愛か罪か。W不倫で私は別れさせ屋にすがった
触れてはいけない関係
「そろそろ帰らないと」
彼がベッドから起き上がり、シャツのボタンを留めていく。
窓の外では、街の灯りが雨粒を照らし、滲んで揺れていた。
その光景を見つめながら、私は笑顔を作ってうなずいた。
けれど心の奥では、必死に叫んでいた。
「お願い、帰らないで。もっとここにいて」
彼には妻がいる。
私にも夫がいる。
互いに家庭という肩書きを持ちながら、こうして他人の腕の中で安らぎを探している。
最初は孤独を埋めるだけのつもりだった。
家庭では得られない会話、視線、体温をほんの少し分け合えれば、それで十分だと思っていた。
けれど、彼と過ごす時間は回を重ねるごとに私を壊していった。
「これで最後」と言い聞かせても、別れ際に背中を見送るたびに胸が裂かれ、次に会う約束を求めてしまう。
家に帰れば夫と子どもが待っている。
その光景を裏切っていることは分かっている。
それでも、彼と過ごした数時間の温もりがないと、私は息ができなくなっていた。
彼の存在は、罪だと分かっていても、呼吸のように必要になっていた。
家庭の冷たさと嘘の重さ
玄関を開けると、リビングにはテレビの音だけが響いていた。
夫はソファに沈み込み、視線を画面から外さない。
「遅かったな」
それだけを投げかける声に、私はうなずくしかない。
テーブルには開けかけの缶ビール、散らかった新聞。
私を必要とする気配は、どこにもなかった。
洗面所の鏡に映った自分の顔を見て、思わず息を呑む。
家の中では妻であり母であるはずなのに、目の奥に残るのは彼の残り香。
罪悪感が波のように押し寄せ、体が重くなる。
一方で彼もまた、家庭を背負っていた。
「子どものために離婚はできない」
そう言いながら、私を抱き寄せる腕は震えていた。
互いに嘘をつきながら、互いを拠り所にしている。
帰り道、夜風に吹かれながら心の中で問いかける。
「この関係はどこへ向かうのだろう」
答えのない問いが、夜ごと胸に積み重なっていった。
揺れる夜、逃げ場のない心
眠れぬ夜、真っ暗なリビングでスマホを握りしめた。
検索窓に浮かぶのは「W不倫 本気」「W不倫 終わり」。
息を呑みながら文字を打ち込む。画面をスクロールした指が止まった先にあったのは「別れさせ屋」という四文字だった。
半信半疑でページを開く。
「夫を捨て、彼を選んだ」
「妻から彼を奪い、人生をやり直した」
淡々と並ぶ事例に目を走らせるたび、胸の奥がざわめく。鼓動が早くなり、手のひらにじんわり汗がにじんだ。
夫の寝息が隣の部屋から聞こえてくる。罪悪感が全身を締めつける。
彼の妻や子どもの姿を思い浮かべ、喉がつまるように苦しくなる。
それでも画面から目を離せなかった。
「彼を失ったら、私はどうなるの」
心の中で繰り返した瞬間、涙があふれた。
夫への裏切りも、世間の非難もすべて理解している。
けれど、その恐怖よりも大きいのは 彼がいなくなる未来を想像することの方だった。
スマホの光に照らされた自分の指が震えている。
自分を責める声と、彼を求める声。
その狭間で揺れながら、心の奥ではひとつの答えが輪郭を描き始めていた。
追い詰められる心
昼間の私は、誰から見ても「普通の妻」であり「母」だった。
食卓に並べる料理、子どもの宿題を見る時間、夫に「お疲れさま」と声をかける笑顔。
そのすべてをこなしながら、心はずっと別の場所に置き去りにされていた。
スマホを見つめる時間が増えた。
既読がつかない画面、短い返事。
「また今度」「タイミングを見て」
彼の言葉は優しいはずなのに、約束の代わりに突きつけられる現実だった。
待つことしかできない私の心は、少しずつ削られていった。
夜のタクシーの窓。街灯の明かりに照らされたガラスに、やつれた自分の顔が浮かぶ。
濃いアイライナーでは隠せない疲れ、唇に残る噛みしめた跡。
「私はただの都合のいい女で終わるの?」
心の奥で何度も繰り返す問いが、声にならない叫びとして胸を締めつける。
それでも彼を手放すことはできなかった。
「彼がいなければ生きていけない」
罪悪感よりも、恐怖よりも、その思いがすべてを飲み込んでいく。
私はもう、自分の意思で動かなければならない。
愛か罪か。
その選択を迫られる瞬間が、すぐそこまで来ていた。
深夜のリビング。時計の音が胸に突き刺さる。
スマホに映る「無料相談はこちら」の文字を見つめながら、指は震え続けた。
押せば彼を選ぶことになる。夫も彼の妻も、すべてを裏切ることになる。
その瞬間、彼から「今日、少しだけ会える」とメッセージ。涙が溢れた。会いたい気持ちと、二番目のままでは終われない気持ちが激しくぶつかり合う。
罪悪感に押し潰されそうになりながらも、彼を失う恐怖が勝った。
私は深呼吸をし、震える指を画面に置いた。
私は別れさせ屋に依頼することを決めた。
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