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【創作大賞2025参加作・連載小説】夜は暗い ②


私はドアの側に立ったまま、少年に「お腹は空いてないかい?」と訊いた。
「空いてないけど、フライドポテトなら食べるよ」
「フライドポテトはないな。ポテチならあるけど、どうだい?」
「塩だけのヤツだったら」
「多分そうだと思う。ちょっと待っててくれないか?」と言い、部屋を出た。
英郎が「ウチのはプリングルスなんですけど、いいっすかね?」と訊いてきたので、「それはちょっと直接彼に訊いてくれないか?」と私は返事をしながら目配せをした。
私は島野と話したい。そのために英郎に少しでいいから時間潰しをしてもらいたいのだ。
英郎がプリングルスの筒を何本か持って、部屋に入っていった。
 
「ごめん、待たせた」私は島野瑤子の横に腰掛けて、小声で話しかけた。
「黒さん、どういう事?」彼女も小声で返した。
「隣に少年がいる事は分かってるよね。彼は中二だそうだ。家は中野で、今日は新宿に「咳止め薬を売ってる人を探しに来たんだそうだ」
「そういう事…で、詳しく話を聞き出そうとしてるところね?」
「そう」
「じゃあもう少しここで待ってるわ。英郎君から黒さんの炭酸水を分けてもらってるけど、いい?」
「ああ、2ℓ全部飲み干してもいいよ」
「そうなる前に、話を終わってね」
「分かった」
 
英郎が戻ってきた。
「三本持って行ったんですけどね。彼、全部貰うって…新しく仕入れないとなあ…」
「川戸屋の兄ちゃんなら、まだ持って来てくれるよ。ついでにカワハギも追加しておいてくれ」
「分かりました」
「後さ、悪いけど、この部屋のエアコンを俺がいいと言うまで切っててくれ」
「ええ?でも、まだ暑いっすよ?」
「それが狙いなんだよ。頼む」
「分かりました」
 
私は部屋に戻った。
彼は相変わらず行儀がよかった。
もらったプリングルスの筒を食べてるヤツ以外の二本は、きちんとサイドテーブルに並べており、食べてる筒は左手で持ち、右手で一枚ずつ取り出して食べていた。
しかし驚くべきは、その速さだ。
彼はひっきりなしにポテトチップスを一枚ずつ取り、バリバリを食べている。
欠片は盛大に彼のパーカーの胸に飛び散っている。
 
「そんなに腹が減ってたのかい?」
「まあ」バリバリ
「じゃあ食べながらでいいので、話の続きをしよう。いいかい?」
「うん」バリバリ
「君は新宿に「咳止め薬を売ってる人を探しに来た」と言ったね?」
「うん」 バリバリ
「何で、新宿に「咳止め薬を売ってる人がいる」と知ったの?」
「お姉ちゃんが言ってたから」バリバリ
「お姉ちゃん?君にはお姉ちゃんがいるのか?」
「いた」バリバリ
「いたって、どういう事?」
「二週間前にいなくなっちゃった」バリバリ
「どうして?家出?」
「分かんない」 バリバリ
「君は「咳止め薬を売ってる人を見つけて、どうしようと思ったの?」」
「お姉ちゃんの居場所を知ってるかもって思って…」バリバリ
「ああ、お姉ちゃんを探そうと思ったんだ…お姉ちゃんは咳止め薬を飲んでたの?」
「分かんないけど、話は聞いてたんだ。姉ちゃん、毎晩新宿へ行ってたし」 バリバリ
「お姉ちゃんはいくつ?」
「18」バリバリ
「高三?」
「そう。でも、学校へ殆ど行ってなかったけどね」 バリバリ
 
彼は本当に器用だ。話の腰を折らずに、タイミングよくポテチを食べ続ける。本当にこれは一つの才能だと思った。
 
「そうか…お姉ちゃんの名前は?良ければ教えてくれないか?」
「ええ?おじさん、姉ちゃんを探してくれるの?」バリバリ
「探せるかもしれないんだ。咳止め薬を売ってる人もね。今は誰なのかは知らないが、知り合いを辿っていけば分かるかもしれない」
「姉ちゃんは君塚有紗」バリバリ
「お姉ちゃんのニックネームとか、ハンドルネームは分かる?」
「エーリサ。書く時はAリサ」バリバリ
「なるほど、エーリサね。じゃあ、おじさんの知り合いのお姉ちゃんを入れていいかな?そのお姉ちゃんが咳止め薬を売ってる人を探してくれるんだ」
「いいけど、この部屋暑いんだけど…エアコン切れてるの?」
「いや、今ちょっとエアコンが壊れててねえ。何ならそのパーカー脱ぎなよ。下にTシャツとか着てないの?」
「脱ぎたくないんだよ。下に何も着てないから」
 
バリバリが聞こえなくなった。彼は1缶食べきったようだ。すかさず次の缶を開けた。
 
「じゃあさっきここに入ってきたお兄さんのTシャツを貸してもらえばいいよ」
「それって、長そで?」バリバリ
「英郎君、長Tある?」バリバリ
「ビールのノベルティなら」
「持ってきて。ついでに島野さんに入ってもらって…」
 
「失礼します」
島野瑤子がTシャツを持って入ってきた。
「はい、Tシャツ」
「ありがとう。着替えるから、二人とも後ろ見てて」
「分かりました」
私と島野は彼を見ないように後ろを見た。
私は、スマホを起動させていた。
彼が着替えてる時に上半身の裸を見た。
背中といい腹といい上腕部といい、彼の身体は傷だらけだった。
ミミズ腫れだったり、青タンだったり、切り傷もあるように見えた。また、新しめの傷もあるように思った。
 
流石の彼も着替えながらポテチは食えないようで、バリバリという音は聞こえなかった。


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