【プラトン全集第11巻『ティマイオス』前編】まとめ
〖はじめに〗
私たちは当たり前のように、
時間の中で生きています。
けれどプラトンは、
そこで立ち止まりました。
時間とは、
最初からあったものなのか。
それとも、
どこかで生まれたものなのか。
『ティマイオス』は、
そんな途方もない問いへ向かう対話篇です。
しかも不思議なことに、
この作品はいきなり宇宙の話から始まりません。
前作『国家』で語られた
理想国家の続きとして始まります。
理想国家。
アトランティス。
宇宙創造。
時間の誕生。
世界魂。
そして数学。
『ティマイオス』前編は、
プラトンが国家から宇宙へ歩みを広げた、
もっとも壮大な物語です。

① 理想国家は、本当に存在したのか
物語の冒頭。
ソクラテスは、
前日に語った理想国家を振り返ります。
優れた統治者。
よく教育された市民。
秩序ある共同体。
しかし彼は、
まだ満足していませんでした。
設計図は分かった。
では、
実際に動く姿を見てみたい。
まるで名建築の図面だけを見せられ、
完成した建物をまだ見ていないようなものです。
そこでクリティアスが語ります。
昔、
アトランティスという巨大帝国があった。
豊かで強大なその国は、
周囲の土地を次々に支配していった。
その前に立ちはだかったのが、
古代アテナイです。
数で劣りながらも退かない。
その姿は、
ソクラテスが語った理想国家の守護者そのものでした。
やがてアテナイは勝利する。
しかしその後、
大地震と洪水によって、
アトランティスも古代アテナイも歴史から姿を消します。
けれどプラトンの狙いは、
伝説そのものではありません。
理想国家を、
歴史の舞台で動かしてみせること。
そして、
ひとつの問いを残すことでした。
なぜ滅びたのか。
その問いはやがて、
国家を超えて宇宙全体へ広がっていきます。

② 世界は偶然できたのか
夜空を見上げたとき、
私たちは何を見ているのでしょうか。
ただの星の集まりか。
それとも秩序か。
ティマイオスは、
世界には二種類のものがあると言います。
変化しないもの。
そして、
生まれては消えるもの。
私たちが見ている宇宙は、
明らかに後者です。
季節は巡り、
生き物は生まれ、
やがて死ぬ。
変化する以上、
宇宙は作られたものだ。
では誰が作ったのか。
ここで登場するのが、
デミウルゴスです。
神というより、
宇宙を形づくる職人。
彼は混沌を見て、
「できるだけ善いものにしよう」
と考えました。
善なるものは、
善いものを生み出そうとする。
だから宇宙もまた、
可能な限り美しく秩序あるものとして作られたのです。
夜空の秩序は偶然ではない。
そこには知性の働きがあった。
ティマイオスはそう語ります。

③ 時間は、作られた
太陽が昇る。
月が満ちる。
季節が巡る。
私たちはそれによって、
時間を知ります。
では、
時間そのものはいつ生まれたのか。
ティマイオスの答えは大胆でした。
時間は、
宇宙とともに作られた。
永遠とは、
変化しないものです。
過去も未来もなく、
ただ「ある」。
しかし時間は流れる。
変化し続ける。
だから時間は、
永遠そのものではありません。
そこでプラトンは言います。
「時間とは、永遠の動く似姿である」
太陽。
月。
星々。
それらは単なる天体ではない。
永遠を映し出すための、
巨大な時計だったのです。

④ 宇宙は生きている
けれど、
時計だけでは動きません。
なぜ宇宙は、
これほど規則正しく動くのか。
太陽は昇り、
星々は軌道を描く。
その秩序はどこから来るのか。
プラトンの答えは、
宇宙は生きているというものでした。
その生命を支えるのが、
世界魂です。
宇宙が美しく動くのは、
魂を持つからだ。
現代風に言えば、
宇宙全体を動かすOSのようなものです。
目には見えない。
けれど全体を支えている。
そして私たちは、
その巨大な生命の内部に住んでいる。
プラトンはそう考えました。

⑤ 世界はどこに現れるのか
設計図がある。
職人がいる。
宇宙を動かす魂もある。
それでも、
まだ足りません。
世界は、
どこに現れるのか。
そこでプラトンは、
コーラという奇妙な存在を持ち出します。
それは物質でもなく、
形でもなく、
単なる場所でもない。
だから彼自身も、
「夢を見るようにしか語れない」
と言います。
あえて例えるなら、
映画が映るスクリーンです。
映像そのものではない。
しかしスクリーンがなければ、
映像は現れない。
コーラとは、
世界が現れるための見えない舞台だったのです。

⑥ 世界は数学でできている
では、
宇宙の素材は何か。
デミウルゴスが用いたのは、
土や石ではありませんでした。
数学です。
火は正四面体。
空気は正八面体。
水は正二十面体。
土は立方体。
プラトンは、
自然界の多様な現象を、
少数の幾何学的形から説明しようとしました。
火が鋭く感じられるのは、
鋭い形だから。
土が安定しているのは、
動きにくい形だから。
もちろん、
これは現代科学ではありません。
しかし重要なのは、
細部の正しさではありません。
世界を数学で理解できると考えたことです。
宇宙は神話だけで語られるものではない。
数と形によっても理解できる。
その発想は後に、
自然を数式で読む時代へつながっていきます。

