見出し画像

壁の星/Grapevine #読むバイン vol.67

 【紛い物】としての『Circulat∞r』論「Buster Bluster #読むバイン vol.66」を書いて一週間。もう夜が暑い。窓辺に飾っていた転任の花は多くの花弁を失って、春も一通りの役割は終えようとしている。

 前回も書いたが、『Buster Bluster』はこのアルバムの出囃子のようなものだと思っているので、事実上この『壁の星』が『Circulat∞r』の一曲目と考えていいのだと思う。なぜ出囃子が必要だったかと言うところに戻ると、それはリーダー西原誠の離脱という大事件と、『here』というそれまでのバインの集大成からの脱却という、止むに止まれぬ事情があったからだ。Grapevineの音楽にとって重要な土台でもあった西原誠のベースが消えて、『Buster Bluster』は打ち込みで始まり、この『壁の星』もまた、打ち込みと、そしてクラシカルなチェロの響きが、曲の主役として聴こえてくる。歌詞を読む前に、Grapevineのサウンドの大きな変節があったことを言及しておく必要があると思う。「苦心」と言って、差し支えないだろう。『LIFETIME』でオリコン3位となり新進気鋭のロックバンドとして注目され、『here』でその深化を図ったGrapevineだったが、率直に数字を見れば、この『Circulat∞r』で大きくマスから離れていった場面でもある。(『LIFETIME』は30万枚、『here』は15万枚、『Circulat∞r』は6万枚。)それは今のGrapevineの音楽の豊穣さを知る我々にとっては「それでよかった」と言える変節なのかもしれないけれど、田中和将、西川弘剛、亀井亨、そしてやがて脱退する西原誠本人にとっては、やはり辛い時期だったと言えるのではないだろうか。

 前提を話した上で、『壁の星』の歌詞について見ていこう。

壁の星 剥がれないのに
我が身を過信して 剥がれた爪

『壁の星』田中和将/Grapevine

 後段に、

いつかも見たよ プラネタリウムで
「見たい」と一言も 言った覚えはない

とあるのだから、プラネタリウムが「壁の星」を指しているのは間違いないのだけれど、じゃあ「僕はプラネタリウムが嫌いなんだ」という歌だと片付けてしまうのは余りにも。ここからが、ごく個人的異論は認める考察読むバインの始まりである。

 「壁の星」は喩えであるが、「プラネタリウム」もまた、一つのシンボルに過ぎない、というのが僕の主張である。この歌の主人公【僕】にとって、目に見える現実全てが虚構の【壁】であり、そこに見える輝きは全て【紛い物イミテーション】である、それが『壁の星』だ。この説を主張するには、例によって、田中和将の「何もかも確かなものはない」という生い立ちに立ち戻らなければならない。これはとても長い物語だ。(父も母もいない幼少期、自分を育ててくれた仮初の家族は火事で焼け死んだ。父の好きだったアメ車の記憶、母が貫いたデラシネの人生。君の愛は本物か判らない。臆病な僕らに暖かな家……)

 見えてる全ては幻かもしれない。だけどそれが怖くて、壁の星を爪で剥がして確かめて見たくなる。【僕】には「幸せで平凡な未来/LIFETIMEの夢」が掴めると思ったが、残ったのは剥がれた爪だ。

YES・NOは繰り返すべきではない

そんなことは判ってる。猜疑心は何も生まない。でももう疲れ果てて、

明日の行方を見るのも嫌気がさして

いる。

縛りつける 身を縛りつける 偽り続けるだけで 
縛りつけ 静かに告げる
いつまで経っても言いたいことなどない

縛りつけているのは、自分自身だ。プラネタリウムのような虚構の壁の星/美しき光を、【僕】は信じ切ることが出来ないけれど、そんな袋小路に【僕】を追い込んでいる正体こそ、偽り続けいている【僕】自身なのだ。「言いたいことなどない」というのは、時代のロックンローラー田中和将としての側面もあるかもしれないが、それ以上に、

優しくなれたら愛を歌おう

『lifework』田中和将

というたった一つの願いさえ、本当は嘘なんだ、という告白であり自分への絶望である。そんな壮大な、『壁の星』論。

 こんな勝手なことばっかり書いていると、いつかは怒りに触れるだろうか。歌詞考察は、作者への冒涜と聞くよ。確かに否定できないね。ごく個人的解釈にせよ。でも思いついてしまったら、いつまで経っても言いたい事ばかり。僕は紛い物。でも、今日の星は綺麗だよ。

【著作権について】
 本記事では、日本のロックバンドGrapevineの音楽、主にその歌詞を考察していきます。Grapevineは、歌詞については、ギターとボーカルを担当する田中和将氏が書いています。そのため、歌詞の一切については著作権者は田中和将氏にあるものと考えております。ただ、日本の著作権法には以下のような一文があります。

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)

 本記事は、公表された著作物について、引用して批評・研究しようとするものであり、著作権者の権利を侵害するものではないと考えています。また、その意思はありません。万一、引用の仕方や分量について、著作権を侵害するような部分があると感じられた場合、ご指摘いただければ改善に努めます。
 なお、本記事の文につきましては、先に述べました著作者Grapevine及び田中和将氏の権利を害さない限り、転用して構いません。その際、ご一報頂けると嬉しく思います。



#Grapevine #Circulator #壁の星 #紛い物 #晩春

いいなと思ったら応援しよう!