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「ついでに換気扇も洗って」を、どう断ればいいのか

「ついでに、エアコンのフィルターも洗っておいてくれる?」

訪問先の玄関先で、そう声をかけられたとき。ヘルパーは一瞬、息を呑みます。

断れば「冷たい」と思われるかもしれません。「前に来た人はやってくれたのに」と言われることもあります。かといって引き受ければ、介護保険の範囲を超えてしまうかもしれない。

その場で、一人で、決めなければなりません。

訪問介護は、基本的に一人で家に入ります。相談できる人はそばにいません。

なぜ、これほど迷うのか

訪問介護には、身体介護(食事・入浴・排泄などの直接的な介助)と生活援助(掃除・洗濯・調理などの家事支援)があります。その境目には、どちらとも言い切れない場面がいくつもあります。

現場が迷う理由は、大きく2つだと思っています。

ひとつは、人によって判断がぶれること。

親切心で引き受けたことが、次に訪問する人への「前の人はやってくれた」というプレッシャーになります。優しい人ほど断れなくなり、断る人が悪者になります。

もうひとつは、事前のすり合わせが足りないこと。

ケアマネジャーが立てたプランと、ご家族が期待していることがずれていると、そのしわ寄せは全部、現場で受け止めることになります。

これまでは「なんとなく」でした

正直に書きます。

うちも含めて、多くの事業所が明確な根拠のないまま、事業所ごとの感覚で判断してきたと思います。

「これは生活援助の範囲だろう」「これはさすがに保険外だろう」。管理者やサービス提供責任者も、確信を持てないまま「たぶん、できないと思います」と説明していました。

自信のない断り方は、かえって不信感を生みます。

「たぶん」で断られたご家族は、納得できません。当然です。そして、そのやりとりを引き受けるのは、訪問先に一人で向かうヘルパーです。

行政に、聞きに行くことにしました

もう、事業所の中だけで悩むのはやめよう。 そう決めました。

しかも、うち一社だけで聞いても意味がないと思いました。回答をうちだけが持っていても、地域の判断はそろいません。同じ利用者さんに、事業所によって違う対応をしていたら、困るのはご本人です。

私は、柏市介護サービス事業者協議会・訪問介護部会の理事も務めています。市内の訪問介護事業所が集まって、研修や情報交換をしている部会です。

そこで、部会として、柏市の高齢者支援課へ確認依頼書を出すことにしました。

令和8年8月9日、提出しました。 回答はこれからです。

行政に聞くと決めたとき、迷いはありました。「わざわざ聞いて、藪蛇になるのではないか」という声も、実際にありました。

それでも聞くことにしたのは、曖昧なままにしておくことのほうが、現場を追い詰めていると考えたからです。

ヘルパーが胸を張って「これはできます」「これはできません」と説明できる根拠をつくる。それは現場の仕事ではなく、経営する側の仕事だと思いました。

「確認依頼書」はこう作りました

ここが、この記事で一番お伝えしたいところです。

「これって、いいんでしょうか」と口頭で聞いても、答えは返ってきません。 「ケースバイケースです」で終わります。

それは行政が不親切なのではなく、質問が曖昧だから答えようがないのです。

そこで部会として、「身体介護のグレーゾーン」をテーマにした研修会とアンケート調査を実施しました。市内の事業所とヘルパーが、日々どこで判断に苦慮しているのか。それを集めて、場面ごとに整理した文書にしました。

うち一社の悩みではなく、市内の事業所が共通して困っていることが集まりました。

集めた疑問は、こういうものです。

自立支援・「共に行う家事」の判断

  • ご本人が身体を動かさず、指示を出すだけの場合も「共に行う家事」として身体介護になるのか

  • 同居家族がいる世帯で、家族の分の食事や洗濯が混ざる場合の扱い

掃除・住環境の範囲

  • エアコンのフィルター、排水溝の奥、窓ガラス、使っていない部屋の掃除は生活援助に含まれるのか

  • ペットのケージ清掃やフンの処理を頼まれたとき、どう対応するか

医行為と整容の境目

  • 医師の指示のない市販の湿布や軟膏を「貼ってほしい」と言われたとき

  • 洗髪のときに、白髪染めシャンプーやカラートリートメントを使ってよいか

  • 爪に異常がない場合の爪切り、日光浴の付き添いは、どの区分になるのか

権利擁護に関わること

  • 金銭の未払いや、経済的な虐待が疑われる場面で、市や地域包括支援センターへどう報告すべきか

大事なのは、「教えてください」と丸投げしないことでした。

「現場ではこういう解釈の違いが起きていて、こう困っています」という事実を、こちらから正確に差し出す。 そうすれば、行政も判断のしようがあります。

質問を作る過程そのものが、事業所内の棚卸しにもなりました。**「うちは今まで、これをどう判断していたんだっけ」**と、全員で確認することになったからです。

準備しながら、考えを改めたこと

正直に書いておきます。

動き始めた当初、私は**「行政に聞けば、すべて白黒はっきりする」**と、どこかで期待していました。

質問を作っていくうちに、それが甘い見通しだと分かってきました。

同じ「掃除」でも、ご本人が何をどこまでできるかで意味が変わります。一律の線が引けるなら、そもそも現場は迷っていません。 おそらく回答の中には、「ご本人の状況やケアプランの目的に照らして個別に判断してください」という形になる項目が出てくるはずです。

つまり、基準表さえ手に入れば明日から迷いがゼロになる、という話ではない。

得られるのは「考えなくてよくなる道具」ではなく、**「考えるときの物差し」**です。サービス提供責任者やケアマネジャーと個別にすり合わせる作業は、これからも残ります。

それでも、物差しがあるのとないのとでは、まったく違います。 「たぶん」で断るのと、根拠を示して説明するのとでは、ご家族の受け止めも、ヘルパーの気持ちも変わります。

ひとつ、大事なお断り

これからいただく内容は、あくまで柏市における運用の考え方になります。

介護保険の解釈や運用は、保険者である自治体によって判断が異なることがあります。 これを「全国共通の基準」として扱うことはできません。

もし参考にしていただけるなら、「自分の地域でも聞いてみよう」という形でお願いします。答えそのものではなく、聞き方のほうを持ち帰っていただければと思っています。

同じことをやってみたい方へ

いきなり行政に行く必要はありません。最初の一歩は、これだけです。

現場のヘルパーに「最近、断るのに困った依頼はなかった?」と聞いて、3つ集める。

それだけで十分です。会議も資料も要りません。おそらく、3つでは足りないくらい出てきます。

集まったら、それを**「場面」として文章にします。** 「掃除の範囲について」ではなく、「エアコンのフィルターを洗ってほしいと言われた」と書く。具体的であればあるほど、答えは返ってきやすくなります。

そして、これはお願いに近いのですが——行政を、敵だと思わないでください。

行政に相談すると聞くと、身構える方が多いと思います。私もそうでした。でも、現場が困っていることを正確に伝えれば、一緒に考えてくれます。 こちらが曖昧なまま持っていくから、曖昧な答えしか返ってこないのだと思います。

もうひとつ。一社で行くより、地域の事業所が集まって行くほうがいいと思っています。「この地域の事業所が、みんなここで困っています」という形になるからです。

一人で抱え込まないこと。それが、現場のスタッフを守る一番の近道だと思っています。


回答をいただいたら、部会でガイドラインとしてまとめ、市内の訪問介護事業所とケアマネジャーに共有する予定です。

そこまで進んだら、また書きます。思ったとおりにいかなかったことも含めて。

藪蛇になったら、それはそれで正直に書きます。


介護の現場は、記録も請求も労務も、書類に時間を取られすぎています。ここを軽くしないと、本来やるべき仕事の時間が出てきません。

うちで実際にやったことを、失敗も含めて書いています。

千葉県柏市・我孫子市で介護事業をやっています。

https://note.com/wakiaiai_kaigo

※本noteは個人の発信であり、所属法人の公式見解ではありません。

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