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【創作大賞2026応募作・ファンタジー小説部門】Slit ⑦


「溶け込んだ?」

バンニンの声で、私は気がついた。

溶け込んだ?どういう事だ?

目を開けてみた。

またもや、目の前には真っ白な世界が広がっていた。

私は起き上がろうとしてみたが、それは出来ない事がすぐに分かった。

私の身体がなくなっているのだ。

「どういう事だ?」
「あなたはヒズミの中に溶け込んだのよ。さっき横たわる時に、床にどんどん沈み込んでいった。覚えてない?」
「いや、全くだ。僕は床に背中をつけた途端に気を失った」
「そう。あなた、同化が早いのね。良い事だわ」
「同化?それで、これから僕はどうなるんだ?身体は何故見えなくなった?どうやって今の僕は生きてるんだ?」
「肉体のあるなしは、どうでもいいのよ。それは後付けで何とでもなる。あなたが、何故白川さんにここに連れてこられたかを教えましょう」
「肉体なんて、どうでもいいって?全く理解を超えてるな。まあいいや。そう、それを教えてくれよ」
「白川さんは、あなたの奥さんとママ友なの。そして、白川さんはB界で、あなたの奥さんに追い詰められて自殺した」
「自殺した?彼女は生きてたじゃないか?」
「あれはあなたのいたA界で生きてる白川さんよ。白川さんはB界で死んでから、すぐに反省したの。あの人は離婚して、芽衣ちゃんという娘さんと二人暮らしだったのね。芽衣ちゃんは、あなたの娘の瑞希ちゃんと同級生。白川さんは、B界で死んでしまった後、芽衣ちゃんが一人で生きていかなければならない事に気づいたの。それで、A界の自分を召還した」
「ちょっと待ってくれ。全然、頭が追いつかない。A界、B界って、それは所謂パラレルワールドの事だな?」
「そう、並び立つ世界」
「それって、A、Bだけなのか?」
「それは私にも分からない。A、Bだって、便宜上そう呼んでるだけだから」
「なるほど、それで白川さんはB界で、僕の妻の瑤子に追い詰められて自殺したと…死んだ後で、自分がいなくなったら、娘の芽衣ちゃんは一人ぼっちになると…それで、死んだ白川さんがどうやってA界で生きている白川さんを召還できるんだ?」
「白川さんは、33に選ばれたからよ。死んでしまった人のうち、世界中で死んでしまった人のうち、一年間に33人だけ、ムソウを手に入れられるの。彼女はムソウを手に入れた。ムソウを持ってるとね、あらゆる世界を時空を超えて行き来できるようになる」
「時空を超えて?タイムリープができるのか?」
「勿論できるわ。それで、彼女はB界で自分が死なずに済むように、A界で生きてる自分を操って、あなたの奥さんを殺しに行ったの」
「何故、瑤子を殺すと、彼女は助かるんだ?仇討みたいな理論か?それでもつじつまが合わないんだが…」
「バカね、そんなんじゃないわ。奥さんを殺せば、あなたがここへやってくる。白川さんはあなたをここに連れ出したくて、奥さんを殺したの」
「僕を?何故?僕は白川さん自体も全く知らないのに?」
「あなたはこれからムソウを手に入れる。そして、B界に舞い降りて、白川さんが死ぬ前に事態を食い止めるの」
「そんな事、出来るのか?大体、B界にはもう一人の僕が生きてるんじゃないのか?」
「それは大丈夫。A界のあなたはもう死んでるから、B界の肉体はここへ連れてきて、あなたがB界で活動してる間、ずっとフリーズしておけるわ」
「A界の僕は、もう死んでるだと?」
「それはそうでしょう?あなた、あんなに高いところから飛び降りたのよ。無事な訳がない」

A界の僕は、もう死んでいる?

じゃあ、今、ここで話してる僕は一体誰なんだ?
全くついていけない

「ま、まあ、そうだな。それで、僕はどうすればいいんだ?」
「B界に行って、白川さんが死ぬ前にその原因を突き止めて、自殺を回避すればいいの」
「そうすれば、僕も瑤子もA界で、また生きられるのか?」
「そう。全ては「なかった事になる」
「なかった事?本当だな?」
「本当よ。信じて」
「信じるも何も、やるしかねえよな。瑤子はどうしてるんだ?」
「B界の瑤子さんをそのまま活動させたいから、A界で亡くなった瑤子さんはここでフリーズしてある」
「なるほど。それで、この後、どうすればいい?」
「今のあなたはイシキだけなの。この後、あなたは肉体を取り戻す。そして、気がついたらもう、B界に侵入してるわ」
「何だか、よく分からんが、とにかくそうしてくれ」
「最後に一つだけ、大事な事を伝えるわ。この33の動きは、一つの命題につき、7日間=168時間だけ、活動する事が許されているの。だから、あなたは、168時間以内に白川さんを救わないといけない」
「何だと?それで、もし168時間以内に完了できなかった場合はどうなる?」
「その時は、A界におけるあなたと瑤子さん、B界における白川さん、全員の死は確定する」
「きついな。でも、愚痴ってる場合じゃなさそうだ。早速、進めよう」
「分かったわ。じゃあ、目を閉じて」

私は目を閉じた。そしてまた、意識を失った。


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