【プラトン全集第11巻『国家』】まとめ6/7
【はじめに】
『国家』の後半は、
突然、政治の話になります。
理想国家。
民主制。
独裁。
革命。
最初に読むと、
「なぜ急に政治論が始まるのか」
と思う場所です。
でもプラトンが本当に見ているのは、
国家ではありません。
人間の心です。
国家は、
人間の魂を拡大したもの。
だから国家が壊れる順番は、
人間の心が壊れる順番でもある。
ここから『国家』は、
政治論というより、
巨大な心理分析へ変わっていきます。

① 理想国家は、どう壊れるのか
ソクラテスたちは、
長い時間をかけて理想国家を作りました。
哲学者が導き、
守護者たちは私有財産を持たない。
つまり、
国を守る人たちが、
自分の利益を優先しないようにする国です。
国家全体が、
一つの身体のように動く。
けれどソクラテスは、
突然こう言います。
「では、この国家はどう壊れるのか」
しかも、
最初の崩壊原因は、
外敵でも陰謀でもありません。
教育です。
次の世代に、
理念がうまく引き継がれない。
たったそれだけで、
国家は少しずつ形を変え始める。
プラトンが怖がっているのは、
革命ではありません。
ゆっくりした劣化です。

② 最初の堕落 ―― 名誉の国
理想国家の次に現れるのは、
「名誉支配制」です。
これは、
スパルタのような国家をイメージすると分かりやすい。
勇気。
規律。
勝利。
名誉。
そういうものが重んじられる。
一見すると、
かなり立派な国です。
けれどプラトンは、
ここですでに崩壊が始まっていると言う。
なぜなら、
国家の中心が、
「知恵」ではなく、
「勝ちたい」という心へ移っているからです。
そして、
勝利を求める心は、
必ず「もっと大きな勝利」を欲し始める。
だから名誉の国家は、
次第に別のものへ変わっていく。
欲しくなるのは、
もっと大きな勝利。
つまり、
お金です。

③ 勝利の次に、人は「金」を欲しがる
名誉を求めていた人々は、
やがて財産を求め始めます。
最初は、
こっそりです。
表向きは勇敢で立派。
でも裏では、
金を蓄え始める。
守護者の一人が、
誰にも見つからないように、
屋敷の奥へ財産を隠す。
そういうことが、
少しずつ始まる。
すると国家は、
「金持ち支配制」へ変わっていきます。
ここでプラトンは、
かなり冷静です。
金持ちは、
さらに金を集める。
貧しい人は、
政治から外される。
その結果、
国家の中に、
二つの国家が生まれる。
「金持ちの国」と、
「貧しい人の国」です。
同じ街に住んでいても、
心は完全に分裂している。

④ 民主制は、なぜ魅力的なのか
貧しい人々の不満は、
やがて爆発します。
そして生まれるのが、
民主制です。
民主制の最大の価値は、
自由。
好きな生き方をしていい。
好きな仕事をしていい。
誰も、
生き方を強制されない。
ソクラテスは、
この国家をかなり魅力的に描きます。
市場のように、
色々な人生が並んでいる。
だから読んでいると、
「かなり良い国では?」
と思えてくる。
けれどプラトンは、
ここで奇妙な観察を始めます。
親は子に遠慮し、
教師は生徒に気を使い、
若者は年長者を軽く見る。
社会の上下関係が、
少しずつ溶け始める。
自由が増えすぎると、
誰もが命令を嫌うようになる。
秩序が失われた社会に、
強い者が現れる。

⑤ 民衆の英雄は、いつ独裁者になるのか
社会が混乱すると、
人々は強い指導者を求め始めます。
ソクラテスは、
この人物が現れる瞬間を、
かなり生々しく描きます。
最初、
彼は民衆の味方です。
笑顔で人々に挨拶し、
「庶民を守る」と語る。
金持ちを攻撃し、
困っている人を助ける。
だから人々は拍手する。
誰も、
彼を独裁者だとは思わない。
けれど、
少しずつ空気が変わる。
敵が作られる。
危機が語られる。
「あの連中が国家を壊そうとしている」
そう言われ始める。
すると彼は、
「自分を守るためだ」と言って、
護衛を持つ。
ソクラテスは、
ここで恐ろしいことを言います。
護衛を得た者は、
もう民衆へ戻れない。
なぜなら、
権力を手放した瞬間、
自分が殺されると知っているからです。
こうして民衆の英雄は、
民衆を支配する者へ変わっていく。
自由を求めた国家が、
最も不自由な国家へ落ちる瞬間です。
そしてこの独裁は、
国家だけの問題ではありません。
人間の心の中でも、
同じことが起きます。

⑥ 人間の中には、「怪物」がいる
ここでソクラテスは、
対話相手のグラウコンに向かって、
人間の魂を一つの絵のように描きます。
人間の心の中には、
怪物。
獅子。
人間。
この三つが住んでいる。
怪物は、
終わりなく欲しがる欲望。
獅子は、
怒りや闘争心。
人間は理性です。
そして独裁者とは、
怪物に乗っ取られた人間です。
もっと欲しい。
もっと支配したい。
もっと快楽が欲しい。
その欲望が止まらない。
だから彼は、
自由に見えて、
実は最も不自由になる。
ここでプラトンは、
最初の問いへ戻ります。
「悪人のほうが得をするのではないか」
第一回で登場したトラシュマコスが言った、
あの危険な言葉です。
けれどソクラテスは、
独裁者の魂を見せながら、
逆のことを言う。
欲望に支配された人間は、
外からどれほど強そうでも、
内側では壊れている。
正義とは、
法律ではない。
魂の内部が、
秩序立っている状態なのだと。

【おわりに】
だから『国家』は、
政治の話としてだけではなく、
あなた自身の話として読まれてきた。
プラトンが言いたかったのは、
理想国家を作れということではない。
自分の内側に、
怪物を飼いすぎるな、
ということです。

【国家の流れ】

