夏目漱石「三四郎」13 丹青会は何故「弁解」をした?

夏目漱石の小説「三四郎」、明治41年(1908年)連載。

最終・第十三章にある、「丹青会」なる画家団体?の展覧会。
ここにおける会話から、私は「三四郎」のヒロイン・里見美禰子は直接の描写こそないが、実は有名人だったのではと、推察した。

これについての補足。



1、丹青会は「弁解」をした


1(1)前回の復習



「三四郎」、最終十三章の冒頭

 原口さんの絵はでき上がった。丹青会はこれを一室の正面にかけた。そうしてその前に長い腰掛けを置いた。休むためでもある。絵を見るためでもある。休みかつ味わうためでもある。丹青会はこうして、この大作に彽佪する多くの観覧者に便利を与えた。特別の待遇である。絵が特別のできだからという。あるいは人の目をひく題だからともいう。少数のものは、あの女を描いたからだといった。会員の一、二はまったく大きいからだと弁解した。大きいには違いない。幅五寸に余る金の縁をつけて見ると、見違えるように大きくなった。

(十三)

(※ 著作権切れにより引用自由です。)


前の記事で私はここの、「特別の待遇」、「あの女を描いたからだ」との描写から、こう推察した。

① 里見美禰子は界隈で「あの女」で通じるような有名人である

② 里見美禰子は、「あの女=里見美禰子を描いたから、展覧会で特別の待遇が与えられたのだろう」との推察が成立し得るような、地位にある、と。


1(2)「弁解」


引っ掛かったのは、ここである。

「会員の一、二はまったく大きいからだと弁解した

まず、「弁解」とはどういうことだろう。
「説明した」ではいけないのか。

弁解」との表現からは、主催団体側にとってなにか気まずい・体裁の悪い指摘をされ、それを受けての説明と読める。

それだけ、「あの女を描いたから特別の待遇なのだ」は、主催者側にとって気まずい推察だった、ということか。


前の記事で私は半分冗談で、「里見美禰子は誰か権力者の愛人だったのでは」と書いた。
しかしそれが当たっていると思えてきた。

優れて見目麗しい美人を描いただけであれば、その絵画につき「あの女を描いたから特別の待遇なのだろう」と推察されたからといって、なにも「弁解」する必要はないのではないか。仮にその推察が間違いなのであれば普通に訂正・説明すればよいだけだ。

しかし、主催者側は「弁解」をすることになった。
つまり、「あの女を描いたから特別の待遇」と思われてしまったら、それが事実であれ邪推であれ、主催者にとっては後ろめたいことなのだ。



1(3)「大きいから」特別待遇?


非常におかしな表現があったことに気付いた。

これも私が長年見落としていただけなのだが、今回発見できた。
何度でもいうが、これがあるから漱石作品を読み返すことはやめられないのだ。

「会員の一、二はまったく大きいからだと弁解した」

大きい絵だから、展覧会で「特別の待遇」が与えられた??

そんな訳あれしませんわ。
ほしたら画家の先生みなさんでっかい絵描きまくるがな。

画のサイズがでかいので、展覧会で特別な待遇もらえますよ。
そんなあほな「弁解」がありますかいな。


私はたまに美術館に行くが、当然だが「絵のサイズがでかいから特別待遇で展示されている」絵画なぞ、一度も見た事はない。少なくともそう感じたことはない。

まったくつまらない絵が、描いたのが画家団体?の会長であるために特別の待遇で飾られてんだな、そう感じた経験ならある。

要は「大きいから特別待遇で飾ってます」この「弁解」は、ウソである。

「三四郎」の語り手がこの真っ赤なウソに突っ込まないまま語りを続けているので、私は見逃してしまっていた。

いや、いま見直すと語り手の、「会員の一、二はまったく大きいからだと弁解した。大きいには違いない。」これも、皮肉を込めたようにも見える。


1(4)弁解の理由


しかし、では何故主催者団体の「会員の一、二」は、こんな苦しい「弁解」をしなければいけなかったのか?

やはり、美禰子は誰か権力者の愛人か、あるいは婚外子か。

そういえば美禰子はいわば無職(家事手伝い?)にもかかわらず、自身の預金口座をもち、そこから三四郎にすぐ金を貸し、名刺も持ち歩き、広田先生に英語を習い流暢に話せるレベルにまでなっていた。

そして美禰子の結婚相手も、どうも地位もお金もありそうな男が、野々宮よし子に断られた後、すぐに美禰子との結婚を決めている。
ちなみに美禰子は両親も長兄も既に亡くなっている身の上である。すぐに結婚が決まった点からも、ただの両親のいない家事手伝いの娘とは思われない。


「三四郎」を語る上で、既に語りつくされたと思っていたが、実はまだまだ謎であったヒロイン・里見美禰子。
またいつか、じっくりと読み直し、考えたい。

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