なぜフェラーリは世界最強のブランド力を保てるのか? 「赤い車」を生み出した創業者の教え
以前、このnoteで高級時計、ワイン、クラシックカーの市場価値が高い理由についてお話ししたところ、私の周囲の経営者からも「これは様々なビジネスに当てはまるね」という反響をたくさんもらいました。どんな職種、業態にしても、物事の価値を突き詰めて考えることは大切なこと。企業であれ自分自身であれ、市場価値がブランドを強くするという考え方は、やはり共通のようです。
今日お話ししたいのは、“世界最強のブランド”の一つ、イタリアの自動車メーカー・フェラーリの戦略にまつわるお話です。
赤い車といえば? 高級車の代名詞フェラーリ
「子どもに車の絵を描かせてみてください。その車は間違いなく赤い色をしているでしょう」
これは、フェラーリの創業者にして、元レーシングドライバー兼レーシングチームオーナーのエンツォ・フェラーリが残した言葉です。
「赤いスーパーカーといえば、フェラーリ」は、日本でも当たり前になっていますし、F1などでもお馴染みのレーシングレッドを意味するイタリア語“ロッソ・コルサ”はフェラーリを象徴する色で、赤はもちろん一番の人気色だといいます。
高級時計、ワイン、クラシックカーの市場価値が高い理由について簡単に説明すると、「何年に、どれだけつくられたかという証拠が残っている」ということが挙げられます。
そのことについて触れた投稿では、“時計の王様”ROLEXを例に挙げて話をしましたが、フェラーリもまた、供給をコントロールし、顧客の飢餓感がある状態を演出することでブランド力を保ってきたブランドです。
現在も世界最強のブランド力を誇るイタリアの跳ね馬
アメリカのフォードが初めて量産可能なガソリン自動車をつくったのが1900年のこと。120年あまりで自動車は大きな変化を遂げてきました。フェラーリの創業は1947年ですが、ハイブリッドカーの登場、電気自動車の進化、自動運転の実用化など、ここ数年の変化はどの自動車メーカーもかつて経験したことのないような大きな変化であることは想像に難くありません。
今をときめくテスラとかの方が人気なのでは? そう考える人もいるかもしれません。
しかし、フェラーリは、世界中のあらゆる企業のブランド価値を独自の指標で測定するコンサルティング会社、Brand Financeが毎年発表している『Brand Finance Global 500』の中でも特にブランドの強さを中心とした指標で比較される「Brand Strength」部門で2019年、2020年と連続で1位を獲得、2021年の最新版では、近年、ファッション業界、ハイブランドからも注目を集める中国のメッセンジャーアプリ『WeChat』にトップの座を譲ったものの2位に留まっています。WeChatの躍進は、このランキングがトラディショナルなものだけでなく、IT、メディアに関わる新興ブランドの魅力も反映していることの証明ともいえるので、フェラーリのすごさを改めて感じています。
この「Brand Strength」部門には、4位にコカ・コーラ、9位にディズニー、11位にROLEX、19位にApple、23位にナイキなど、それぞれ独自のやり方でブランド力を発揮している企業、ブランドが名を連ねていて、この無料の調査レポートを見るだけでもマーケティングの勉強になるなと思ってしまいます。
エンツォ・フェラーリは、元々レースをするために車を売ることを思いついたといいます。象徴的なカラーリング、レースで結果を出すことによって自社の車を憧れの対象とし、「赤い車=フェラーリ」から「車といえば赤い=フェラーリ」というイメージを世界中に植え付けたエンツォは、経営者としても非常に優秀だったのではないかと思います。
「1台少なく売れ」創業者、エンツォ・フェラーリの名言
エンツォが残したもう一つの有名な言葉が、
「欲しがる客の数よりも1台少なく売れ」です。
この言葉は、自社のブランディングをする上で、一つの到達点といっていい名言だと思います。
大量生産、大量消費でビジネスがうまく回っていた時代は、欲しい人がいればその数だけつくる、なんならもっとたくさんつくって在庫を潤沢にしてビジネスチャンスを逃さないというのが王道で、それが通用していました。しかし、フェラーリやROLEXなど、希少性を売りにするビジネスを展開する一部の企業は、供給を意図的に下げることで自社の商品の市場価値を保ち続けてきたのです。
結果として何が起きたか? 1億円以上という車の性能比だけで考えれば、不当なくらい高価な車が完売どころか、限られた顧客、選ばれた上顧客のみで発売前に売り切れ、顧客側が代理店に「なんとか手に入れたい」と頭を下げるという不思議な状態が当たり前になっているのです。
特にフェラーリの限定生産モデルは、多くて500台前後しか出回りません。これは、1987年にフェラーリが創業40周年を記念して製作したF40の限定数を人気だからといって増やしてしまったがためにかえって市場価値を下げることになった反省に基づいているそうです。
F40の当初の限定生産数は、350~400台でした。しかし、オーダーが殺到したことで増産に踏み切り、最終的には1311台が生産されたということです。億超えの車がそれだけ売れてしまうことにも驚きますが、中古市場に出回るF40の多さを「ブランドの毀損につながるおそれがある」と判断したフェラーリは、エンツォの言いつけを改めて思い出し、50周年を記念したF50は、計画通り349台で生産を終了。今に至るまでその主義を貫いているのです。
フェラーリの限定生産台数が349台、499台など切りのいい数字から1を引いた台数にしているのは、エンツォの教えを守ろうという意思の表れなのかもしれません。
ビジネスの転換期、新しい時代ではブランド力こそが武器になる
企業の商業活動にもSDGsやサステイナブル、エシカル消費などの概念が組み込まれるようになった現在、大量生産、大量消費、そしてその先に見える在庫余り、大量廃棄は、自社のイメージ戦略としてマズいだけでなく、「消費者に選ばれる企業」を目指す上で大きな障害となります。ファッション業界ではこうしたビジネス習慣からの脱却が進んでいますが、フェラーリしかり、ROLEXしかり、パテック・フィリップ、エルメスのバーキンなど、少ないからこそ、生産数が限られているからこそ持つ価値があるというモノやコトがそのままブランドの強さにつながっているのです。
商品によっては、需要がある時に十分な供給できないことで商機を逃してしまうケースもあります。商品に競争力、他社との差別化、ブランド力もないのに希少性だけ突出させても意味はありませんが、世界中が「みんなと同じだから持つ」から「みんなと違うものだから持つ」というマインドに切り替わっているのは間違いありません。
モノやコトが持つ価値は、人々の価値観が変わるように、時代によって少しずつ変わっていきます。そういう意味では、フェラーリに代表されるブランド力を高め、顧客がそれを所有すること自体に価値を見出すようなビジネスのやり方は、今後ますますその重要性を増してくるのかもしれません。
