小説のアイディアの出し方
前回、プロットの作り方の記事を書いたところ、当社比で多くの方に見ていただいていて震えています。
前回は、書きたい物語の大枠はできていることを前提に、起承転結やWeb連載時の各話単位のプロットの作り方を例示したのですが、もしかしたらその前段階の着想の部分をどうやるか、についても需要があるのかもしれないと思ったので、続編として本記事を書いています。
例によってあくまでも私のやり方ですが、こういう方法もあるのか、という例示が何らかの示唆になれば幸いです。コンテストや商業化を意識してのアプローチにも少し触れます。
①史実からエピソードを拾う
色々と調べる中で「へー面白い」「これはひどい」「当事者はどんな気持ちなんだろう……」などと感じるエピソードに遭遇することが多々あります。そこから、Web小説なりライト/キャラ文芸なり異世界恋愛なりのフォーマットに落とし込むことを考えたり、時にはそのまま歴史・時代ものとして書いたりします。
自作の過去の例を挙げると以下のようなものがあります。
・田沼意次の四男を娘の婿にもらっておきながら、田沼家失脚と同時に離縁させ、分家から新しい婿を取った当時の老中水野忠友→さすがに薄情過ぎない?&家の事情で離縁・再縁させられた姫君はたまったもんじゃないな→調べてみたら水野家にも色々あったし、田沼家の栄枯盛衰面白いな……
で、構想したのがこちら。「意知暗殺に端を発する田沼意次の失脚と水野家の離縁・再縁劇」という史実をベースに、記録の上では人柄が見えない当事者の八重姫を「父の不義理に憤る真っ直ぐな気性の姫君」と設定して、避けられない離縁を前に足掻いたり、新旧の夫との絆を確かめる物語になっています。政略結婚や、夫との関係性を重視した辺り、歴史ものに異世界恋愛ものの文脈を持ち込んだ作品、ともいえるでしょう。
2025年の大河ドラマとがっつり重なる時代設定に登場人物なので、どこか拾ってくれないかな、とずっと思っています。
・「皇太子の生母は死を賜る」という奇習、「子貴母死」制度があった北魏→これで殺されるのは意味が分からない……怖い……。当時の後宮ではどんな駆け引きがあったんだろう→遊牧騎馬民族が中華化して隋唐に至る流れ、面白いな……
で構想したのがこちら。「皇子を生んだら殺されるのはおかしい」というファーストインプレッションをベースに「だからこんな国は滅ぼしてやる!」と復讐に燃えるヒロインによって国が滅びるまでの物語になりました。目的のために策を巡らせ敵を陥れる悪女ヒロインの描写、楽しかったです。
もっとWeb小説寄りのアプローチだとこんなものも。
・ハプスブルクからブラジル帝国に嫁ぎ、愛人に夢中の夫に冷遇されて失意のうちに早世した皇后レオポルディーネ……? 何このなろう展開……→っていうかブラジルに帝国があったんだ。ナポレオンによってイベリア半島から蹴り出されたポルトガルが、宮廷ごと新大陸に逃げ込んだ末にできた国……? 面白い……
で構想したのがこちら。
「レオポルディーネの人生にざまあがあって欲しかった」という一念で、同世界転生の異世界恋愛ものに仕立てました。レオポルディーネをモチーフにした「悲劇の王妃」が少し後の時代の別の国の王女として生まれ変わり、かつての実家と婚家が相変わらずクソな振る舞いをしていることに気付いて現世の祖国のために奮闘する、なお話です。前世の記憶が立ち回りのヒントになるという辺り、死に戻りものの亜種でもあろうと思っています。
私の日ごろの興味関心ゆえに、歴史ネタからの着想が多かったですね。上記の通り、知られていない時代や場所や人物のエピソードはまだまだ眠っているはずなので、ネタを探すつもりで色々読んでみると良いのではないかと思います。ネタの核のところは史実から借りつつ架空の世界観にすると、登場人物の配置や作中世界での歴史背景を作者の自由に設定できるので便利ではあります。
いっぽう、私が愛読している集英社オレンジ文庫ノベル大賞の選評にて、似鳥鶏先生が「世界観の描写の厚み・読者への分かりやすさから現実世界を舞台にするほうが良い」と仰っています。ので、架空世界であっても読んでいて説得力のある描写・設定の煮詰めをしなければならないという点は肝に銘じておくべきかと思います。

②売れ筋から考えてみる
出したいレーベルやコンテストの受賞傾向、応募要項に挙げられるベンチマーク作品などから考えてみる、もあります。
ファンタジー要素のある和もの・明治大正あたり・虐げられたヒロイン・手を差し伸べるヒーロー……で書いてみよう! で実際受賞・書籍化したのが下記二作品。
いずれも好評発売中なので、よろしければぜひ。
実際のところ、あやかし遊郭~は江戸時代の遊郭について、呪い子~は鹿鳴館について調べたことがあったのもベースになっているので、史実からネタを拾うアプローチとの区別は難しいのですが。裏を返せば、手持ちの札の中から売れ筋に合わせられそうなものはないか/合わせるとしたらどうなるか……で考えてみる、ということにもなるかと思います。
③売れ筋+@で考えてみる
売れ筋に合わせて受賞書籍化できそうなネタを……を考えていくと、「今売れてるのと少し違うもの」ならどうか、という発想になっていきます。たぶん、投稿サイトのランキングが大喜利状態になるのと根は一緒だと思います。大喜利について思うところがある人もいるでしょうが、読者が求めているのは何か、好まれ期待される要素は何なのかを考えた上で差別化の余地を探るのは意味があるのではないかと思います。
例えば、中華後宮ものは今が流行り! と言って差し支えないと思います。が、いっぽうですでに数多の人気作品がある中で、「またか」と思われないアプローチは、特に「ヒロインがお妃」設定だとなかなか難しいのではないか、という気がします。(もちろん、様々な特技や各々の逆境を与えられた魅力的なヒロインは多いのですが)
そこで、人気の先行作品にある「特技を持つ、妃嬪ではないヒロイン」「お仕事もの」の要素を加えて考えたりもします。お仕事ものについては、現代もの、次いで「ナーロッパ」ものでも人気の要素のはずで、組み合わせの妙を探す、ということにもなろうかと思います。
実際に執筆済の自作の例はこんな感じ。
・中華後宮+ミュージカル
ミュージカルや宝塚が好きなので、中華後宮でやろう+中国と言えば京劇だよね→京劇、調べると政治とがっつり関わっていて面白いな……ということで、「後宮にある女だけの劇団を巡る陰謀劇を、歌って踊るヒロインが解決!」なお話しを考えました。
カクヨムコンテストで特別賞をいただき、角川文庫より書籍化・好評発売中なので、こちらもよろしければぜひ。
・中華+絵画
「煌めく宝珠~」で歌舞を描いたので、次は別の芸術ということで絵画をテーマにしよう! で考えたお話です。中国で芸術と言えば宋の徽宗様、ということで、宋金や明清の史実も意識して、「北夷」によって中華王朝が滅ぼされた時代を舞台に、敵同士から生まれる恋や、贋作と真作にまつわるクリエーターの矜持をテーマに纏めました。
こちらの作品は第11回角川文庫キャラクター小説大賞の一次選考を通過中、何とかなると良いですね。
・後宮+オスマン帝国+商人
中華後宮が飽和気味なら、別の文化圏の後宮はどうか、で考えました。中華後宮に求められる要素が華やかさや、それと裏腹の陰謀のドロドロだと仮定すれば、オスマン帝国の後宮も当て嵌まる! という発想ですね。
「母后の信任を受けて代理人として振る舞う出入りの女商人」という史実も面白いと思ったので組み込みながら。
④応募要項や先行作品から考える
これは、上記②・③と重なる、あるいはその背景にある考え方とも言えるでしょうか。
今現在売れている・商業化している作品、また、公募等の応募要項に目を凝らして需要らしきものを汲み取り、行けそうな題材やアプローチを探っていきます。
Webサイト経由のコンテスト、特にカクヨムで顕著なのですが、応募要項にて例示された方向性や、ベンチマーク作品から「こんな感じの作品が欲しいんだな」というのを察していきます。
「後宮の女商人~」を応募しているカクヨム恋愛小説大賞などは、応募要項がかなり限定的である意味分かりやすいですよね。もはや小説の公募というか企画募集に近い気がするのは、新たな才能・作品の発掘という点では色々な意見があり得るとは思いますが、各レーベル編集部の求めるものを知ることができる、という点では助かると思います。ここまでくると公式からお題をもらっているようなものですね。
こちらの恋愛小説大賞について言えば、各レーベルからのコメントや、別途公開された記事を熟読の上で「後宮の女商人~」もいける、と判断したし、提示されたコメントに近付くように諸々の要素や設定を調整しました。
具体的には、「恋愛要素のボリュームが少なくてもOK」「ヒロインに強みを持たせて活躍させて欲しい」「ヒロインとヒーローが出会うことで共に成長・変化する物語」あたりの文言に勇気をもらいつつ、逸脱しないように……。私の作品が、レーベルから出された期待のど真ん中を討ち抜けるかどうかは微妙ではありますが、的の端っこにでも当たれば変わり種として拾ってもらえるかも、の精神です。
なお、コンテストに出す時はレーベルの先行作品や、特にカクヨム発のコンテストの場合によく挙げていただいている、ベンチマーク作品を手に取るようにしています。
純粋に楽しみのため、というのももちろんありますが、文体の硬軟、描写の濃淡、ファンタジー要素の有無、シリアス度etc…「これくらいなら受け入れてもらえそう」という匙加減を知ったり、「これはまだ出てないな」という空白というかニッチを見つけたりすることができるからです。(あるいは逆に、似た設定があるから止めておこう、または変えよう、と気付けるので……)
最後の④については、趣味で楽しく書いている場合には不要の観点かもしれません。受賞・書籍化を目指す場合にはこういう考え方もある、ということになります。あるいは、題材が思いつかない時には提示された「お題」がヒントになるかもしれないし、締め切りを設定すると執筆のモチベーションンになるかもしれませんしね!
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