【創作大賞2026応募作・ファンタジー小説部門】Slit ⑫
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「バンニン、いるんだろう?返事をしてくれ」
私は、スリットに入り込んだ時に、一瞬ではあるが毎度毎度、ヒズミの乳白色の中に溶けている事に気づいていた。
そこで、私はバンニンを呼んでいる。
「どうしたの?」
「急に次の時空へ飛ばすのは止めてくれないか?ちょっと、ここで頭の整理をしたいんだ」
「それは大丈夫よ。丁度、DAY1はこれで終わりだから、あなたはヒズミの中でゆっくり休める。その間に存分に考えをまとめればいい」
「ええ?DAY1はもう終わりだって?それはちょっと早くないか?」
「一つ目のエピソードは、ほぼ半日ぐらいだったけど、二つ目は一時間もなかったものね。でも、もうDAY1は終わりなの。そして、後の時間は、あなたは休息に充てなければならない」
「休息か…じゃあ、バンニン、考える前に、いくつか質問させてもらってもいいか?」
「何かしら?」
「僕は、今のところ二つのエピソードに入っていった。入ってすぐに、僕は、以前、僕が実際に経験したエピソードだと認識した。全部、鮮明に記憶していた訳ではないが、確かに二つのエピソードは、僕が実際に経験したものだった」
「それで?」
「これなら、A界でもB界でも、僕は同じように決断をし、分岐を乗り越えてきた事になる」
「あなたがそう思うのであれば、そうかもね」
「それなら、今の僕は、僕が元々いたA界の中でタイムリープしてきただけなんじゃないかという疑問が湧く。そうではないのか?」
「それはたまたまだと思うわ。でも、本当のところは私には分からない」
「何故だ?」
「私はヒズミの中の住人だからよ。私は「並び立つ世界」のどこにも存在しない」
「なるほど、それはそうか。仕方ない。じゃあ、もう一つだけ質問したい」
「いいわ、何?」
「さっきも言ったように、これまでのエピソードは、僕が実際に経験してきたものだった。しかし、それに入っても、僕にはそのエピソードが白川さんが死ぬ事の原因を突き止めるファクターだと理解する事しかできない。僕が意外だと思っても、そのエピソードが関わっているから、スリットから放出されるんだろうからね」
「それはそうね。スリットは無駄には開かない」
「でも、それでは僕は結論には辿り着かないと思うんだ。だって、僕が経験したものばかりだからね。リアルタイムの時に、二つのエピソードは、あの当時、僕は何も感じてなかったし、何も不審に思わなかった。そんな過去の出来事にもう一度入ったところで、僕が新たに何かを掴めるのか、僕には自信がない」
「それで、どうしたいの?」
「次のエピソードに入る時は、僕がリアルに経験した事じゃなくて、肉体はなくていいから、もっと核心を突いた場面に入りたいんだ。それはできるのかな?」
「自分がいない場面に入り込みたいのね?」
「そう、僕の存在がないところで、今回の結論を導き出せるようなヒントになる事を誰かが話してたりするところに居合わせたいんだ。上から俯瞰にして、観察したりとか…」
「つまり、肉体はなくて、イシキだけでエピソードに入るという事でしょう?」
「そう。それって、出来るものなのかな?」
「それは、あなたがムソウを使いこなせるかが、重要なカギになるわ」
「ムソウを使いこなす?」
「そう」
「それって、どうやるんだ?」
「イシキを集めるのよ。結論に近づけるようにフォーカスするの」
「どうやって?」
「それは私には分からない」
「分からない?」
「だって、私は使った事ないもの」
「ああ、そうか…じゃあ、自分で会得するしかないんだな」
「そうね。頑張って!」
「頑張れだって?君は呑気にそう言ってられるからいいんだろうけど、僕は大変だぜ。何せ、正解に辿り着かないと、僕も瑤子も白川さんもみんな死んでしまうんだから」
「それはそうね。でも、私には、そう答えるしかないの。分かって?」
「ああ、仕方ないね」
「じゃあ、これから休息に入って。時間が来たら、自動的にスリットが開いて、次のエピソードに入ってるわ。そのエピソードで、あなたが思ってるようになる事を祈ってるわ」
「ああ、祈っててくれ」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
私の意識は途絶えた。
