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【創作大賞2026応募作・ファンタジー小説部門】Slit ㉗


カツカレーが私の前に届くと、宮西は既に食べ始めていた。


本当にカツカレーが届いてしまった…


事故後、私はいつも消化の良いものしか食べていない。
胃も腸も致命的なダメージは受けてないのだが、やっぱり無傷という訳にはいかなかった。そのため、病院の食事では水のようなお粥が長く続いたりした。

その性で、私は家ではヘルパーさんに作ってもらった七分粥を未だに食べている。おかずは大体茹でるか、蒸したものばかりだ。そして、それらは当然の事ながら、どれも薄味だ。


そこに来て、このカツカレーはどうだ!


別に皿に顔を近づけたりしてないのに、プンプンとスパイスのかぐわしい香りが鼻を衝く。

気が付くと口の中に唾が溜まっており、垂れると涎になってしまう。

だが、胃腸がびっくりしたりしないか?
その可能性は否定できない。

但し、宮西は私に「カツカレーでいいか?」と訊いてきた。
その時に私は、ダメならダメと言えばよかったんだろうし、食堂には、きっとうどんなどの消化の良いメニューがあったに違いない。

そう、私はカツカレーが食べたかったのだ。
宮西が「カツカレー」と言った時に、私の中でそれまで忘れ去られていたカツカレーの存在が急に浮上してしまった。


ええい、儘よ!

私はスプーンを取り、まずカツを一切れ食べた。
社員食堂にありがちな薄切り肉ではなく、きちんとした厚みのある柔らかい豚肉だった。

旨い!

それから、私は夢中で食べ進めた。

しかし、半分も食べないうちに、急に満腹感が襲った。それどころか、酷く胸が焼けてきた。

私は水を飲み、皿を遠ざけた。

「何だ、お前カツカレー好物だっただろう?もう食べないのか?それとも口に合わなかったか?」

心配そうな口ぶりで宮西が訊いた。

「宮西、一つ訊いていいか?」
「何だ?」
「俺ら、前の会社でそんなに仲良かったっけ?」
「何だ?それはどういう事だ?」
「お前は俺の好物がカツカレーだと言い切るほど、俺らは仲が良かったのかを訊いているんだ。俺がお前の前でカツカレーを食べたのは、あのキスフライを食いに行くとんかつ屋に二人で行った時に、あいにくキスフライが一つだけになってて、俺とお前でじゃんけんして、俺が負けて…普段の俺ならロースかつ定食にするところなんだが、その日はどうもそんな気分じゃなかったようで、趣向を変えて食った事が無いカツカレーを頼んだ。あれ、一回きりだと思う」
「そうか?俺はお前ともっと沢山一緒にカツカレーを食った覚えがあるぞ」
「いつだ?そして、お前は今、どうしてそんなに道化のようにはしゃいでるんだ?無理やり仲良く見せてるようにしか見えないんだが…」
「無理やりはしゃぐ?俺はただ、懐かしい気分になってるだけだ」
「懐かしいにも違和感を覚えるな。確かに俺たちはあのキスフライの店には必ず一緒に行った。だが、それ以外は俺はお前と一緒に昼飯を食った覚えはないし、俺は酒が飲めんから、夕食で一緒になった事もない。そして、キスフライ屋は、大体年間2~3回で、俺らがあの店に行き始めたのは、10年ほど前からだから、それを10年ぐらいの間で繰り返したので通算すると、最大でも10年で30回にしかならない。その間、俺は他の奴と、もっと多い回数一緒に昼飯を食っている」
「それは一緒に飯を食った回数の問題か?回数だけで仲の良さを測れるのか?」
「いや、そんな事はどうでもいい事だよ。話は遠回りになるから、もっと核心をついた事を訊いていいか?」
「何だ?」
「お前、俺を嵌めただろう?」
「何を…」


ノックがした。


またも会話が止まった。


さっき食事を運んできた食堂のスタッフが、コーヒーを持ってきた。
彼女たちは私と宮西の前にコーヒーを供し、カツカレーの皿を下げて出て行った。

「どういう事だ?お前、俺はこれでもこの会社の代表者だぞ。場合によっちゃあ、名誉棄損で訴える場合もあり得るので、ここからの会話は録音させてもらうぞ」

そう言って、宮西は内ポケットからICレコーダーを取り出した。きっとスマホだと長時間になった場合に不安があるからだろう。用意周到だ。

「録音?結構だ。但し、これから俺が話す事は全部が裏取りできている訳ではない。それどころか、大部分が俺の推測の域を出ない事ばかりだ。だから、大体の事について、俺はお前に質問するつもりで来たんだ。だから、俺の言う事が間違ってる場合は、都度指摘してくれ。お前の指摘に俺が納得したなら、それを了解するから。それでいいか?」
「ああ、分かった。じゃあ、録音を始めるぞ」
「結構だ」

多分、ICレコーダーはこけおどしだ。きっと、どこかで録画してるに違いないし、高性能のマイクで話は全て聞き取られてるんだろう。

「よし、じゃあ、鵜塚、話してくれ」

「宮西、お前、俺を嵌めただろう?」



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