見出し画像

逆風のなかの果実 ~第十一章~

第十一章: 萌芽 - 小さな希望の芽生え

教師たちが農産物販売禁止を告げられる1年以上前、農業高校の一角で、小さな希望が芽生え始めていた。

農業研究部の三人

放課後、三人で仲良く農作業

暮れの柔らかな光が田畑を包み込む頃、農場から元気な声が響いていた。
放課後の農作業に励むのは、高津あかり、小田部ゆうな、そして有賀さくらの三人だ。
緑野農業高校には、野球部やサッカー部などの運動部に加え、自分たちで農産物を栽培し、マルシェに参加する農業研究部という部が存在していた。
 
あかりはホースを持ち、緑の苗に水を与えていた。風に揺れる彼女の髪や、水しぶきがキラキラと光り、彼女の笑顔を一層引き立てる。
「ねえ、もっと水をあげたほうがいいかな?」
と心配そうに尋ねる。
 
「大丈夫だよ、あかり。これくらいで充分!」
と、ゆうなが元気よく返す。彼女は土をかき混ぜながら、色とりどりの野菜の種をまく準備をしていた。その手際の良さは、まるで長年の経験者のようだ。
 
一方、さくらは草取りに夢中だった。小さな手で一生懸命に雑草を抜きながら、
「この草、すぐに生えてきちゃうから、マジむかつく!」
と話す。さくらは、ちょっと言葉が乱暴で、思ったことを、すぐに口に出してしまう。
 
三人は時折笑い合いながら、互いの作業を手伝い合った。あかりが水を撒くと、ゆうながその周りを整え、さくらが雑草を取り除く。まるでリズムよく踊るかのような連携だ。
 
「これが終わったら、みんなでおやつ食べようよ!」
とあかりが提案すると、二人は大きく頷いた。
「いいね!私、イチゴ大福持ってきたよ!」
とゆうなが言うと、さくらも
「私も何か持ってくる!」
と嬉しそうに返す。
 
夕日が沈むにつれ、空はオレンジ色から紫色へと変わっていく。農作業の後、彼女たちの心もまた、豊かに育っていくのだった。

研修と出会い

イチゴ農家での研修

時は過ぎて12月。彼女たちは顧問の前川とともに、イチゴ農家に研修に出かけた。イチゴは本来、春から初夏が旬だが、クリスマスシーズンの12月がもっとも忙しい時期となる。
 
冷たい風が吹き抜ける中、あかり、ゆうな、さくらの三人は、青空の下、白い息を吐きながら期待に満ちた顔をしていた。
「イチゴがいっぱい食べられるから楽しみだね!」
とあかりが笑顔で言うと、二人が
「だね。」
と相づちを打つ。
 
農場に着くと、ハウスの中には真っ赤なイチゴが実っていた。農家の方から収穫の仕方やイチゴの管理方法を教わる中、三人は熱心にメモを取りながら実際にイチゴを摘む作業に取り組んだ。
しかし、しばらくして驚くべき光景に出会った。美味しそうなイチゴが、ほんの少しの傷や色ムラのために規格外として廃棄される様子を目の当たりにしたのだ。

規格外のイチゴ

あかりの目が大きく見開かれ、
「こんなに美味しいのに、もったいないよ!」
とつぶやいた。
「本当に、捨てるのが信じられないね」
とさくらも同意する。
「私たち、何かできることはないかな?」

このときから、彼女たちの挑戦が始まった。

商品開発の決意

学校に戻ると、三人は農場の部室に集まり、廃棄されるイチゴについて話し合った。ゆうなが提案した。「廃棄されるイチゴを使った商品、たとえばジャムやスムージーとか作れないかな?」
 
「それなら、クリスマスの時期に合わせて特別なスイーツを作るのもいいかも!」
とあかりが目を輝かせる。さくらも興奮し、
「それなら、私たちでレシピを考えて、試作をしてみよう!」
と意気込む。
 
三人はイチゴ農家での経験を胸に、商品開発に向けてのプランを練り始めた。帰宅後、彼女たちは自宅で試作を重ね、何度も失敗を繰り返しながらも、徐々に形になっていくスイーツに喜びを感じていた。
そしてついにジャムや焼き菓子を完成させ、意気揚々とマルシェで販売することにした。
 
しかし、結果は散々だった。マルシェには、三人以外にもジャムや焼き菓子を販売するお店があり、高校生が作った焼き菓子はプロのそれとは見た目も味も大きな差があった。
落胆した三人だったが、挫けないのが彼女たちのいいところ。
再び商品開発に取り組むことを決意した。

新たなアイデアと成功

次に彼女たちはイチゴの季節性と嗜好性に着目し、そこに汎用性を持たせるアイデアを練ることにした。このような分析はあかねの十八番だった。

「イチゴの生パスタはどうかな?」
とゆうなが提案する。ゆうなはいつも新しいアイディアを考えつき、周囲を驚かす。
さくらが
「それ、いけんじゃね!」
と賛同した。相変わらずの言葉遣いのさくら。
三人は自分たちのアイディに興奮し、試行錯誤の末、ついにイチゴの生パスタを完成させた。

完成したイチゴの生パスタ

しかし、どこで販売するかが問題だった。
生パスタは要冷蔵のため、屋外のマルシェには向かない。
なかなかいい方法が思いつかない中、さくらがふと思いつきでSNSに
「イチゴの生パスタ、誰か買って!」
とストレートな言葉で投稿した。
 
数日後、さくらは大声で二人に駆け寄った。
「この間、なんとなくSNSに投稿したら、こんなに反応が返ってきたよ!地域おこし協力隊やカフェの人からメッセージがこんなに!」
彼女の指さす画面には、
「おいしそう」「どこで買えるんですか?」「うちのお店で販売させてください」「一緒にイベントやりましょう」
といったコメントが並んでいた。
 
地域の百貨店の協力で販売会を始めると、反響は大きく、購入者たちが「#イチゴの生パスタ食べました」とレシピを紹介する交流まで生まれた。

#イチゴの生パスタ

テレビや新聞から取材も受け、彼女たちの取り組みは一躍話題となった。さくらの何気ない行動は、ときに予想もしない成果をもたらすことを、あかりとゆうなは知っていた。
 
購入者の勧めで、イチゴの生パスタの開発から販売までの流れをまとめて、ビジネスプランコンテストに応募した。すると、大学生を押しのけて最優秀賞を受賞することに成功した。

さらに市役所から、ふるさと納税の返礼品として、提供してくれないか、との問い合わせもあった。
 
農業研究部のSNSのフォロワー数は1000人を超え、彼女たちは持ち前の明るさと人懐っこさを活かし、一躍地域の人気者となった。

彼女たちは地域の人気者に

この「もったいない」から始まった彼女たちの行動が、小さな希望となり、この後、奇跡を起こすことになるのだった。


いいなと思ったら応援しよう!