【創作大賞2026応募作・ファンタジー小説部門】Slit ②
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「全部門会議」とは、管理部門を除いた部門の本部長、局長、部長が全員参加する会議で、親会社である日葉新聞社から下りてきた営業担当の秋野常務が主催している定例会だ。この会議は月二回、第二と第四月曜日の朝8時に召集される。
議題は、専ら直近の営業状況と見通しに関する事なので、私たちCR本部やメディア本部等は、殆ど蚊帳の外だ。
しかし、うちの本部の場合は、コンペの獲得の割合が下がっている時等は、突然秋野常務からの質問攻めに遭ったりするので、会議中は決して気は抜けない。
秋野常務は、新聞社でも広告担当をやっていた人で、とにかく数字にうるさい。
自分が腑に落ちない事があると、理詰めで質問してくるので、いつでもこっちは常に緊張していなければならない。
実は、今日の会議では、私の本部としては、突っ込まれても仕方がない案件がいくつかあったのだが、不振の営業本部の追及に長い時間を取られたお陰で、幸いな事にこちらには弾は飛んでこなかった。
定刻の9時半に会議が終わると、緊張感を解く事なく、6階の会議ルームフロアから階段で8階に上がった。
8階はうちの会社の常務以上の個室がある役員フロアで、私は管理部門のトップで、労務担当役員である島田常務の部屋に向かった。部屋に入ると、秘書から島田常務は「社長に呼ばれて今不在だが、私には部屋に入って待ってるように」と言われたという説明を受けた。そこで、私は島田常務の部屋で、応接セットのソファに腰掛けて待った。
程なく、ドアが開き、島田常務が入ってきた。
「すまん、鵜塚君、待たせたかね?佐伯社長との話が少々長引いてね」
そう言いながら、島田常務は、応接セットを越えて、自分のデスクへ向かい、机の上に置いてあった粉薬の袋と、開いているペットボトルのお茶を取ってから、私の前に座った。
「ちょっと待ってくれ。薬を飲んでしまうから…佐伯社長に絞られると、ホントに胃が痛くってね。僕は元々胃下垂なんで、胃が痛くなると色々とマズくなっちゃうんでね」
そんな事を喋っている島田は、見た目から胃下垂だと分かる風体だ。
彼はひょろってして背が高いのだが、酷く猫背だ。
顔色は土色で、広い額にはいつだって脂汗が浮かんでいるように見える。
彼は几帳面に薬の封を開け、上を向いて粉薬を口に入れ、ペットボトルのお茶で流し込んだ。
ここまでの間で、私は何故だかずっと前に止めたタバコが吸いたくて堪らなくなった。
「それで、常務、出来れば早速本題に入っていただきたいんですが…この後、本部会がありますので…」
「ああ、CR本部も、全部門会議の後に本部会をやるんだったね。分かった。じゃあ、急ごう。話っていうのは、他でもない。先週の取締役会で社長から話が出たCR本部を切り離して、別会社化しようとしてるって話なんだが…」
「やはりその件ですか…うちの本部全員に向けて、近く説明会をやって下さるという話は聞いております」
「それは2月に入ってからやるつもりだが、その話が出て、君の部下や現場からはどんな意見が出てるんだろう?参考までに聞かせてもらいたいんだが…」
「参考も何も、私たちはまだ、別会社になるという話だけしか聞いてないものですから、まだ、公式にお話できるようなネタは掴んでおりません。ただ、非公式に飲みの場の噂話は、色々と出ているようです」
「それを聞きたいんだよ。非公式、大いに結構だ。で、どんな話が出てるんだね?」
「現場社員のうちで、組合経験者の人間が、親会社で同じように組合をやってた人から色々と聞いてるようでして…なにやら、今回の別会社化では親会社の日葉メディアホールディングスとうち日葉広告社が均等に株を持って、それにTV日葉、ラジオ日葉からも資本が入ってるのは間違いないんだけど、電広社が資本参加する事が決まっていて、それもうちよりも新聞社よりも電広社の資本が大きくて、一番の大株主になるという話を聞きました」
「ええ?どの筋からそんな話が出たんだ?」
「いや、それはさっき言いましたように、新聞社の組合をやってた人から聞いた話だそうです」
「それをうちのどの社員が喋ってるのかと訊いてるんだが?」
「いや、知りません。それはうちの局長の深水さんと昼飯を食ってる時に、私も訊かれたんですよ。こんな話が出てますが、本部長は知ってますか?って、感じで」
「そうか…じゃあ、鵜塚君、悪いが、その件の君の本部内で出てくる噂話を逐一、僕に報告してくれないか。メールでいいので」
「分かりましたが、その噂は本当なんですか?」
「いや、僕は知らんよ。この別会社化については佐伯社長が直々に、メディアホールディングスの山倉専務とやってるからね。僕らみたいな日葉広告社のプロパー役員には、まだ何も降りてきてないんだ」
「分かりました。後、一つだけお聞きしても良いですか?」
「何かね?」
「今後、私はこの件でどんな役回りになるんでしょう?」
「それも、今の僕には分からんね。但し、一つだけ間違いない事としては、別会社化するにあたって、うちのCR本部のエース級社員には、すんなりそっちの籍に異動してもらいたいんだ」
ああ、そういう事か…
「なるほど、分かりました。では、宜しければこれで失礼したいんですが…」
「ああ、結構だ。じゃあ、情報が入ったらメールを頼むよ」
「承知しました」
私は島田常務の部屋を出て、エレベーターで3階に向かった。本部会までは少し時間があるので、いったん自分のデスクに戻りたかったからだ。
