【創作大賞2026応募作・ファンタジー小説部門】Slit⑳
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安っぽいシャンデリアもどきの電灯がほんのりと灯り、暗い店内を薄暗いと思える程度に照らしていた。
ここは、どこかのスナックだ。
閉店後なのか、そもそも客が来ない店なのかは分からないのだが、客席には誰もおらず、カウンターの中に白いニットを着た女性が一人で立っており、酒を飲み、電子タバコをふかしながら電話をしていた。
「そう、今から店を出るから、15分後ぐらいにはそっちに着くんじゃないかしら」
「―」
「じゃあ、席は大丈夫ね。後は手はず通りでお願いね」
「―」
「絶対にバレちゃダメよ。芝居がかったりしないでね」
「―」
「まあそうね。さんざん女を食い物にしてるあんたなら、きっと上手くやるわよね」
彼女は普段タバコを吸わないんだろうと思う。
じゃなけりゃ、あんなに忙しなくポッポ、ポッポと煙を吐き出したりしないはずだと思うからだ。
電話で話しながら、彼女はグラスも何度も口に運び、タバコを吸った。
酒は飲める方なんだろう。一回、一回の飲む量が多く、背の低い大ぶりのグラスに並々と注いである茶色い酒を三口で飲み干し、グラスが空くと、そこに新しい酒を注いでいた。
彼女はイラついている?
いや、焦ってる?焦れてる?
何に?
奥からドアが開く音が聞こえて、すぐに違う女性が戻ってきた。
よく見るまでもなく、その女性は瑤子だった。
「じゃあ、出かけるから、また後でね」
白いニットの女は、瑤子が出てくると、慌てたように電話を切った。
そして、瑤子に向かって言った。
「向こうの店に電話したわ。今なら席が取れるみたい」
「そう、良かったじゃない。私は化粧も直したし、すぐに出かけられるわ。白川さんは、もうお店閉められるの?」
「他に客もいないし、電気を消して、鍵をかけるだけでいいから、すぐに出られるわ。でも、鵜塚さん、本当にいいの?」
「いいに決まってるじゃない。じゃなきゃ、こんなに飲んでるのに、今からホストクラブに一緒に行こうだなんて言う訳ないわ」
「それはそうだけど…私の困り事にあなたを付き合わせるのが、良心が痛むわ」
「それももう言いっこなしよ。あなたからさっき聞いたばっかりの話だけれど、やっぱそのハルトっていう子は許せないわ。ハルトは白川さんに「真面目に好きだ」って言ったんでしょう?白川さんは最初は年の差があり過ぎるので断ってたのに、ハルトはずっと連絡してきて…それで、白川さんは店に通わなきゃならなくなって…まだ、お金的には続いてるうちは良かったものの、今はもう違うんでしょう?だったら、今、ハッキリさせないといけないと私は思う。大体、そんなの嘘に決まってるじゃない。中年になっても女は女よ。カッコイイ男に口説かれたりしたら、嫌な気はしない。でも、それは疑似。ハルトは真面目にって言ったかもしれないけど、でも、疑似は疑似よ。それをハッキリさせるために、今から出かけるのよ。そして、私立ち合いの元できっぱり手を切るの。じゃないと、さっき聞いたハルト君の売掛金の300万円は絶対に消えない」
「それは分かってるんだけど…でも、ハルトがやっぱり「真面目に」って言ってきたら…」
「それはさっきから私が何度も言ってるように、あり得ないのよ。あんな店の中の恋愛感情なんて、全部疑似体験に過ぎない。ここで、あなたが揺れたら、また同じ事の繰り返しになるわよ。今から、私と行って、ハルトと話して、あなたが判断して、きっぱりと300万は払えないと言わないと、色んな手を使って、このトラブルを解決する事が出来ないの。今日、あなたがお金は払えないと宣言しないと、次のフェーズには進めないのよ。あなたが、それを言うのを私が直接聞いて、私は証人になる。それで、やっと、トラブル解決に向けて動き出せるの。あなた、お金の問題を解決したいんでしょう?」
「そうなんだけど…でも、鵜塚さん、あなたはうちの娘の芽衣とあなたのところの瑞希ちゃんが友達で、私たちも親しくなったママ友の付き合いだけじゃない?そのあなたを巻き込むのは、違うんじゃないかなと思ってて…」
「今となっては違わないわよ。芽衣ちゃんは中学から瑞希の学校に編入してきて…瑞希は芽衣ちゃんが仲良くしてくれて、色々と助かってると思ってる。それで、私があなたにお礼をする機会を待っていたら、ひょんな事から、あなたがこのお店のオーナーでママをやってる事を知った。私は主人から蟒蛇と言われるほどのお酒好きだから、挨拶がてら、飲みに来た。いっぱい飲む私にあなたは良くしてくれた。そのあなたが、シングルママのあなたが困ってると、初めて私に困り事を打ち明けてくれた。話を聞いて、私は助けようと思った。だから、今から行くの。これって、ヘン?どっかおかしい?」
「いや、おかしくはないけど…」
「じゃあ、出かけましょう。電気を消して」
「分かった」
瑤子は店を出た。
少し遅れて、白川は電気を消し、店を出て、鍵を閉めた。
ロックする音を聞いて、私はポツンと赤く灯る有線の電源ボタンの灯りを見た。
そして、その赤に吸い込まれた。
