「断る」を、ケアマネ個人にやらせていました
ケアマネジャーは、こういう依頼を受けます。
「今度の通院、連れて行ってもらえない?」
「ついでにスーパーで、これ買ってきて」
「最近顔を見てないから、様子だけ見に行ってくれる?」
どれも、ケアマネジャーの仕事ではありません。
でも、断れません。
なぜ断れないのか
理由は、はっきりしています。関係を切りたくないからです。
ケアマネジャーは、その方の生活を長く支えます。信頼関係が仕事の土台です。
そこで「それは業務外です」と正論を言えば、角が立ちます。「あの人は冷たい」と言われるかもしれません。次から本音を話してもらえなくなるかもしれない。
だから、引き受けます。
一度引き受けると、次があります。 そして「前はやってくれたのに」が始まります。
さらに厄介なのは、他のケアマネジャーへのプレッシャーになることです。担当が変わったとき、次の人が同じことを求められます。断れば、その人が悪者になります。
優しい人ほど、抱え込みます。
「断る」を、個人にやらせていました
ここが、私たちの問題でした。
事業所として「業務外の依頼は受けません」という方針は、当然あります。でも、実際に断るのは、目の前にいるケアマネジャー本人です。
方針は法人にあって、実行は個人に丸投げ。
これは、フェアではありません。
そして、断りきれずに引き受けた分は、その人の時間から出ていきます。 記録も、モニタリングも、サービス担当者会議も、やることは減りません。制度外の仕事が、本来の仕事の上に積み上がるだけです。
そうやって、疲れていきます。
契約書に、書きました
令和8年8月1日、居宅介護支援事業所の重要事項説明書を書き直しました。
「業務範囲について」という章を設けて、対応できないことを、はっきり書きました。
通院の付き添い、送迎
買い物
日常的な電話による安否確認
日常の雑務
見守り
外出支援の代行
並べてみると、多いと思われるかもしれません。でも、どれも実際に依頼を受けたことがあるものです。
契約のときに、ご本人とご家族に、これを読んで説明します。
断るのは、現場の仕事ではなく、契約書の仕事にしました。
もうひとつ、書いたことがあります
金品や飲食物、その他の財産上の利益を受け取らないこと。
これも同じ章に書きました。
お茶菓子を出される。お歳暮が届く。「いつもありがとう」と封筒を渡される。断るのが、これまた難しい。
しかもこちらは、疲弊とは別の問題があります。受け取ってしまうと、公平でいられなくなることです。
ケアマネジャーは、どの事業所のサービスを紹介するかを決める立場にあります。そこに贈り物が入ると、判断が歪んで見えます。 実際に歪まなくても、歪んで見えること自体が問題です。
これも、断る理由を契約書に持たせました。「規則で受け取れないことになっています」と言えるようにする。 それだけで、現場はずいぶん楽になります。
これで何が変わるか
ケアマネジャーが、自分の言葉で断らなくてよくなります。
「私の判断では受けられません」と言うのと、「契約でこうなっています」と言うのとでは、言う側の負担がまったく違います。
前者は、その人の人柄の問題に見えます。後者は、事業所のルールです。
そしてご家族の側も、契約のときに一度聞いているので、後から言われるより受け入れやすい。最初に線が引いてあるほうが、お互いに楽です。
「冷たい事業所」に見えないか
正直に言うと、それは考えました。
できないことを並べた書類を最初に読ませるのは、歓迎されている感じがしません。
それでも書いたのは、こう考えたからです。
できないことを決めないと、できることに集中できません。
通院の付き添いに午前中を使えば、その時間、他の利用者さんのモニタリングはできません。受けた依頼のぶんだけ、本来の仕事が薄くなります。
そして、抱えきれなくなった人は辞めます。担当のケアマネジャーが辞めて一番困るのは、利用者さんです。
線を引くのは、突き放すためではありません。長く続けるためです。
ただ、ここは正直に書いておきます。
いまの説明書は、「できないこと」は具体的に並んでいるのに、「できること」の記載が薄いです。「介護サービスの計画作成と、他の事業者との連絡調整が主な業務です」という一文があるだけです。
片側だけ細かい書類になっています。 できることの説明を厚くするのは、これからの宿題です。
訪問介護でも、同じことをしています
先日、別の記事に書きました。
訪問介護でも「ついでに換気扇も洗って」という依頼に、ヘルパーが一人で判断を迫られています。そちらは、市の担当課に確認依頼書を出して、判断の根拠を作ろうとしています。
やっていることは同じです。
現場の人が、その場で一人で断らなくて済むようにする。
判断の根拠を、事業所か、契約書か、行政に持たせる。個人に背負わせない。
これは、どちらも管理者の仕事だと思っています。
まだ結果は出ていません
書き直したのは、今月の初めです。これから、この説明書を使って契約していきます。
ですので、効果はまだ分かりません。
トラブルが減るのか。逆に、契約時の説明が長くなって別の手間が増えるのか。ご家族に「厳しい事業所だ」と受け取られるのか。やってみないと分かりません。
分かったら、また書きます。うまくいかなかった場合も書きます。
明日からできること
まず、自分の事業所の重要事項説明書を、久しぶりに読んでみてください。
たぶん、できないことは、ほとんど書かれていないはずです。サービスの内容と、料金と、苦情の窓口。それだけのことが多いと思います。
そして、こう聞いてみてください。
「最近、断りづらかった依頼はなかった?」
3つ集まったら、そのうち契約書に書けるものがないか考えてみる。それだけです。
書類を1行増やすほうが、現場の人が100回断るより、はるかに簡単です。
介護の現場は、記録も請求も労務も、書類に時間を取られすぎています。ここを軽くしないと、本来やるべき仕事の時間が出てきません。
うちで実際にやったことを、失敗も含めて書いています。
千葉県柏市・我孫子市で介護事業をやっています。
https://note.com/wakiaiai_kaigo
※本noteは個人の発信であり、所属法人の公式見解ではありません。

