【創作大賞2025応募作・ミステリー小説】サウザンド・ティアーズ㊳~うまくいってるなんて思えた事は一度もない。ただ、涙を流さずに生きるだけで精一杯だ。
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恵美と慶次朗の誕生日の日が来た。
丁度一年が経ったという事だ。
慶次朗と深雪と意人は、恵美が眠っている新潟・柏崎に墓参りに出かける事にした。
慶次朗は、バイクのパンクを直し、オークションにかけて売った。
CBRのフルカスタムは、見る間に値段がつり上がり、なんと500万円で売れた。
その売った金を使って、慶次朗は山野辺運送のもう車検を通さない古いハイエースを引き取り、自分で車検を通し、車中泊ができるように、改造し始めていた。
全部手作業なので、まだ完成までには至ってないが、でももう寝泊まりができるぐらいになったので、この車で行こうと計画した。
ハイエースは、外装を水色のメタリックに塗り直した。
内装はクリームイエロー。そう、二つとも恵美が好きだった色だ。
ルーフには太陽光パネルを張り付け、1200Vのバッテリーを二本載せている。
ベッドは、合板で手作りした二階建て仕様だ。
後は、水回りを作れば完成なのだが、これは専門知識が必要で、まだ、着手できてない。
まあ、移動中の食事はドライブインや道の駅で取ればいいので、取り敢えず、これで出かける事にした。
山野辺は、今ではもう杖をついて、自分の足で歩くまで回復した。
だが、傷めたのが右足のため、どうしても普通の車を運転する事ができず、車椅子で運転できる車の免許取得のため、教習所に通っていた。
望も、慶次朗たちが出かける日に、旅行のために家を出る事を知った。
望は、今年に入ってから、もう三回も旅行していた。
全部、国内旅行で、二泊三日が多かった。
山野辺は、望が外に出る気になってる事を喜んでいた。
慶次朗たちが出発する丁度その時、キャリーケースを引いた望が出てきた。
慶次朗は「どこかの駅まで送りましょうか?」と、望に訊いたが、望はスルーし、通りでタクシーを拾って行った。
慶次朗たちは、気を取り直して出かけた。
関越道は空いていたが、それでも柏崎までは5時間ほどかかった。
途中、何度もサービスエリアに立ち寄り、色々と買い食いしたせいだった。
意人は、ソーダ味のソフトクリームが気に入り、着くまでに三回も買って食べた。
その日の夜は、山野辺の弟さんの家に泊めてもらった。
弟さんは、峰彦さんといい、奥さんの和歌子さんと、一番下の息子の武彦さんの三人家族で、慶次朗たちが着くと、ご馳走を作って待っててくれた。
慶次朗は親戚というものを知らないので、これが親戚というものだったり、実家というものだったりするのか…と感心した。
翌日の昼前に、三人は峰彦家族と一緒に、海を望む高台に建つ山野辺家の墓参りに出かけた。
墓を参った後、みんなで地元で有名なへぎ蕎麦を食べに行く事になっていた。
墓を掃除し、花を生け、線香を焚いて、みんなで手を合わせた。
みんなが墓を離れても、慶次朗は、目を瞑り、手を合わせ続けた。
恵美姉…
何だかよく分からねえヤツに殺されて、無念だろうな。
意人が育つところ、ずっと側で、見てたかっただろうな。
だから、俺が一生懸命、意人を育てるよ。
立派な大人になるまで、俺が面倒を見る。
恵美姉、約束するよ。
だから、恵美姉、上から俺と意人と深雪を見守っててくれよ。
ああ、そうそう、俺、深雪と結婚する事にしたよ。
深雪は一番意人を可愛がってくれると思ってる。
きっと、大丈夫だ。
これから、俺らは幸せになる。
もう二度と泣かねえ。
俺は今、388回目、意人は300回も行ってねえ。
俺と意人、二人合わせても、絶対1000回行かねえ。
ああ、ミューも最近数え出したんだけど、アイツ泣き虫で、テレビ見てても泣くんで、もう50回は超えてんだ。これが本当にヤバい。
だから、さっきの話は撤回して、俺と意人とミューの三人合わせて、1000回だ。三人合わせても、絶対に1000回は超えないようにする。
約束だ!
これが守れるよう、俺は頑張るよ。
俺が、意人もミューも幸せにする!
サウザンド・ティアーズ!
慶次朗は目を開けた。
墓から「一歩、一歩、慎重によ」という恵美姉の声が聞こえた気がした。
慶次朗は、墓に向かって頷いた。
