【連結経理課・和服ちゃん】(PMI編6営業日)もう"打ち上げ"?
納税申告書を提出した者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、当該申告書に係る国税の法定申告期限から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる。
一 申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるとき。
(国税通則法23条)
預金明細と元帳とを突き合わせる日々が続いた。
山口主任と藤川さん、そして私。毎日、毎日、過去数年分の預金明細から消込漏れを一件ずつ潰していく。
三人でデスクを囲み、数字に睨みをきかせる。
エクセル画面には預金明細が転記され、突合済、消込漏れ、金額相違。それぞれ色分けされたセルが、無数に並んでいた。
「この案件は入金済みですが、別の案件と消し込まれていますね」
藤川さんが小声で教えてくれる。
「こっちは失注。原価戻してるけど、売上の取消処理が抜けてるわ」
山口主任の判断もかなり早い。無駄のないやりとり。誰も諦めることなく、気を抜かずに作業を進めていた。
唐突に突きつけた内容にも関わらず、本気で向き合ってくれている。とても胸が熱くなった。
数日前、あれほど面倒そうにしていた山口主任が、今は私たちと並んで、真剣な目で画面を見ている。
直接作業はしていないとはいえ、田端部長も社長への説明に追われている。
社長も「それで数値、おかしくならない? 営業、納得してくれる?」と初めは修正に否定的だった。
田端部長は山口主任の姿を見て「昔の、僕が来てすぐの頃のエネルギーのある山口さんが戻ってきてくれた」とどこか嬉しそうだ。そんな主任の姿に応えるように田端部長も社長室へ何度も足を運んだ。
社長から報告数値の修正に承認をもらえたのは、田端部長の粘りがあったからこそだ。
――そして、ついに。
「これで、全部……です」
藤川さんが、静かに言った。
銀行明細と消込処理は全て一致した。張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。
そのとき――
「お疲れさまです~!」
経理課の扉が開き、派手なスーツ姿が見えた。伊原さんだ。いつもタイミングがいい。これも営業で生きていく術なのだろうか。
「あれから頑張ってるって聞いてね、コーヒーを買ってきたよ。
……って、あれ? なんか今日は、空気が違う?」
にこにこと笑いながら、伊原さんはテーブルの上に袋を置いた。
「売上のチェックでしょ? 一応、俺の案件もあるわけだし…ちょっと責任感じてね」
少し申し訳なさそうに苦笑いしながら、私、山口主任、藤川さん、そして田端部長へコーヒーを配る。
田端部長の顔がほころぶ。
「これは嬉しいね、ようやくひと段落したところだよ。伊原さんにも心配をかけたようですまなかった」
山口主任と藤川さんも緊迫した日が続いていたからか、嬉しそうだ。
「でも、修正申告しなきゃ。ま、仕方ないわね。
税金も取り戻せるし、頑張るわよ!」
と山口主任は冗談交じりで話をしている。
主任……それは更正の請求です、と口を挟もうとしたがパソコンの画面へ目をやる。
入金だけでつぶせなかった古い債権が、まだある。
しかし全員がコーヒーを片手に雑談ムードが漂う中、私は言葉を飲み込んでしまった。
そんな私を彼は……
そう、伊原さんは見逃してくれなかった。
「和服ちゃんも、お疲れ様。もう終わりだろ?これだけじゃ俺の気がすまない。今度経理と営業で飲みに行く機会でも作るから、参加してよ!」
「……ありがとうございます、ぜひ参加させてください」
ぜひとは言ったものの、少し言い淀んだ。伊原さんは笑顔で私を見ていたが、目は笑っていなかった。
しかし、私が違和感を感じたことにすぐ気づいたのか、伊原さんはすぐにいつもの笑顔になった。
「そうか、ありがとう! いやー、和服ちゃんと一度飲みに行きたかったんだ。これは楽しみだなぁ! 東集さんのこととか、聞かせてよ!」
そう言って、伊原さんは田端部長のところへ行った。
「田端部長! 今度和服ちゃんもつれて飲みに行きましょう!」
……まだ、何も終わっていない。
そう思いながら、私はもう一度さっきまで作業をしていたモニターへ目をやった。
私のモニターには、仕掛中とメモされた数値が並んでいた。
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