狙うな」と言われてるからだ。そんなの不公平だ。だから、ケイ、君は僕と一緒に京極会へ行って、君の口から池田さんに「僕を狙うな」と、言って欲しいんだ」
「金はどうする?」
「200万は使っちゃったけど…ああ、そうだ、ケイ、200万、僕に貸してくれ。それで4千万にして池田さんに渡す」
「それで、大損させた顧客はどうするんだ?」
「それはまだ、考えていない。僕はとにかく、逃げ回るのをいったん止めたいだけだ」
「何でもいいけどさあ、さっきから聞いてりゃ、お兄ちゃん、ちょっと虫が良すぎやしないかい?大体、あんた、それが人にものを頼む時の態度かい?拳銃突き付けてさあ、助けてくれだなんて、よく言えたねぇ。それ、本物か?モデルガンじゃねえのか?」


山野辺はいきり立って言った。

金木の言葉のどれかが、山野辺を弾けさせた。
ゴチャゴチャうるせえ!そんな気分なんだろう。


「社長、やめて下さい。金木はこう見えて、歌舞伎町で名の通った半グレグループの代表だった男です。何をするか分かりません」

慶次朗は山野辺を諫めるように言った。

「「半グレグループだった」だって?金丸連合はまだ終わってないよ、ケイ。君が僕と一緒に池田さんのところへ行って、一緒に詫びてくれれば、きっと元通りになる」
「いや、無理だろう?第一、僕には君に貸す金なんてない」
「じゃあいいよ。3800万で手打ちにしてもらおう」
「それが通るとは思えないんだけど…」

金木もキレた。

逆ギレもいいところだ。


「ゴチャゴチャ、うるせえんだよお!僕は逃げるのにもう疲れちゃったんだ。ヘトヘトなんだよ。だから、何でもいいから、今から僕と一緒に池田さんに会いに行けばいいんだ!」
「もう、怒った!兄ちゃん、いい加減にしろ!」


山野辺が金木に飛びかかり、拳銃をもぎ取ろうとした。


金木が撃った。

パーンと乾いた音がした。

山野辺は後ろに倒れた。

右足の太腿を撃たれていた。

慶次朗は、意人を食堂へと走らせた。
意人は、食堂へ入った。

慶次朗は山野辺を抱き起した。

金木は拳銃を指にぶら下げて、ブルブル震えていた。

二階からは、悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
慶次朗は、望が叫んでるのだと思った。

「金木!」慶次朗が叫んだ。

金木の背後に、気配がした。
気配は後ろから金木の拳銃を取り上げ、それで金木の頭を殴った。
金木はその場に倒れた。

気配が姿を現した。


池田だった。


「ケイ、すまなかったな。すぐに救急車を呼んでくれ。それと、金木は一時、こっちで預かるから、警察には、撃ったヤツは逃げたとだけ、言っておいてくれ。金木は明日には出頭させるから。いいな?」
「分かりました」
「後、こないだ「もう二度と会わない」って言ったのに、もう会っちまって、すまなかった」
「これで、最後ですか?」
「そうだと、いいがな」
「そうっすね」

池田は、金木を抱き起し、外に止めてある車へ連れて出て行った。


慶次朗は警察と救急車を呼んだ。



山野辺は重傷だった。
太い血管に当たってしまったため、失血死の可能性が高かった。

緊急手術をしたが、生きるも死ぬも50:50だった。
山野辺が意識を取り戻さなければ、そのまま死につながると言われた。

慶次朗はずっと山野辺に付き添った。



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