見出し画像

なぜ、飼い主がいると犬は喧嘩するのか

青い空と緑の香りが胸いっぱい広がるドッグラン。うちの子はどこに行ってもフレンドリー。犬が転げ回って遊ぶ姿を見るだけで幸せ〜❤︎

・・・という未来を想像して犬を迎えたのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。

犬って誰にでも尻尾を振って、大きな口を開けて舌を出して笑う。そんな友好的な生き物のはずだよね?

なんで、うちの子、ドッグランで喧嘩しちゃうの?

思い描いていた愛犬との夢が、鏡が割れるように崩壊していく。


・・・そんな飼い主は少なくない。

いや、このご時世、むしろ意外と多い。




吠える愛犬を「大丈夫だよ」と抱き上げる飼い主たち。
しかし、抱っこして吠え止んだという話は一度も聞きません。

それなのに、人はなぜ、愛犬を抱き上げるのでしょうか。


犬が攻撃モードに入る時

私は15年前から犬育てに関わる相談を多くの飼い主から受けてきました。
犬の問題行動の相談で最も多いのが、吠えたり噛むという攻撃行動についてです。

  • 散歩中に犬や人に吠えてしまい、なかなか外出が楽しめない。

  • ドッグランに連れて行くと、喧嘩をしたり吠えたりして気まずいし、危ないので連れて行くことができない。

  • お母さんとソファでくつろぐ犬が、近づくお父さんに牙を剥く。


そんな悩みをどれだけ聞いてきたことでしょう。


そう言った場合、多くのドッグトレーナーがテリトリー意識について触れます。もちろん私もそうです。

犬のテリトリーというと、家の中とか、生活圏内という印象があるかもしれません。もちろんそれもあります。

ですが、実際にはもっと小さなテリトリーが存在します。
例えば、家の中でも家の中の一部・・・クレートの中や部屋の隅っこ、ソファの上などがテリトリーになることもあります。

その時の犬の置かれた状況によって、テリトリーの範囲が変わると考えても良いかもしれません。

多くの場合、「他者に邪魔されたくない場所」と考えられます。

家の中全体を軸に考えれば、家の外の者が全て敵になる。
宅配の人に吠える、来客に吠える、家に帰ってきたお父さんに吠えるなどはこれにあたります。

家の中の自分を軸に考えれば、もっと小さなクレートなどがテリトリーなり、自分以外の誰かもしくは犬が今内側にいると認識した特定の誰か以外が敵になる。

つまり、クレートで寝ているところに誰かが近づくと吠える。
ソファでお母さんと一緒にくつろいでいるところにお父さんか近づくと吠える・攻撃する。ということが起こります。

犬が守りたい範囲をテリトリー、
犬が守りたい欲求を持っていることをテリトリー意識と多くのドッグトレーナーは言います。


飼い主の腕の中は犬にとって至高に心地の良い場所です。
犬を抱き上げているポジション、犬が人の足の下に入り込んでいるポジション。そこを犬が陣取ると犬は、攻撃モードになります。
「資源保持+安全基地依存」の合成によるテリトリーです。


興味深いことに、飼い主自体がテリトリーになると、飼い主がリードを持っているだけ、あるいはそこに存在しているだけで、"領域展開"されてしまいます。

社会の中に置かれた犬が、安全のスポットライトを飼い主と自分のみに当てると、瞬く間に社会が敵になるのです。

犬は群れで生きる動物です。群を守ろうとするのも、また犬の正常な反応。群の存在自体がテリトリー意識につながります。

家族は犬にとって、もっとも標準となる群なのです。

ドッグランの中には複数の家族、つまり複数の群れが混在していることになります。
だから、犬が喧嘩するのはある意味当然です。


と、ここまでは誰にでもできそうな、よくある解説です。




テリトリー意識とは何か

さて、皆さん、考えたことはありませんか?

でも、そもそも、どうしてテリトリー意識が芽生えるのだろう。
多くのドッグトレーナーは学習によりテリトリー範囲が決まると説くでしょう。

でも、そもそも、その学習とその意識を脳が作っているとしたら?
その時、脳はどう動いているのでしょう?

脳内をうまくコントロールすれば、テリトリー意識は解消できるのでしょうか?

私の頭の中にはそんな疑問が生まれました。


私は10年以上前から犬の問題行動を改善に心理学視点を活用していました。高校生の頃から心理が大好きだった私は、短大で児童教育を学んでいた時も心理学の授業を入れれる分だけ盛り込みました。

幼稚園教諭を辞めてトリマーになり、ドッグトレーニングに興味を持ってからは、近所の大学の学習心理学と行動分析学の授業に通ったりと、学びを続けて、犬のしつけ相談に活かしてきました。

しかし、それだけでは、どうもしっくりこないこともあったのです。どうも、私は物事の効率化が好きなようで、「もっと近い道はないのか?」という近道を探すために遠回りする癖があります。


そんな時、こんな本を読みました。
それが脳科学を研究している中野信子さんの
「人はいじめをやめられない」
youtuberの岡田斗司夫さんが紹介していたのがきっかけです。

オキシトシンのダークサイドと言うのを知って、心底震えました。そしてストンと腑に落ちました。

私はこれを読んだ時に、なぜ飼い主が抱き上げると、攻撃モードに入ってしまうのかが理解できたのです。

オキシトシンは仲間意識を高め、敵認定を強化する。仲間を守るためには、残酷な決定もする。
さらに、「シャーデンフロイデ」という、嫉妬や妬みのような感情も生み出してしまうのです。

つまり、敵を排除しようとする力が働くのです。

この様子が、私の経営しているドッグランでも見事に当てはまっていました。

中野信子さんの脳科学の本はとっても面白いので、是非是非、読んでみてください。




ドッグランには地雷がある

ムギちゃんという、とっても優秀な子がいました。
チワワとトイプードルのMIX犬。
とにかく天真爛漫で、運動会を開催すると総なめ1位くらいトレーニング優秀な子でした。

しかしムギちゃん、とっても喧嘩っ早かったのです。
しかも、何かされたわけじゃなく、ただ隣にいる子にも攻撃をしちゃう子でした。

よくよく観察していると、自分より可愛がられる子が嫌い。自分より元気そうな子も嫌い。喧嘩を仕掛けてくる奴なんてもってのほか。

まるで「あんた、調子乗ってんじゃないわよ」と言うように噛みつくのです。まさに犬世界の細木数子。

ただ、これお父さんとお母さんがいる時限定。
幼稚園で預かっているときは、そんなこともなく、穏やかだったんです。

お父さんとお母さんが一緒にいる時のむぎちゃんは目がギロギロして、まるでナマハゲが悪い子を探すようでした。でも幼稚園では姉御肌のしっかり者。
そんなギャップを抱えていました。

でも、実はこれ、ムギちゃんだけじゃないんです。攻撃の強弱はあるとして、皆、飼い主がいる方が興奮度が上がって喧嘩しやすくなります。

全くその逆が起こる・・・つまり飼い主がいたら賢いのに飼い主がいなくなった途端、調子に乗りまくって雷落とされるのは、恥ずかしながら我が愛犬。現在3歳のボーダーコリーアーニャくらいです(笑)

皆誰だって、飼い主さんを独占したいし、他の子に良い顔して欲しくない。できたらその場の皆の愛情を自分に向けたくなる。

犬だって、嫉妬するし、シャーデンフロイデなのです。


アーニャ


喧嘩を無くす8個のルール

さて、そんな喧嘩っ早いムギちゃんのために、私はドッグランに来ている飼い主さんたち、全員に指導をしました。

ドッグランには地雷がある。 飼い主たちが座り込み、輪を作った瞬間、そこは社交場から一触即発の「テリトリー」に変貌する。

同時に、飼い主たちの楽しいおしゃべりも犬に高揚感を与えてしまう。

そこで、私は8個のルールを作りました。

  1. ドッグランに入った時、犬が寄ってきたら人と犬が挨拶してもOK。

  2. 挨拶が終わったら、そっけなくして。犬が構ってってきても、目を合わせない。

  3. 犬が足の近くに来たらしれーっと離れて足元を陣取らせない。

  4. 甲高い声で話かけたり、しゃがみ込んで犬を撫でない。

  5. 人が密集しないで、適度にバラけて犬同士の空間を確保する。

  6. 人同士もゲラゲラ笑わない。

  7. オヤツ・オモチャは禁止

  8. 空気のように振る舞う。


そうすると、驚くほどに、犬たちの興奮レベルは下がって、皆それぞれが自分の時間を大切にして、遊び始める子もいれば、のんびり歩いている子もいる。そしてムギちゃんも全く怒らない。他の子にぶつかられても「何すんねん」くらいの反応で終わっていたんです。

とっても興味深いと思いませんか?

ここからわかることは、行動と学習のみで物事は形成されていない、ということ。
そして、飼い主という存在が、いかにノイズを発していたかがわかります。

やはりどんな場面を見ても、人の足元というのは喧嘩が起こりやすいのです。

飼い主が離れたら、
クレートから出されたら、
リードが離されたら、

急に犬が小さくなる。そんなことは日常茶飯事です。

ということは、やはり人の周りを陣取るという独占欲やテリトリー意識も攻撃モードに関係しています。


喧嘩を起こす脳内ホルモン

では、この時、犬達の脳内では一体どんなことが起こっているのでしょうか。

ここからは、このドッグランでの出来事を3つのホルモンの視点から分析、考察していきます。

1. オキシトシン:テリトリーの「火種」


まず知っておきたいのが、オキシトシンです。
「愛情ホルモン」として有名なこの物質には、あまり語られない側面があります。仲間との絆を強める一方で、「それ以外への排他性」を同時に高めるという性質です。

そしてオキシトシンは、密着しなくても分泌されます。見つめ合うだけで分泌されるという研究があるように、飼い主のそばにいる、声をかけられる、視界に入る——それだけで条件は揃ってしまう。
つまり飼い主が存在するだけで、すでにオキシトシンは動いている。

安心感があるということは、良いことのようで、これが悪さを引き起こすこともあるのです。




2. バソプレシン:テリトリーを「攻撃行動」に変換する物質

もう一つ、興味深い物質があります。バソプレシンです。

バソプレシンは扁桃体や視床下部に作用し、警戒レベルを引き上げ、交感神経を活性化させる物質です。テリトリー意識、防衛行動、攻撃性に深く関わっています。


ただし正直に言えば、バソプレシンはまだ研究途上の物質です。 オキシトシンと比べて解明されていないことの方が多く、犬を対象とした研究もほとんどありません。ここからはわかっていることと、現場で見てきた犬たちの様子を重ねたViviの考察として聞いてください。

《なぜ飼い主のそばがテリトリーになるのか》

飼い主のそばにいるだけでオキシトシンが分泌され、「この人は守るべき絶対的な仲間」という回路が強化される。
私はここで、バソプレシンが連鎖して作動するのではないかと考えています。

「守るべきもの」が確定した瞬間に、バソプレシンが「だから守らなければ」という防衛スイッチを入れる。

守るべき対象(飼い主)への愛が深まるほど、外敵への攻撃スイッチが入りやすくなるという矛盾が、脳内で起きている可能性があるかもしれません。


お母さんとソファでくつろいでいる犬が、近づくお父さんに牙を剥く。あの現象はまさにこれです。特定の家族とのオキシトシン回路が強化されるほど、それ以外の家族がバソプレシンの「脅威」として処理されやすくなる。


テリトリーと聞くと私たちはつい「場所」をイメージします。しかし、本当にそうでしょうか。
テリトリーとは、「場所」のことではないのかもしれません。

飼い主のそばに立つたびに、脳の中でホルモンの連鎖が起動する——その「状態」そのものが、テリトリーの正体なのではないか。

テリトリー、独占欲、元を辿れば脳の同じところに辿り着くかもしれません。


《生まれつきの個体差について》

バソプレシンには興味深い研究があります。

同じハタネズミ属でも、一夫一婦制の種と乱婚型の種では脳内のバソプレシン受容体の分布が全く異なり、受容体の遺伝子を導入する実験では行動そのものが変化したという結果が出ています。

これを犬に当てはめると——執着心が強い子、テリトリー意識がどうしても抜けない子、同じ関わり方をしても警戒が強い子。そういった個体差の背景に、バソプレシン受容体レベルの違いが関係しているのではないか、というのが私の仮説です。

生まれつきの脳の特性として、その子を見る必要があります。執着心の強い子は、より飼い主の配慮が必要になるでしょう。


ドッグランでは、飼い主から離れていても攻撃する子もいますが、それは、領域展開の範囲が広く、ドッグラン自体が自分のテリトリーになるからです。

ドッグランの中には複数の家族という群れがあるので、所有欲の強い子・・・つまりバソプレシンの受容体が多い子は、ジャイアンみたいになるのかもしれません。

ドッグランを共有の場ではなく、自分のものと勘違いしてしまう。その中で自分の脅威になりそうな相手を見つけると、喧嘩をふっかけてしまうのです。



3. ドーパミン:興奮を「慢性化」させる物質


ドーパミンは報酬や快楽に関わる物質ですが、現代の犬はこれが過剰に分泌されやすい状態に置かれがちです。

飼い主の高い声での呼びかけ、「かわいい」という声かけ、人同士の会話の盛り上がり——これらはオキシトシンを分泌させるだけでなく、同時に脳内のドーパミンも引き上げます。

日常的にこういった関わりが続くと、犬の脳は飼い主が存在するだけで常に覚醒・興奮状態に入るようになります。いわば、飼い主が興奮剤になっている状態です。

その状態でドッグランに来て、他の犬や飼い主という刺激が加わると、ノルアドレナリンという興奮系のホルモンも分泌されます。脳はすでに臨戦態勢にあるため攻撃モードに入りやすくなります。


まとめ

つまり、飼い主がいる→興奮・覚醒レベルが上がる→飼い主の周辺でテリトリー意識が高まる→攻撃する。

ドッグランでの喧嘩は、この連鎖で起きていることが非常に多いのではないかと考えています。

気分高揚のドーパミン+安心のオキシトシンにバソプレシンというスパイスが加われば犬たちの脳は一気に攻撃モード(ノルアドレナリン放出)に入ります。

犬たちが攻撃的になる時には必ず、脳内でホルモンが動いています。

家庭内での攻撃——お父さんが近づくと噛む、
家族の誰かにだけ唸る——も、ほとんどこの原理で説明がつきます。


ホルモンそのものは、生きていれば誰にでも分泌される必要不可欠な物質です。ホルモン自体が悪さをしているわけではありません。

ただ、日頃から刺激過多な生活を送っていると、ホルモンバランスの偏りが起こり、キレやすい子になってしまうのは人も犬も同じではないかと思うのです。

ドッグランで犬たちと触れ合いたい気持ちはわかります。でも、そこに遊びにきている犬たちはセラピストではありません。

過度に人が介入することで、人がノイズになることを考え、犬たちが楽しく遊べることを優先する。
そんな考えを持てる愛犬家が増えれば、世界はもっと平和になるかもしれません。

犬が脳内を整えた生活を送れるように、飼い主が配慮すべきことは、まだまだたくさんあります。どんな生活を送ると良いのかについてはまた改めて書いていこうと思っています。


ちなみに余談ですが・・・

「座り込み、抱っこ、撫でまわし、過剰な声かけはやめてください」とルールを伝え、ドッグランの外にわざわざ休憩スペースを設けて、どれだけ指導しても——。

私がドッグランを離れてしばらく経つと、気づけばまた座り込んで、犬を撫でている飼い主さんたちがいる。その後のことは、皆様の予想の通りです。

犬の指導より、人の指導の方がずっと苦労する現場でした。
結局、
「(犬への干渉という)報酬」の中毒になっているのは、犬ではなく飼い主の方なのでしょう。
苦労をご察しください。


実は、ドッグランのこの理論、ミクロ視点で見るとこういったホルモンの影響。でもマクロ視点で見ると熱力学的な作用が働いていたりもします。
大切なのは空間内のエネルギー設計。
この話はまた別の機会に。


いいなと思ったら応援しよう!

月華vivi よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!