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【創作大賞2025応募作】爽やかな人 ②


沢木内科医院は、この町の重要なお医者さんだ。
商店街の真ん中にある開業医で、この商店街の中や別の筋の商店街の中にもたくさん内科の病院はあるのだが、何故かみんな体調が悪いと感じると、すぐに沢木先生を訪ねる。
沢木先生の病院は、小さく待合室も狭いし、沢木先生と中年女性の看護士さんが一人、そして受付の会計をやってるおばちゃんが一人の合計三人だけでやっているので、効率がどうしても悪い。
レントゲンが必要な時は、先生がレントゲンを撮る。だから、インフルエンザの流行期等で混み合う時期には、診察してもらうまでには相当待たされる。それでも、みんな沢木先生を訪ねる。
みんな沢木先生を信頼してるし、人柄が好きなのだ。みんな沢木先生に診てもらいたいと思って、文句を言わずに順番待ちをする。
 
では何故、みんなは沢木先生を慕っているのか?
 
私が思うに、沢木先生は優しいからだと思う。
どんな症状でも親身になって話を聞いてくれるし、診察後の診断結果はきちんと伝えてくれる。例え、重病が疑われる場合でも、沢木先生はオブラートに包まずに、はっきりと自分の所見を言ってくれる。そして、すぐに大きな病院への紹介状を出してくれる。そんな、重病が予測される時でも、沢木先生はいつも通りの優しいよく通る声で話してくれる。
先生は前向きな言葉で励ましてくれる。
その声と言葉に、私たちは癒されるのだと思う。
 
 

うちの店の壁には、電波時計が掛けてある。
その時計の針が、8時30分20秒を指す頃に沢木先生は必ず来る。
先生の病院は、8時半から受付を開始しており、9時から診察を始めるので、先生はいつも、自分の準備が整ってから、朝食を食べにくる。
私は、先生が来る1分前にトーストが焼き上がり、目玉焼きを皿に載せて、先生をお待ちする。
茹でたソーセージは、先生の顔を見てから鍋から引き上げる。
トーストにはバターをまず塗り、バターが溶けきったのを見て、杏子ジャムをトーストの表面に塗りこむ。
最後に、先生が好きなグアテマラの豆が多く入ったウチのオリジナルコーヒーをマグに注げば完成だ。
テーブルの上に、ウースターソースを置いておくのを忘れてはいけない。

先生が席について一分後には、先生の前に特注の朝食が並ぶ。
先生は「ありがとう。いただきます」と言い、まずコーヒーを一口飲んで「美味い」と言ってから、トーストを齧る。
 
先生は大体5分以内に全部食べ終わり、慌ただしく店を出て行く。
店を出る時、先生は私を見て「ありがとう」と、必ず言う。
 
 

沢木内科医院は、この地域の学校医を務め、老人ホーム等の介護施設の施設医も兼ねている。
土、日は、平日とは別の看護士と受付になるのだが、沢木先生は休まず、夜7時まで病院は開いている。

という事は、沢木先生の休みは、水曜日の午後だけだ。

水曜日は午後の早い時間から沢木先生は、この商店街のドン突きにあるフィットネスクラブに行く。先生は水曜以外の平日の夜9時から11時まで、ここでウェイトトレーニングをしたりしているのだが、水曜日の午後は、最初からサウナで、水風呂とサウナを繰り返して入っている。そして、夕方6時になるとフィットネスクラブを出て、商店街の中の大阪風串カツ屋で、串を6本と肉吸いを食べ、ハイボールを一杯だけ飲んで帰る。
聞くところによると、先生はその一杯だけで酔っぱらうらしく、そのまま家に帰って、歯を磨いてすぐに寝るそうだ。

サウナでも、串カツ屋でも、先生を見かけた人は誰も、先生に気軽に声をかける。
沢木先生は、誰から声をかけられても、嫌な顔一つせずに、一人一人に挨拶したり、相槌を打ったりする。
でも、本当は一人でいたいらしく、切りの良いところで引き上げて、また一人になる。その間合いが良いらしく、回りのみんなは気分を良くして去っていく。


 


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