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【創作大賞2026応募作・ファンタジー小説部門】Slit ⑧


 
イシキが、ヒズミに溶け込んでいくのを、私は何となく実感できるようになってきた。
 
風呂に薄く溜まっている生温い湯の中で、身体を精一杯寝そばらせて湯の中に浸していく感覚。
そうしているうちに、どんどん生温い湯が溜まって行き、今度は身体どころか頭まで、ずっぽりと湯の中に沈んでいく。
鼻から出た息が泡となって、湯の中に出て行く。
息苦しさはない。
丁度良い温度の湯。
身体が溶けていくような感覚。

 
「溶け込んだ?」

 
バンニンが、さっきと同じように尋ねてきた。
 
「ああ、溶け込んだ」
「じゃあ、あなたはすぐにB界のある年のある日に移動するわ」
「ある日って、いつだ?」
「それは私には分からない。あなたにとって重要な分岐を決める日だわ」
「重要な分岐?怖いな…」
「怖がらないで大丈夫よ。人はその後の運命を決めてしまうような重要な分岐をいとも簡単に、あっさり超えていくものよ。そして、失敗したら、後悔するし、上手くいけば、すぐに忘れる」
「なるほど、そうだな」
「大事な事を最後に一つ知らせるわ。あなたは、これから時空を超える」
「ああ、ムソウを手に入れたんだろう?」
「そう、あなたはムソウを手に入れた。これから、あなたは次の時間、別の空間に行きたい時、あなたの側のどこかにグレーの大きなバスタオルが現れる。それを見つけたら、あなたはそのバスタオルに身体をつけるの。手に取ってもいい、足で踏んでもいい。とにかく、あなたの身体がバスタオルに触れたら、あなたの前にスリットが現れる。あなたは、バスタオルを持って、スリットを潜り抜ける。そうすれば、あなたは、別の時間、別の空間に行ける」
「分かった。グレーのバスタオルだな」
「そう。そろそろ、次の空間に飛べそうね。イシキを飛ばして」
「イシキを飛ばす?どうやって?」
「一瞬でいいから、何も考えないのよ」
「分かった。やってみるよ」
 
私は頭の中を空にしようと試みた。すると、私は意識を失くした。
 
意識を失う前に、私は足元が割れ、スリットが現れてる事を確認した。
 
プリ…
 
私は放出された。


 


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