<中国書画精華—宋・元時代の名品—>(東京国立博物館):山水画の樹木、花鳥画の植物に注目
はじめに
東京国立博物館には、日本館の常設展に定期的に通っています。その際、必ず東洋館にも立ち寄って4階の中国絵画の展示を覗くことにしています。
というのは、かなりの確率で高水準の中国水墨画を見ることができるからです。
11月18日(火)に東京国立博物館を訪れたところ、東洋館で毎年秋に行われる特別展「中国書画精華」展が行われていることを知りました。しかも、内容は「宋・元時代の名品」とあるではありませんか。
まさに水墨画の中心的時代の作品です。見逃すわけにはいきません。
さらに、もう一つ見逃すわけにはいかない理由があります。それは、現在「植物画」についての記事を連載しており、東洋の図譜や花鳥画に触れないわけにはいかないからです。事実、今回の展示では、山水画だけでなく墨竹画、花鳥画も展示されていました。
ですので、山水画の樹木表現、花鳥画の植物の描写に特に注意して鑑賞し、中国と日本との違い、植物画に関連して感じたことを述べることにします。
全体感想
ここ数年間見てきたのは主に日本の水墨画であり、日本と中国の違い、さらに樹木、植物の描写に焦点を絞り鑑賞しました。以下、全体感想を述べます。
今回の作品だけでなく、これまで見た宋・元・明代の山水図から、すなわち室町時代の日本の水墨のお手本となった中国水墨画から受ける印象は以下の通りです。
1)日本の年代で言えば、平安初期(五代)から平安中期・後期(北宋)にかけて、西欧絵画と比べてもはるかに早く絵画的に高度化、深化した。引き続き鎌倉期(南宋)にかけて成熟し頂点に達する。
2)個々の作家の描画の方法の違いはあるにしても、共通の印象は、「緻密さ」「厳しさ」「精密さ」であり、「上層知識階級」、「政治性」、「哲学(精神活動)」「徹底性・粘着気質」など自然を描いていても「観念的」「人間中心」で、西欧の絵画の印象に近い。
3)ただし日本、西欧との絵画表現に関する決定的な差は「気」の考え方であり、正直に言えば理解が難しい。しかし、日本の水墨と比較しながら数多くの実作品を見ると感覚的に分かってくるものがある。
それは東洋絵画の空間の処理である。すなわち何も描かれない「余白」に関連する。中国の絵画では、何も描かれない場所にも「気」が充満し、人間の頭で生み出したエネルギー密度を感じる。ただし母国では忘れ去られた牧谿の水墨画はそこまでの印象は与えない。
4)描かれている岩山や滝、川、樹木、葉など形あるものもどこか「固い」「鋭い」「厳しい」などの印象を受け、日本の山川、樹木から感じる「柔らかさ」、「穏やかさ」、「まろやか」というものは感じられない。
2年間ちかく、水墨画を見てきた結果、得られた感想は以上の通りです。少しは日本の水墨画との違いが感じられるようになった気がしますが、専門家からするとどうでしょうか。
いずれ、中国、朝鮮、日本の水墨画の違いについて私なりにまとめてみたいと思います。
個別作品感想
以下、展示作品とその個別感想を述べます。
山水画
1)伝胡直夫筆《夏景山水図軸》南宋時代·12~13世紀 国宝

出典:筆者撮影
寸評:強風になびく松の葉の描写が見事。筆運びが厳しく激しい。
2)伝夏珪筆 《山水図軸》南宋時代 13世紀

出典:ColBase
寸評:遠方の山の上、山から手前の船の川面まで「気」が充満している。樹木の葉および樹冠の描き分けが秀逸(約7種類)。さらに、手前の濃墨、背後の薄墨、樹木の前後の重なりの描写、遠近の描写も印象深い。
3)伝夏珪筆《春夏山水図軸》南宋~元時代·13~14世紀

出典:筆者撮影
寸評:典型的な中国の水墨山水。ジグザグと画面を厳しく切り裂く松の枝、きっかり、かっちりと描かれた松の葉、左上から下まで、水蒸気を充満させながら流れ落ちる滝と川、そして川中と岸に描かれた巨岩の描写が見事。
4)孫君沢筆《雪景山水図軸》元時代・14世紀 重要美術品

出典:東京国立博物館・館蔵品一覧
https://www.tnm.jp/modules/r_collection/index.php?controller=dtl&colid=TA326
寸評:左手前の家屋、周囲の岩と樹木のキレの良い線描が気持ちいい。枝垂れの枝の風による動き、竹のたわみ、岩の上に積もった真っ白の雪が気持ちいい。さらに右上対角線の見える橋と人物がより薄い墨で描かれ、その間の川の蒸気が充満した空間と、さらに外隈で描かれた遠くの雪山の全体構図がよい。
5)王世昌《秋景山水図軸》明時代 ·16世紀

出典:筆者撮影
寸評:画面全体に充満した気が動く様が、上から下に垂直に切り立った崖の樹木の全ての葉と人物の髪の毛と服、川岸の葦、道辺の草までも、同じ方向になびいている描写から分かり、絵全体の空気が動く印象を強めている。
6)王諤筆《聰馬行春図軸》明時代·16世紀

出典:筆者撮影
寸評:掛軸の半分を占める高さの樹木はあまり見たことがない。右上の奇岩に眼を誘導するためか。
小景画
筆者不詳《竹塘宿雁図軸》北宋~南宋時代·12世紀 重要文化財

出典:筆者撮影
寸評:拡大しないと分かりにくいが7羽あまりの鴨が、竹の葉越しに、水面を泳いでいるが見える。その上を、竹の葉と梅(?)の幹と小枝が覆いつくす。日本の絵画ならば、左上部分に余白を大きくとりそうだが、この絵では埋め尽くしている。説明文によれば、山水画と花鳥画をあわせた性格をもつとのこと。小景画とうジャンルらしい。
竹虫図
伝趙昌筆《竹虫図軸》南宋時代・13世紀 重要文化財

出典:東京国立博物館・館蔵品一覧
https://www.tnm.jp/uploads/r_collection/LL_471.jpg
寸評:昆虫も草も写実的で、この時代にすでに絵画的に完成しているのに感動する。蝶やバッタ、植物からなる題材と華やかな彩色は山水画と雰囲気が異なりやわらかい。とはいえ、線描は「かっきり」、「しっかり」として、山水画と同様きちっとした印象。500年後の我が国の歌麿の《画本虫ゑらみ》や、蝶の舞う姿からは速水御舟の《炎舞》などを連想する。絵画的にその後の花虫図の変遷を追ってみたい気がする。
墨竹画
1)趙孟頫 款《竹石図軸》元時代·14世紀

出典:筆者撮影
寸評:きちんと調べた訳ではなく、あくまで推測だが、日本の竹の水墨画に比べて、竹の占める面積の比率が大きい気がする。すなわち、主役感があり、逆に言えば余白部分が少ない。
2)朱端筆《竹石図軸》明時代·16世紀

出典:筆者撮影
寸評:これも前の《竹石図》と同じ感想。竹だけで勝負するのは難しいと思うが、強風を上手く使っている。
3)顧安 筆《翠竹図軸》元時代·14世紀 重要文化財

出典:筆者撮影
寸評:前二つの竹石図と同じく、竹の主役感が強く余白が少ない。
花鳥画
1)伝顧徳謙筆《蓮池水禽図軸》2幅 南宋時代・13世紀 重要文化財

ColBase:https://colbase.nich.go.jp/collection_item_images/tnm/TA-142?locale=ja

ColBase:https://colbase.nich.go.jp/collection_item_images/tnm/TA-142?locale=ja
寸評:つぼみから開花、開花から散り、枯れまで描いているので、完全な写生ではないが、蓮が好きで「線スケッチ」している私の経験からは、13世紀という時代に、ここまで描いているのは驚く。風で揺れる様、鳥のポーズ、すべてが考えられていて見飽きない。水中の草、折れて水中に入った蓮の葉まで描かれている。
2)伝王李本筆《雪中花鳥図軸》南宋時代·13世紀

出典:筆者撮影
寸評:解像度がよくないので評が困難。鳥の大きさが小さすぎてよくわからない。梅の花(?)も咲いているがこちらも小さくて分かりにくい。後世の花鳥図と比べる必要を感じる、もっと花や鳥が大きいのではないか。
その他
伝陳容筆《五龍図巻》南宋時代·13世紀 重要文化財

出典:筆者撮影

出典:筆者撮影
寸評:この横長の龍の絵の滝と水しぶきの表現を見て、はるか後年の曽我蕭白《雲龍図》を自然に思い出す。制作が13世紀という年代を思うと、龍の描写と言い、すべてがとんでもないレベルだと感じる。

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(おしまい)
前回の記事は下記をご覧ください。
