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【創作大賞2025応募作・ミステリー小説】サウザンド・ティアーズ㉘~うまくいってるなんて思えた事は一度もない。ただ、涙を流さずに生きるだけで精一杯だ。


10月2週目になった。
平日の平凡な午前中が過ぎた。

慶次朗は普通車の運転免許が取れたので、得意先への集金等、雑用の仕事をやっていた。

昼休憩の時、慶次朗が食事をしていると、電話が鳴った。


里崎からだった。


「もしもし」
「今、忙しいから手短に話す。今日午後2時から6チャンネルを見ていてくれないか?」
「何の事ですか?」
「見れば分かるから」


電話は切れた。


慶次朗は、午後は夕方に意人を習い事に送っていくまでの時間は、安静にする時間だから、午後2時ならテレビを見る事が出来た。


これは山野辺にも知らせた方がいいだろう、そう思い、慶次朗は外出中の山野辺に電話した。




午後2時になった。


食堂には、慶次朗と山野辺の他に深雪と竹内もいた。

6チャンネルは平日午後2時から情報番組をやっている。
それを里崎は見ろと言った。
これは何かあるのだろうと、みんなで期待した。


番組が始まった。


「今日は、番組関係者へ情報提供があり、予定を変更して、茨城県北部のとある民家に、容疑者確保のため、警察が捜索するために家に入って行くところをライブ中継します。緊急事態のため、予定変更をご了承下さい。さて、この犯人ですが、東京都内で活動中だった地下アイドルの女性を逮捕、監禁した容疑がかけられております。また、彼の自宅には監禁されている女性がいるという情報もあります。尚、警察との取り決めにより、現場ではカメラ取材のみが許されており、レポーターはおりません。現場からのライブ映像にスタジオでレポートしていきます。一旦、CMです」


「これって、リンちゃんの事?」と、深雪が訊いた。
「多分、そうだと思う。これを見ろって言ってきたのは、僕がリンちゃんの捜索を依頼した探偵さんだから」と、慶次朗が答えた。
「でも、何で茨城なんだ?分からん事だらけだな」と、山野辺が言うと、「何でもいいから、とにかく無事だと良いねえ」と、竹内が言った。


CMが開けた。


「山間の農村地域なんでしょうか?古い立派な日本家屋の玄関前に機動隊や私服刑事が集まっております。この映像からは見えませんが、きっと、周囲を警官が取り囲んでいるものと思われます。おっと、今、私服刑事がインターフォンのボタンを押しました。待ちます。待ってます。もう一度、ボタンを押した」


「蓮田さーん!おられませんか?」


「カメラの集音マイクのため、聞き取りずらかったですが、刑事は確か「蓮田さん」と、家の中に向かって呼びかけました。家の中からは反応がありません。私服刑事が指示を出し、自分は下がりました。後ろから、機動隊の制服を着た人間が大きな木槌を持ってきました。ああ、木槌で引き戸を壊した。警察官が中に侵入していきます。していきます。どうなるのでしょう?」


「確保!」


「遠い声で、今、「確保」と叫んでいるのが聞こえました。現場は騒然としております。沢山の警官が家の中から出てきました。すごい数です。20人はいるでしょうか?あっ、黒いフードを被せられた容疑者と思われる人間が、警察官に両脇を固められて、家の中から出てきました。黄色いトレーナーのようなものを着ております。ズボンは赤です。フードを被っているため、容疑者の顔はよく見えません。今、容疑者は警察車両に乗せられました。この後、どうなるのでしょうか?沢山いる警察官は今、恐らく監禁されている被害者の女性を捜索しているものと思われます。どうなるのでしょうか?警官の一人が蔵の扉を壊しております。中に入った。動きがありません…」


「見つけた!発見!発見!」


「聞こえましたでしょうか!今、警察官が「見つけた!」と叫びました。蔵の中へ救急隊がストレッチャーを持って入って行きました。被害者は無事なのでしょうか?ああ、ストレッチャー移動のため、警官がブルーシートで幕を張り始めました。これでは被害者の様子は分かりません。今、救急隊が運び出しているようです。ストレッチャーを救急車に収めました。救急車はすぐに発進します。一旦、ここで中継を終えます。詳しくはスタジオからレポートをお届けします」


「これじゃあ、リンちゃんかどうかが分からないよね」と、深雪が不満そうに言った。
「いや、あれはリンちゃんだよ。間違いない」と、慶次朗が自信ありげに答えた。


慶次朗は見逃さなかった。


ストレッチャーが救急車に運ばれた時、ドアの横に里崎が待ち受けていた。
そして、里崎は一緒に乗りこみ、救急車が動き出した。


彼はリンちゃんを見つけた!


この時の里崎は、無精髭をたくわえ、目が落ち込み、やつれていた。

しかし、目の光は失っていなかった。


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