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【創作大賞2026応募作・ファンタジー小説部門】Slit ⑬


しかし、うちの本部のリストラの噂の次は、中学時代の瑞希の友達からの嫌がらせの話か…

実際、二つとも覚えがあるので、僕は当時と同じように遭遇したのだろう。
でも、分からないのは、白川さんという人が、瑤子に殺された件に、この二つが関わってるという事だ。バンニンも言ってたが、スリットは無駄には開かない筈だから、きっと、何かの関係性があると思うのだが、瑞希の件は、まだ白川さんの娘である芽衣ちゃんがいる関係で理解できる。しかし、うちのリストラ話がどうかかわってるのか、今のところ、皆目見当がつかない。


どうしたものか…


そもそも、私は、会社に入ってから先、こんな事で頭を一杯にするなんて事をしてなかった。いつも頭の片隅には必ず仕事の事があった。

だから、仕事以外の事に、フルで頭を使う事に慣れてない。


いや、参ったなあ…


でも、分かった事もある。


前の二件では、私は当時と同じ対応をしてしまった筈だ。


あまりよく覚えてないが、多分そうだと思う。


それでは、きっといけないのだ。

真実を突き止めるという視点が必要だ。


何かが起きる。ちょっとしたデジャブ感を覚える。


その次だ。私はアクティブに対応しなければならない。
そう、真実を求めて、どん欲にならなければならない。
そのためには、今までにはない別の視点が必要なんだ。



そうだ。次はこれを忘れないようにしよう。


#3


2023年12月12日(火)


印字された。


「お客さん、そろそろ銀座四丁目の交差点を超えますよ。もうすぐ東銀座ですが、どの辺に停めましょうか?」


あっ!


私はタクシーの中にいて、ボーっと考え事をしていたようだ。

放出は、こんな感じでも起きるんだね…寝てるところだけじゃないんだ。
いや、意外…

「あっ、あの歌舞伎座を超えて、一つ目の信号を越えてすぐに左側に寄せて停めて下さい」
「歌舞伎座超えて、一つ目の信号も越えるんですね。分かりました」


私は和光の時計を見た。
夜の9時前だった。


こんな遅くに帰社?


スマホを見た。赤坂のスタジオへ行ってたようだった。

なるほど…ナレ録り、拘っちゃったんだなあ…押してしまったんだろう…

タクシーは指定した場所に停まった。

私は降りて、真っ直ぐに会社のあるビルの方向へ歩いた。
うちの本社は大きなビルにテナント入居している。
そのビルの1階の玄関はとても大きく、ビル前もゆとりのあるピロティが広がっている。
もう少しで、私はビルに入れる。と、そこに大町取締役が、エレベーターホールからセキュリティゲートを抜けてきたのが見えた。


えっ?ひょっとして?これって、さっきのアクティブ案件?


大町さんが、こんな時間まで会社にいたなんて、珍しいもんな。
だから、きっと、何かある。


私は咄嗟に、玄関の自動ドアの手前で、彼から見えないように潜んだ。

大町は、私に気づく事なく、自動ドアを潜り、外へ出てきた。


つけないと…


私は、大町から5mほど距離を置き、彼の後ろをつけた。
彼は昭和通りまで歩き、新橋方向の車線でタクシーを拾った。

私もタクシーを拾い、昔の刑事ドラマのように、「前の白い個人タクシーを追ってくれ」と、運転手に告げた。

「尾行っすね!わっかりました!お任せあれ」

運転手はちょっと前までヤンチャをしてたような若い男で、そう聞くと、俄然やる気を出した。
そして、強引に右車線へ進入し、大町を乗せた車のすぐ後ろに付けた。

「無理な運転はしなくていいからね。見失っても怒ったりしないから」
「ちょっと怖かったっすか?もう、あんな急ハンドルを切ったりしませんから、ご安心下さい。絶対に見失ったりしません」
「ああ、頼むよ。僕は運転が荒いのは怖いんだよ」
「気を付けますから、後で会社に電話したり、SNSで叩いたりしないで下さいね」
「そんな事はしないよ」
「お願いします」

大町が乗ったタクシーは、こっちに付けられてるのを感じてないようで、普通に前を走った。なので、私の車も滑らかに走った。

大町は、JR鶯谷駅前でタクシーを降りたので、私も車を停めてもらい、料金を払ってから車を降りた。
ドアを閉める前に、運転手は、私に向かって「刑事さん、頑張って下さい」と言った。
私は、ただ「ありがとう」と返した。


そんなやり取りで手間取っている間に、大町は、駅に向かう人に逆らって歩き、駅前のカフェに入っていくのが見えた。


私は慌てて、そのカフェの前まで行き、大きな窓から中を覗いた。
一階は、カウンターがあり、そこにはもう大町はいなかった。
一階の客席は満席だったので、大町は飲み物を買って、二階に向かったのだと思った。
店は小さめなので、私が入っていって、大町に見つからずに息を潜められる席はないだろうと思い、私は、店の入口が見える路地の向こう側にある電信柱の陰に佇んだ。


5分程待つと、大町は若い女性と連れ立って、店から出てきた。


女性はアイボリーの膝丈まであるダウンコートを着ていたが、短いスカートを履いてるようで、歩くと細い足が見えた。
身につけてるものがハイブランドなので、大人っぽく見えるのだが、カフェから出てきた時に、一瞬見えた横顔は、まだ幼さが残ってるように思った。


私は、今度は10mほど離れて、二人を尾行した。


大町が、人目を気にして周囲を見渡していたから、バレないように距離を置いたのだ。


二人はラブホテル街の路地を進んでいき、とあるホテルに入っていった。


うわ、どうするか…


私は潜んでいられる場所を捜した。
すると、ガードレールにグレーのタオルがぶら下がってるのが見えた。

全く不自然だ。


ああ、そうか…ここは、これで打ち止めなんだ…
そう思い、私はそのタオルを握った。


私の前に、乳白色のヒズミが現れ、その向こうにスリットが見えた。


私は、ヒズミの中に入ろうとしたが、ヒズミの半透明な乳白色越しに、路地の向こうから走ってくる見覚えのある制服を着た女子高生が見えたので、一旦、動きを止めた。


女子高生はどんどんこっちへ向かってくる。


えっ?


顔がはっきりと見えた。

瑞希だった。


何で、こんなところに瑞希が?


そう思ったが、私は強力な吸引力で、スリットに吸い込まれた。



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