PTLジョン・レチーへのイントロダクション
1931年生まれのジョン・レチーは、現在95歳で存命だ。さすがに作品は、2018年の長編小説"Pablo!"以来出版していないが、公式ウェブサイト(2024年に最新更新)もある。
伝説のゲイ作家として、アメリカでは同世代や後進からの尊敬を集めているが、日本ではほぼ無名だ。14作の長編小説と2冊のノンフィクション、そして自伝を発表している。
レチーはメキシコ系アメリカ人としてテキサス州エルパソに生まれた。エルパソはリオグランデ川を挟んで対岸はメキシコ合衆国チワワ州という国境の街だ。
レチーの経歴で特殊なことは、ごく若い日にハスラー(男娼)として生計を立てていたこと。このPTLではその種の経歴の持ち主は大先輩のジャン・ジュネもいるが、ハスラーはまた特殊でタチ役を主な仕事にするのだ。
「ハスラー」の語源はもともと、ビリヤードで玉を突く行為をHustlingと言うことから来ている。ウケ役のお尻を文字通りキュー(棒)で突くという訳だ。
だから過剰に男性性が求められる。女々しさは禁物、素晴らしい雄として振る舞った時に対価が得られる。
そんなハスラー稼業をレチーは、大学を出て軍隊に行った後あちこちの都市を放浪しながら四年間続けた。その四年間の記録が『夜の都会(まち)』(1963)である。彼の最初の長編小説だ。
この作品は日本でも講談社から1965年に翻訳されている。だが今回原書と付き合わせて判明したが、この六十年前の訳は抄訳だった。三分の一近くが削られている。今までこの本を書評などで取り上げた人はいない訳ではないが、このことは知らなかったのだろうか。いやはや。
翻訳書は今も昔も売るのは大変なのだ。レチーのこの本は訳書は230頁余り。読み易さを犠牲にして二段組本文で頁数と単価を抑えているのはよく分かる。
だが、主人公が放浪の中で出会った人々のスケッチが三分の二に減らされては、せっかくのオリジナリティが台無しだ。この作品は十二人の人物像を語るパートの合間に、「夜の都会」と題された繋ぎの部分が挟まっている。その人物エピソードが八人分しか翻訳されていない。これは由々しきことだ。
だから、ここでその翻訳を紹介していいものかしばらく考えざるを得なかった。私も三十年以上前に手に入れた訳書で何度も読み返していたので、全訳ではなかったなんて、まさか…という思いが強かったが、それでも本作に魅了されたのは事実だ。この作品をこのまま埋もれさせてはいけないと決心して筆を執る次第。
未訳のエピソードにも目を配りつつ、既存の翻訳をご紹介するつもりだ。「ゲイ読み赤江瀑」も明後日からお休みになってしまうが、ご了承ください。
時代味を帯びた、Bulgeの悩ましいトップ画像は、さあ、どなたでしょうか?(言わでもがな、でんがな〜)
