ガメラを「永久保存」すること― 原口智生インタビュー
特撮怪獣映画「ガメラ」シリーズが60周年を迎える今年、「ガメラ 永久保存化プロジェクト」の第三弾として、『ガメラ2 レギオン襲来』のガメラスーツを復元するクラウドファンディングが開始されました。
平成ガメラシリーズの怪獣造型を担当し、ガメラスーツ復元の指揮を執る原口智生さんにお話を伺いました。
―これまでに二回、「ガメラ永久保存化プロジェクト」というクラウドファンディングが実施されてきましたが、振り返ってみていかがでしょうか?
原口智生さん(以下、原口) 最初に「ガメラ永久保存化プロジェクト」の相談をいただいた時は、正直あまり気乗りがしなかったというか(笑)
撮影の時に作ったスーツって、どうしても加水分解してしまうので、それを「永久保存」するということは、FRP樹脂に置き換えるというすごい大変な作業になるんですよ。予算的にも作業日数的にも大変な作業であることは間違いないので、相談された時は「気が重いな」という感じでした。
クラウドファンディングというものに関わるのも初めてで、費用を算出したらやはりかなりの高額になるので、今だから言えるのですが、正直「これは成立しないでしょ」って思いました(笑)
ですが、その時の担当者がとても情熱的な人だったので、その熱意に押されて協力することになりました。
目標額に達しなかった場合は(復元する)プロジェクト自体無くなるということなので、高をくくっていたというか、「そんなお金が集まるわけない」と思っていたので、開始から一ヶ月ぐらいの段階で達成した時(2021年12月14日に募集を開始し、2022年1月14日に目標金額を達成)は、正直言って「やらなきゃいけなくなっちゃった、どうしよう」みたいな(笑)
そんな感じで始まりましたが、お披露目の時(角川大映スタジオでの撮影会)にファンの方たち、支援してくださった方たちもすごい喜んでくださって、結果的にやって良かったと思いましたね。
―やはり「永久保存」できるガメラを作ることは、撮影用のスーツの制作と比べて大変なのですね。
原口 最初に企画を立ち上げた担当者は、「映画の中に映っているガメラそのものを残したい」と言っていました。
最初からFRPのような劣化しない素材で作る方が早いんですけどね。でも「映画の中に映っているガメラを残す」ということは、映画の撮影の時とほぼ同じ素材で一回作って、それをFRPに置き換える作業になります。正直に言うと二度手間となる作業なんですが、まさに「あのガメラを残す」というプランは成立したので、やってみて非常に良かったと思いましたね。

―三回目のクラウドファンディングで復元を目指す『ガメラ2 レギオン襲来』のガメラは、どのような特徴があるのでしょうか?
原口 制作当時のメイキングのムック本や、近年ホビージャパンから出版された「平成ガメラ造型写真集」などで受けた取材の中でも語っていますが、『ガメラ2 レギオン襲来』(以下、「G2」)は『ガメラ 大怪獣空中決戦』(以下、「G1」)の翌年すぐに制作が決定したという経緯があります。「G1」が映画として評価されたこともあって、続編が比較的早く決定しました。自分はもう一作目で結構ヘロヘロだったんですけど(笑)
その中で、金子・樋口両監督から「G1」より戦闘的な感じのガメラにしたいという意向があって、ガメラのデザインを少しシェイプアップしようと。
ただ、宇宙からやってくる敵のレギオンという新しい怪獣もいて、制作する造型物の物量が非常に多かったこともあって、予算の配分もあり「G1」のガメラの胴体を流用することになりました。「G1」のガメラの胴体をベースに少し戦闘的な感じにチューニングして作ったものです。いろいろ細かい部分は違うけれども、ボディに関してはほぼほぼ「G1」のガメラと変わらないんです。
―今回のクラウドファンディングで目標を達成したら、どのような作業が行われるのでしょうか?
原口 一回目から「ガメラ永久保存化プロジェクト」の主眼としては、「映画のスクリーンに映っているガメラそのもの」を立体として永久保存するということがあるので、作業としては同じですね。
先ほども二度手間という言い方をしましたが、ラテックスとかウレタンのような撮影用のスーツの素材で一度パーツを作り、それからまた型を取ってFRPに置き換える。そして同じ形に組み上げて作り上げるというのがおおよその作業の流れになると思います。

―他の怪獣と比べて、ガメラならではの特徴はあるのでしょうか?
原口 撮影用のスーツを作るという意味では、他の怪獣と大きく変わらないと思います。
デザイン的な特徴としては、ガメラは首が前に出ているんですよ。
中に入っているスーツアクターの頭の真上に怪獣の頭が付いているようなデザインのものは、怪獣の頭を支えるのは比較的楽なんです。ガメラのようにスーツアクターの頭よりも怪獣の首が前に出ているというのは、頭部を保持したり首を動かしたりするというのはなかなか大変なんです。その中に入っていたスーツアクターたちも大変だったと思いますね。
―映画の撮影に使われた中間制作物を保存することについては、どのようにお考えでしょうか?
原口 僕は小さい頃からゴジラだったりウルトラマンだったり、もちろんガメラもですけど、特撮を観てシビれちゃって、その魅力に取りつかれちゃってて。
自分が思う特撮の「中間制作物」を残したいというのは、例えばミニチュアセットの民家一つ一つ、電柱一本、そういったものすべからくについてなんですよね。
平成ガメラシリーズについても、ミニチュアや着ぐるみといったいわゆる特殊撮影(特撮)という技術を中心にして作っていましたが、その中でも時代の変化や技術の進歩があり、CGIやデジタル技術がどんどん導入されていきました。
今の時代に大半がデジタル技術で作られているということについて何か言いたいということではないのですが、自分の中では小さい頃観ていた特撮は、ミニチュアや着ぐるみのような中間制作物が使われていたので、「かつてこういうもので映画が作られていたんだ」ということを残したいということですね。
―そのように思い始めたきっかけというのはあるのでしょうか?
原口 高校生ぐらいの頃かな。アメリカにフォレスト・J・アッカーマン(1916~2008)という、SFや怪奇映画に関連する研究家、いわゆるコレクターみたいな人がいて、その人のコレクションを特集した本があったんです。少年向け雑誌の別冊か何かでした。
アッカーマンが持っている映画のポスターであったり、撮影に使われた小道具であったり、SF小説の挿絵の原画だったり、コレクションとそれを解説するみたいな本でした。
興味があって買ってみたら、『メトロポリス』(1926年・ドイツ)というSFのサイレント映画に出てくる「マリア」という女性のロボットの写真が載っていました。『メトロポリス』の撮影に使われたマリアの着ぐるみがドイツの博物館に収蔵されていて、その当時のモノクロ写真が載っていたのですが、その後第二次世界大戦で博物館が爆撃されて、粉砕してしまったそうです。そこで、アッカーマンが映画の造型をやっている人たちに頼んで、残っている資料をもとに作ってもらったんだそうです。復元されたマリアは、カラー写真で載っていました。
それを見て「素敵だな」と思ったのは、一つのきっかけかもしれないですね。
―復元したものを「永久保存」するという、今回のプロジェクトにも通じるエピソードですね。復元されたガメラを見て、かつての原口さんのようにそのような道を志す人もいるかもしれません。
原口 そういう方もいらっしゃるかもしれませんね。ガメラの撮影で使った実物ではないにしても、映画と同じスタッフが復元するものですからね。
最初に企画を立ち上げた担当者の言った「映画の中のガメラを残す」というのは、こういうことだったのかもしれません。
これまで二回も目標金額を達成できて、それが実現できているということは、我々が熱意を注いで作った映画が、それだけ愛されてるっていうことなんじゃないか。それはやっぱり嬉しいです。
―今回のクラウドファンディングでは、お返しアイテムとして「ガメラの皮膚の切り落とし」や「ソルジャーレギオン 1/3ギニョールの脚」もご提供いただきます。
原口 自分がクラウドファンディングに関わったのは「ガメラ永久保存化プロジェクト」とピープロ作品のフィルムをデジタル化するプロジェクト(2023年実施「『ライオン丸』『タイガーセブン』『ザボーガー』昭和特撮フィルムを後世に残したい!」)くらいなので、どういうものが喜ばれるかというのはあまりわからなかったのですが(笑)
昔、怪獣の着ぐるみの皮膚をカットしてメモリアル品にしたりとか、少年誌でバラバラにした怪獣の着ぐるみを懸賞の景品にしたりとかはあったみたいですね。

ガメラの皮膚については、前二回の復元の時に、皮膚を切ってつないだりするので、どうしても作業上、「切り落とし」が出たんですよね。何か「切り落とし」というとハムみたいですけど(笑)
今回のクラウドファンディングの担当者から、「そういうものがあれば喜ばれるんじゃないか」という話があって、ちょうど工房で廃材を整理していた時に残っていたので、プレートを付けてレリーフのようにしてみました。

1/3サイズのソルジャーレギオンのギニョールは、当時五体作ったものの一つです。
札幌でソルジャーレギオンに覆われてガメラが苦しんでいるシーンでは、ガメラの大きな皮膚を作って、1/3サイズのギニョールに操演スタッフが手を入れて動かして撮影しました。そのようなクローズアップショットのために五体作った中の一体です。
他にも、映画の中盤でソルジャーレギオンがパチンコ屋の看板に引っかかって、感電して死んでるカットがあって。看板から落ちてくるカットは金子組(本編班)で着ぐるみで撮影して、看板を見上げた方のカットは樋口組(特撮班)で撮ったんです。1/3なので、看板のミニチュアも相当大きかったですね。すでに死んでいるというカットなので、ギニョールにはダメージ加工をしてあります。今回提供するのは、そのボロボロになったジャンクパーツですね。
残りの四体はダメージ加工もしていなくて、撮影が終わった後も比較的綺麗に残っているので、大切に保存されています。
今回のギニョールはジャンクパーツですが、支援してくれた方のお手元でメモリアルとして保存していただけたら嬉しいです。

それに、やはりスーツの復元にはかなりの費用がかかるし、材料費も非常に高騰しています。もしかすると「G1」の復元の時の倍くらいになっているかもしれない…
目標金額の中にはお返しアイテムの制作費や運営するお金も当然含まれていますし、やはりそれだけの予算がないと、実現できないわけです。ジャンクパーツとはいえ、制作費を捻出できる、その分喜んでもらえるお返しアイテムになればと思います。
―『ガメラ2 レギオン襲来』という作品については、どのような想いをお持ちですか?
原口 まず一作目の『ガメラ 大怪獣空中決戦』でスタッフ一丸となって1994年の暑い夏を過ごし、いばらの道を歩んで満身創痍みたいな状態で映画は完成し、そして続編が決まりました。
映画を作るモチベーションって、最初に渡された台本を読んだ時にほぼ決まるんですよ。伊藤(和典)さんの書かれた脚本を、おそらく決定稿より少し前の時点から目を通していたんですけど、これは「何かすごくいい感じの怪獣映画が出来上がるんじゃないか」と感じました。現場は今回も過酷なことになっちゃいましたけど(笑)
「いい映画ができたな」と思うのは、立ち戻ると伊藤さんの脚本が良かったからだと思います。

それに、この「永久保存化プロジェクト」もそうなんだけど、最初は「どうなるんだろう」と思いながら始まるけど、一回成功して結果が出ると、意外と二回目、三回目とやれてしまうものなんですよね。
―最後に、「『ガメラ2 レギオン襲来』ガメラ永久保存化プロジェクト」にご支援いただく皆さまに、メッセージをお願いします。
原口 「G1」「G3」の復元が実現できたのは、本当に支援していただいた皆さんのおかげだし、それに関わった自分もとても良かったと思っています。
昭和ガメラシリーズが今年で60周年ということは、平成ガメラシリーズは、ガメラの30周年だったということですよね。当時はあまり気にしてなかったですけど…
自分が小さい時から観ていたガメラがもう60年、我々が作り上げたそのガメラからもう30年なんですね。
平成ガメラ三部作については、これでガメラを三体揃えて永久保存して、この映画を愛してくださっている方たちとお祝いができれば、ちょっと肩の荷が降りるかなという感じですね。一つの区切りが迎えられます。
特殊メイクや監督として携わった映画は本当に山のようにありますけど、特に平成ガメラシリーズに関しては、良い映画に携われてとてもありがたいな、良かったなと思っています。
(取材・構成 アーキヴィスト by VPC)

原口智生 プロフィール
1960年5月26日生まれ 福岡県出身
幼少期から東宝撮影所や円谷プロ等に出入りし、1975年に最年少で特撮映画研究団体「怪獣俱楽部」(主宰 竹内博)の一員となる。自主映画、人形作家の川本喜八郎の美術助手などを経て、『爆裂都市 BURST CITY』(1982年)で映画界デビュー。特殊メイクアップ、特殊造形として『帝都物語』(1988年)『異人たちとの夏』『ソナチネ』(1993年)『HANA-BI』(1998年)「平成ガメラシリーズ」(1995~1999年)『陰陽師』(2001年)『パコと魔法の絵本』(2008年)など数々の映画を担当。
映画監督としてビデオシネマ『ミカドロイド』(1991年)でデビュー。以後『さくや妖怪伝』(2000年)『跋扈妖怪伝 牙吉』(2004年)『デスカッパ』(2010年)を監督。特技監督、監督として『ウルトラマンメビウス』(2006~2007年)『ウルトラマンギンガ』(2013年)を手掛ける。
2012年、東京都現代美術館で開催された『館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』では、展示コーディネート、修復師として活躍。現在、「認定NPO法人 アニメ特撮アーカイブ機構」(ATAC)発起人も務める。
「BAR KAIJU-CLUB HATAGAYA」店主。
『ガメラ2 レギオン襲来』ガメラ永久保存化プロジェクト
主催:ガメラ生誕60周年プロジェクト
企画協力:KADOKAWA/特撮のDNA製作委員会/アーキヴィスト by VPC
実施期間:2025年8月25日(月)19:00 ~ 2025年9月29日(月)23:59
目標金額:15,400,000円
プロジェクトページ:https://ubgoe.com/projects/961

『ガメラ2 レギオン襲来』
監督:金子修介 特技監督:樋口真嗣 脚本:伊藤和典
音楽:大谷 幸 撮影:戸澤潤一 美術:及川 一
[特殊技術]撮影:木所 寛 美術:三池敏夫 照明:林 方谷 怪獣造型:原口智生 操演:根岸 泉 視覚効果:松本 肇
出演:永島敏行、水野美紀、石橋 保、吹越 満、藤谷文子、沖田浩之、田口トモロヲ、螢雪次朗、長谷川初範、渡辺裕之、ラサール石井、角替和枝、ベンガル、小林昭二、辻 萬長、川津祐介 ほか
公開日:1996年7月13日
ⒸKADOKAWA 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 富士通 日販/1996
