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【創作大賞2025応募作・ミステリー小説】サウザンド・ティアーズ㉑~うまくいってるなんて思えた事は一度もない。ただ、涙を流さずに生きるだけで精一杯だ。

「金木…」 
「ありゃ?ケイじゃないか…生き残ったのは君だけか?」
慶次朗は頷いた。
「困ったなあ…これは予定外だ…」
「お前、メロウがルミーを殺すのを知っていたのか?」
「ああ、知ってたさ。メロウの恨みはすごかったからね。予定では、君も一緒に死んでもらう事になっていたんだ。でも、君は生きてる。で、生きてるはずのメロウは死んだ。こいつは本当に困った…メロウはね、この店のどこかにルミーが盗んだ金を隠してると思ってたんだ。だから、ルミーをここに呼び出して、金のある場所を吐かせてから殺すはずだった。でも。メロウもルミーはもう死んでしまった。ケイ、君は金の在りかについて、二人が話したのを聞いてないかい?」
「いや、聞いてない。二人はここで会ってから、ろくに会話なんてしていない。いきなり拳銃が出てきて、その拳銃を躱すように、メロウがルミーの首を切って…」

記憶が呼び戻された。

思い出したくない光景。

もう見たくないビジュアル。

慶次朗は戻しそうになるのをぐっと堪えた。

「相変わらず、君はナイーブだね」

ナイーブ? いつの言葉だ…

「「繊細」という事かい?」
「ああ、そうだ。でも、繊細に加えて「臆病」というエッセンスもちょっと混じってるけどね」
「「臆病」か…それは仕方ないだろう?金木君はどうだか知らないけど、僕は目の前で人が死んでいく様を初めて見たんだからね。それも、お互いで殺し合うところを横で、マジマジと、全部見た。これで臆病にならない方がおかしいと思うよ」
「まあ、それはそうかもな。僕も死んでるヤツは沢山見てきたけど、殺し合う場面はライブでは見た事ないもんね。でも、これは本当に困ったよ」
「金がどこにあるかが分からないから?」
「そう。ケイは何か思いつくかい?それにしても、この部屋は暑いな。僕はエアコンをつけてくるから、戻ってくるまでに考えててよ。」
「分かった。エアコンのスイッチはトイレの横だから」
「知ってるよ」
金木は廊下の向こうへ消えた。

何か?

一億円を隠せる場所なんて、店内にはいくらでもある。全てのソファの下をさらってみてもいいし、スツールは空洞になってるから、全部開けてみてもいい。

でも…

そんな簡単な場所にある訳がないだろう…

空調が動き出した。
天井から大きな吹き出す音とともに、温い風が出てきた。
金木が戻ってきた。
「それで、分かったかい?」
慶次朗は、その問いを一旦無視した。

トイレ?

事務所?

天井裏? 確か、どこかのパネルが開くはずだ。

どこ?

「金木君は、金が見つかったら、どうするの?」
「京極会の池田さんへ届けるのさ。そしたら5%もらえる事になってる。こんなちょろい仕事で、500万だ。悪くないだろう?何か、思いついたのかい?」
「ああ」

慶次朗はカウンターの中へ入って行った。

メロウはあの奥に潜んでいた。
あそこで見つけたんだ。

炊事場の端に、ビールケースが置いてあった。そして、その下に頑丈にガムテープでぐるぐる巻きにされた段ボール箱があった。ガムテープはナイフで切られ、一方だけ蓋が開くようになっていた。
慶次朗は中を見た。そして、金木を呼んだ

「金木君、ここにあるよ」

慶次朗は見つけた箱を指差した。

「本当かい?」

金木がカウンターの中に入ってこようとした。
慶次朗は、カウンターにあった果物ナイフを手に、入口の前に立ちはだかった。

「何の真似だ、ケイ?君はこの金を持ち逃げするつもりか?」
「いや、僕はこんな汚れた金には興味がない。だから、金木君、あんたが全部持って行ってくれて大丈夫なんだが、一つ教えて欲しいんだ」
「何だい?」
「考えてるんだが、どうもこの件、最初からずっと合点がいかないんだ。腑に落ちないっていうかね、そんな感じなんだよ。頼むから、知ってる範囲でいいので、最初から最後まで話してくれないか?」
「そういう事か…いいだろう。知ってる事は話すよ。最初にこの件の違和感を感じたのは、レイだった。レイは「メロウが所得隠しなんてケチ臭い事をやるなんて、どうにも納得がいかない」とか、ボロっと池田さんの前で喋ったんだ。その時、僕も一緒にいたけどね。それで、池田さんが「それはどういう事だ?メロウが隠したんじゃなけりゃ、誰が隠したと思う?」と、レイに訊いて、多分、レイはその時、口から出まかせを言ったんだと思うんだけどね。引っ込みがつかなくなって、何の確証もないのに「俺はルミーが怪しいと思う」って、言ったんだ。そしたら、池田さんがその話に乗っかってしまって…池田さんすぐに、この作戦を立てた。そして、僕とレイに作戦を説明して、どう動くかを僕らに細かく指示したんだ。僕は、僕はメロウと会って、レイの推測をメロウに話した。メロウも、多分そうじゃないかって思ってたから、メロウはすぐに逆上した。そうなると、アイツは手に負えないからね。メロウにはルミーをもし殺っても、その始末は池田さんがやってくれるって言ってるから、メロウは金を取り戻す事を考えてくれって、伝えた。それからヤツに、サバイバルナイフを渡した。ヤツはすぐに動き出した。メロウは取り戻した金の10%を池田さんに払えばいい事になっていた。勿論、これは全部嘘だけどね。メロウが殺したら、池田さんはメロウを警察に差し出すつもりだった。で、次はルミーの方だが、こっちはレイが担当した。レイは必死だったんだよ。池田さんから店の再開を止められてて…池田さんはレイのいないところで、アイツは裏切るヤツだ、信用ならねえって、言ってて、それを本人も何となく分かってるところがあって…だから、レイはルミーを網にかける事に全力で取り組んで…それで、今日、上手くルミーをここへおびき出して…でもさあ、レイは本当にダメなヤツなんだよ。最後の最後まで、詰めが甘いっていうかね。レイは、君とルミーを呼び出す役をやっていた。メロウは「今日の夜は、君たちが来るまでに金を見つけておいて、後はずっと待機だ」と言われてたんでね。マッチングタイムは全て、レイが握っていた。君とルミーにメールを入れたのは、レイだ。君へのメールはレイがメロウから預かっていたスマホから送ったし、ルミーは自分のスマホから送った。そして、僕に「上手くいった」と伝えてきた。君たちは深夜12時に店に来るとね」
「12時?」
「そう、嘘だ。10時に全員が揃い、メロウがルミーを殺したら、レイはメロウに「自分が池田さんのところへ運ぶ」とか言うつもりだったんだろう。それでも、発覚まで一時間以上は稼げる。その間にレイは逃げるつもりだったんだ」
「でも、うまくいかなかった?」
「そう、この店の玄関は、隣のビルからうちの部下にずっと監視させてたからね。10時ピッタリに君が現れた。そして、すぐにルミーが来た。正直、僕らは慌てたよ。でも、僕はジェームスに、レイを捕まえるように指示を出して、すぐにここへ来たという訳さ。これがすべてだ」
「なるほど、これで合点がいったよ。レイなんだなあ。で、レイは今、どうしてる?」
「ジェームスが京極会の事務所へ連れて行ったと思う。」
「ジェームスって、誰だ?」
「こないだ君をサンドウィッチみたいに挟んでたマッチョマンの一人だよ。アボットは、あの後強制送還されてしまったんでね。今、残ってるのはジェームスだけなんだ。彼はもうじき、ここへ来るよ。金を運ぶためにね」
「分かったよ。それで、僕はこの後、どうなるんだい?」
「君か?君は僕とジェームスが金を持って出て行った後、警察に電話するんだ。警察にはここで起こった事だけを供述してね。勿論、僕が来た事も金を持って行った事も君は何も知らないし、京極会の事も知らないから、決して何も言わない。ただ、メロウとルミーがここで殺し合った事だけを警察には言うんだ。それと金の在りかについては話す前に殺し合ったという事で、君は何も聞いてないという事でね。分かったかい。君は余計な事を話さなければ、明日以降も生きていける。ちょっとでも話が漏れたりしたら、僕が命を狙われる事になる。そしたら、僕は君を殺しに行かなくてはならなくなってしまう。そうしないと僕が殺されるからだ。だから、君は何も余計な事を話さない。それで、みんな安心、安全だ。OK?」
「分かった。僕は何も話さない。約束する」


「ヨシ!いるか?」

例のマッチョマンBが入ってきた。
こいつが、ジェームスか…

「ああ、ジミー、いるよ。金を出すのを手伝ってくれ」
「金?それはお前が出してこい。それでお前が運ぶんだ。俺はただお前を監視して、車を運転するだけだ」
「えっ?どういう事だ?」
「全部、池田さんの指示だ。従え!」
「分かった…ケイ、手伝ってくれ」
「分かった。一つ訊いていいか?お前、ヨシって言うのか?」
金木はすぐに答えなかった。
金木はジェームスに顎で促された。慶次朗はカウンターの奥へ向かった。金木が続いた。
慶次朗が上のビールケースを持ち上げ、金木が下の段ボール箱を引っ張り出した。
ジェームスが箱を開け、金を確認した。
全部本物の一万円札のようだったので、ジェームスは満足した。
そして、金木に「行こう」と言った。

金木は、その言葉を無視して、慶次朗の方を向いて言った。
「僕、金木良夫っていうんだ」
「意外に普通の名前だな」
「普通?普通で何が悪い?そうそう、名前と言えば、メロウって、「目郎」が本名だって、知ってたか?」
「ええ?本名なのか?知らなかった」
「アイツ、シングルマザーなんだけど、母親が鬼畜で、メロウは生みたくなかった子みたいでね。出生届け出す時に、何故だか「目」と先に書いてしまって、面倒臭いんでその後に「郎」って、書いて出してしまったらしいんだ。その母親はアル中で、無茶苦茶だったらしいよ。
小さい頃、メロウは虐待されまくって育ったみたいで、それを救ってくれたのが社会福祉協会のカッコイイ若い男の人だったらしくって、助けてくれたその男の人に、メロウはその人に恋してしまったらしくって。そこから、メロウは男に目覚めたんだと言ってた」
「そうだったんだ…」
「ついでにもう一つ教えといてやると、君を殺さなかったのは、メロウが君を愛してるからだと思う。アイツは本当に君を愛していたからね」
「えっ?」
「でも、ヤツは死んで、そこに転がってるけどな」



その言葉が、慶次朗を急に現実に引き戻した。



「余計なお喋りは止めて、早く出よう」と、ジェームスが促した。
金木は段ボールを重そうに持った。

華奢な金木が重い段ボールを持ち、マッチョマンが少々怒り気味に金木が早く動くように促しながら出て行く様は、少し気味が悪かった。

二人が出て行くと、店内は静かになった。
空調が効き始めて、涼しくなったが、その音が目立ってうるさく感じた。

部屋の空気は濁っていた。
空調はうるさいのに、部屋には死の匂いが充満していた。
でも、慶次朗は我慢した。
金木たちが逃げ切る時間稼ぎが必要だ。

10分待った。
もういいだろうと思い、慶次朗は警察に電話した。
その後、黒崎にも電話を掛けた。


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