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のれん分けという選択:小さく強くつながる士業の未来図

 クライアントが税理士に不満を持つ要因のひとつに「所長が顔を見せなくなった」ということがあります。開業したてのころは所長が毎月話をしにきたのに、いまは税理士でないスタッフが来て作業をして帰っていくだけ。

 クライアントからすればサービスの質が低下していると感じてしまうので不満がたまるのでしょう。いやむしろそれは、本質的には「自分は昔からの顧客なのに今やなおざりに扱われている」不満であるというほうが正しいかもしれません。

 税理士事務所を大きくしていくと事務所を良い立地に構えてスタッフを増やしたり、ハードウェアやソフトウェアを増やしたり、事務員や情報システム担当者を雇ったり、などとコストが大きくかさんでいきます。

 そうなると所長はさらに売上を拡大しなければならず、少しでも大きな仕事を取るために、業界団体の仕事を積極的に引き受けたりとか、大きな取引先とのゴルフや飲み会にいそしんだりとか、見込み客への提案に駆けずり回ったりとかする必要が生じてきます。そうなれば所長は昼夜問わず事務所にも顧客にも構っていられなくなるでしょう。

 そして気が付けば自分はお客様と随分長い間接していない。それどころか自分が会ったこともないクライアントもいつの間にか増えている。昔からのお客様からは所長が顔を見せない、職員が素人だと不満をもらうけど、職員に聞けばやることはやっていると言うだけ。

 さて、果たしてそれは所長が目指していた事務所の姿だったのでしょうか?

 確かに、数百人の職員を雇用できる税理士法人を作り、所長は経営者として実務から離れて大きな収入を得る、それ自体は素晴らしいことです。そこまで組織を大きくすることは所長の手腕が極めて優れていなければ、器もとてつもなく大きくなければ決してできないでしょう。

 しかし、顧客が置き去りにされてはいないでしょうか?

 実は、お客様は所長が来なくなったから不満を感じているわけではないのです。「自分は昔からの顧客なのに今やなおざりに扱われている」から不満を感じるのです。つまり、所長のお墨付きの優秀な人材が対応してくれるのであれば不満を感じることはないのです。

 したがって、所長の仕事はある時点からこの「お墨付きを与えること」になるのです。そのある時点とは「顧客が増えすぎて自分が見きれなくなったとき」です。

 しかし、実際にはお墨付きを与えられる人材を採用したり育てたりすることは簡単ではありません。より多くの顧客を受け入れるために事務所を大きくすれば、必然的に職員のレベルには差が生じてくるでしょう。

 売上に直接寄与しない間接人員も増え、オフィスの維持費も大きくなり、コストばかりが増えていきます。その増大するコストを補うため、料金設定も高くせざるを得ません

 しかし前述したとおり、すべての顧客に十分なレベルの職員を担当させることもまた困難です。価格とサービスが見合わず、また顧客が不満を募らせる。悪循環が所長を悩ませます。

 さて、どのようにすれば、お客様にご満足いただきつつ事務所を大きくしていけるのでしょうか?まだ事務所を始めて1週間の私がファイナルアンサーを見つけられるはずもありませんが、ヒントはあると感じています。昔から、いや「昔は」よく行われていた慣例です。

 そう、「のれんわけ」です。

 そもそも、相当な大企業をクライアントに持たない限りは士業の事務所に大きさは必要ありません。いまの時代はクラウドサーバーも充実していますし、AIの電話応答を使えば電話番すら必要ありません。クラウド書籍サービスやクラウド会計、WEB会議を駆使すればリモートワークも自由自在です。

 無駄を排し、本業に集中することが重要です。本業とは実務発信、そして提案です。かつての時代はこれらをすべて総合して「営業」と言っていました。いまでは「営業」は「提案」だけを指す言葉になっています。

 いまこそ、原点回帰が必要です。「営業」に集中し、それ以外はテクノロジーや専門家の力を借りて最小限まで省力化することが重要でしょう。

 そして「のれんわけ」の妙味は、人材の採用と育成にあります。のれんわけ組織では、独立志望の人材しか採用しません。所長が意識の高い独立志望の人材を採用し、育成してお墨付きを与えるのです。

 所長はお墨付きを与えた職員に大切なお客様を任せます。お墨付きを受けた職員は独立して、新しい事務所の所長になります。お客様も新しい所長に付いていきます。

 そうすると所長の収入は減るかもしれませんが、きちんと営業をしていれば顧客は増えるでしょうから、次にお墨付きを与える人材を育てることのほうが重要でしょう。

 常時2~3人の独立志望職員を事務所に抱えて、1人独立したら1人採用するようにして、職員同士で育成をするシステムにしたほうがよいかもしれません。

 のれんわけ組織は元の所長のお墨付きが新しい所長に与えられているため、新しい所長に元の所長のDNAが受け継がれていると言えます。その新しい所長はまた自分で職員を育て、お墨付きを与えて独立させて新しい所長を作ります。

 つまり、所長のDNAが受け継がれて増えていきます。ただ増えるだけではありません。それぞれの所長は別人格であり、違ったバックグラウンドがあり、違った経験をして、違った専門を作っていきます。DNAが時代と環境に適応して、進化していきます

 ひとつひとつの事務所は小さいかもしれませんが、そのDNAは共通のものがあり、いざとなれば協力もできるし連携もできる。異なる専門を持つもの同士が協力と連携を強くすれば、大きな事務所にも対応できるはずです。

 これからの士業の事務所が目指すところはこの「のれんわけ」組織ではないかと私は考えています。緩くて強い信頼で結ばれた集合体こそ、無駄なく大きな力を発揮できる。21世紀はそういう組織が力を増してくるのではないのでしょうか。

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