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逆風のなかの果実 ~第八章~

第八章: 狙機 – 手に入れた全会一致

3月28日 緑野農業の会議室

県内の農業高校の農場長たちが集まった。彼らの目の前には、農産物販売禁止という厳しい現実が立ちはだかっていた。この日、彼らが集まった目的は明確だ。各校の足並みを揃え、情報を共有し、今後の対応を協議するためである。
 
23日に届いたFAXを受けて、磐田は校内の対応に追われながらも、農場長会議の準備を進めていた。翌24日には臨時会議の案内を各校に発送し、25日には各農場長の手元に書類が届くように手配した。
公務員の仕事は、時に「お役所仕事」と揶揄されるが、この迅速な動きは教育現場では異例のことであった。
春休みの時期ということもあり、全員が集まるか不安がよぎったが、会議室に全員が顔を揃えた瞬間、磐田は思わず胸を撫で下ろした。
 
「うちには関係ない」と距離を置く学校が出てくるのではないかと心配していたが、彼らの意志は意外にも硬かった。緑野農業からは磐田、前川、後藤が会議に出席し、ソフトランディング路線を取る山岡、高橋、松山は隣の部屋で作業を進めつつ、会議の成り行きを見守っていた。

会議は磐田のリーダーシップのもと、スムーズに進行した。各校の現状報告や今後の見通しが活発に交わされ、高橋が作成した資料を基に、教育委員会やマスコミ、業者からの問い合わせに対する統一した回答を策定することが目的だった。 

全会一致に断固反対を決定する

すべての農業高校が反対を表明

そして、全会一致で「農産物販売禁止に断固反対」を決定した。出席者の中には、危機感を持っていない者もいたが、磐田の熱意に押し切られる形で賛同した。また、教育委員会に正式な説明会の開催を要求することも決定した。会議終了後、磐田は会場をあとにし、会議室には入れ替わりで山岡が入ってきた。

おそらく4月以降、農産物販売禁止や予算削減に関してさまざまな調査の提出を求められるだろうと予想した山岡は、各校の農場長に書類のひな型を渡し、資料作成の注意点を伝えた。これから教育委員会と予算等の折衝を行う際、県内農業高校が一枚岩であることをアピールするためだった。
 
会議が終わった後、磐田は大きく落胆させられる。
ひとつめは校長室での出来事だ。通常、教育委員会との折衝は管理職が行う。
農場長とはいえ、ヒラ教諭である磐田が直接交渉することは教員の慣習上タブーとされていた。

そのため、磐田は校長の和田のもとへ行き、会議結果の報告と、この報告をもとに教育委員会に早期の説明会の開催を要求し、農業高校全職員が断固反対だと伝えてほしいと依頼した。

校長の和田への報告。しかし・・・

頼りにならない校長の和田

しかし、和田の言葉に磐田は失望する。
「こんな大きな事案、僕には荷が重いよ。事態の先行きが見えてきたら、また報告に来てね。」
何事もない平和なときは、こんな校長のほうがおおらかで良かったのかもしれないが、この緊急時においても煮えきらない態度に磐田は落胆した。 

津田もまた然り

もうひとつは津田からの電話だった。電話の内容は、今回の件とは関係のない別件で、施設改修工事の進捗状況を確認するためのものだった。

津田からの電話にも落胆

電話に出た松山は
「磐田も山岡も現在、県内農場長会議に出席中で電話に出れないので、折り返しかけ直させます。」
と回答した。すると津田は、素っ頓狂な声で悪びれる様子もなく、
「年度末に会議って珍しいですね。なんの会議ですか。現場の先生も大変でしょうけど、頑張ってください。」
この言葉を聞いた松山は自分の耳を疑った。
「えっ、ご存知ないんですか?」
津田は、
「ええ、とくに何も聞いてませんし。」
と言った。
 
松山はこのやり取りを磐田と山岡に伝えた。報告を受けた二人は顔を見合わせ、失笑し、力が抜けていく感覚を覚えた。
津田は23日のFAXが現場にどれだけの混乱を与え、農業高校のアイデンティティを守るためにどれだけ現場が汗水垂らしているか知らないのだ。

もしかしたら、上意下達を常とする教育委員会にどっぷり使ってしまい、我々が反対しているとはつゆにも思っていなかったのか。
 
チーム緑農は夕方、事務所に集まり、今日を振り返った。時間がないなかでも頑張った結果、県内農場長会議は成功した。全会一致で反対することが確認でき、説明会開催の要望を出すことも決定した。山岡の方も、書類の統一を図ることができた。

収穫と新たな作戦

また、校長の和田はあてにならないことがわかったことも収穫だった。そして、新たな戦略も浮上した。
津田もあてにならないということだ。
これからさまざまなやり取りは、津田を介してやらなければならない。しかし、津田がこのような感じであれば、我々の陳情や要求が、しかるべき上層部に伝わらないのではないか。矮小化されてしまうかもしれない。そんな懸念が湧いてきた。
 
磐田は心の中で決意を固めた。早い時期に津田にはこの件から退場してもらおう。そして、津田がいつも相談している上席の川端を説明会の場に引き込みたい。

磐田は、次の一手としてターゲットを津田に絞り、作戦を考える準備を始めた。


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