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『あの日、僕らが壊したタイムマシン』【第2話】

【第2話】

 あれからラボでは、3人でタイムマシンの開発に勤しんでいる。今では祈山もすっかり打ち解けた。
「なあ時田~そろそろ休憩しないか」
「そうだね」
「二人ともお疲れ様」
伊野瀬が二人にコーヒーを差し出す。

「ありがとうございます、伊野瀬さん」
「祈山くんが来てから優くんも楽しそうで、本当に来てくれてありがとう」
「いや、感謝するのはこちらの方です。追いかけるだけだった時田と横に並んで研究するのは、今までとは違った面白さがあります」
三人で仲良く談笑をしたのち、研究を再開する。

「繋心、最初に話したと思うけど、まだ解決してない問題があるんだ」
「ああ、タイムマシンの移動用ポッドの剛性だろ。でもそっちの分野は専門外だからな~」
 時田も祈山も、金属や素材の開発などに関する知識は多くなかった。ポッドの完成には、時転回廊を高速移動する衝撃に耐えるため、より強固な素材が必要だった。
「適しそうな候補はだいたい試したが、それでも強度が足りなかった。何かいいものはないか…」

「そんな都合よくあるもんかねぇ…あっ」

 祈山は何かを思い出したかのように声を発した。一つそれらしい心当たりがあったのだ。
「時田、”エトワールボヤージュ”って知ってるか?」
「うーん、なんか聞いたことはあるな」

 エトワールボヤージュは、2年前に天才と呼ばれた女子中学生Δデルタが水難事故などの救助を想定して作った発明である。棒状で、先端が手のような形になっている。
 スイッチを押し誰かを思い浮かべると、アームが伸びてその対象の人物の手をつかむ。その後アームが一瞬で縮むことで流星のごとく飛んでいくことができる。なお、手をつかまれる側に一切負担はかからない。

 祈山は時田を超えようとあらゆる技術の情報を収集していたため、他人の発明にも詳しかった。彼が一通り説明を終えると少し暗い表情になり、こう続けた。
「エトワールボヤージュは新次元の防災グッズとして有名になったんだ。でもいくつかの事故が起こった」

 いくら天才と呼ばれていたΔといえど、エトワールボヤージュには技術が未熟な中学生ならではの粗があった。アームは対象まで最短の直線距離で伸び、障害物などを避けるようには作られていなかった。
 また、AがBのもとに行こうとした場合、BがたとえどこにいたとしてもBにたどり着くまでAを離れない。Bが水中や火の中にいる場合、Aはそれ相応の装備をして使用しなければ死の危険すらある。

Δは安全性を担保するために以下の使用条件を強く訴えていた。

・だいたいの場所が把握できない対象には使用しない。
・周辺に壁を含め障害物がないことを確認する。
・対象の人物が水中など特殊な環境にいることが予想される場合、使用者もそれ相応の装備をする。

 しかし、所詮中学生だからと、それを聞き入れない者も一定数いた。その結果、街中で使用されたアームがビルの壁をぶち抜き使用者がその壁に激突したり、溺れる子供を助けようとして自らも溺れてしまうというような事故が立て続けに起きた。
 幸い死亡事故は起きなかったが、エトワールボヤージュを一般向けに販売した企業は責任を問われ、後に倒産した。

「Δの研究を支援していたこの企業、彼女の反対を無視して一般向けの販売を強行したらしいんだ。だから彼女が直接責任を負わされることはなかったらしいけど、この一件で研究の世界から去ったと言われいる」
「企業が目先の利益を優先した結果引き起こされた事故か…そのΔさんが不憫でならない。でもこの話が移動用ポッドの開発とどう結びつくんだ?」

「エトワールボヤージュのアームがビルの壁を貫いたって事故があっただろ?ビルの壁を貫いたのに、アームには傷一つついていなかったみたいなんだ。つまり、かなり頑丈な素材で作られているってことだ。何を使っているのかは分からないが、時田が試した素材よりもずっと強いんじゃないか」

 時田は祈山がなぜエトワールボヤージュの話をしたのか、この瞬間完全に理解した。
「つまり、エトワールボヤージュと同じ素材を移動用ポッドに応用すれば」
「そういうこと」
「でも、Δさんが今どこで何してるかなんて分からないよな」

 タイムマシン完成への最後のピース、ポッド用の素材。それを解決する手がかりを得た時田たちだったが、そこには重大な問題があった。顔も名前も分からないΔが、今どこで何をしているのかなんて、知りようがないのである。

 どうしようかと頭を抱える二人のもとに、伊野瀬が駆け寄り口を開いた。
「ねぇ、私知ってるよ」
「「え!?」」
二人は口をそろえて答えた。
「ごめん、途中から話が聞こえちゃって…そのΔって発明者、私のおじいちゃんの研究仲間のお孫さんで、青川あおかわ朔良さくらちゃんっていうんだ」

 縁とは不思議なものだ。遥かに遠いと思っていた存在が、意外と近くに存在したりする。人との繋がりは、大切にしなければいけない。

「住所は分かるから、会いに行ってみる?私も久しぶりに会いたいし。状況が状況だし、その素材の話をしてくれるかは分からないけど」

こうして、時田たち3人は青川朔良のもとへ向かうことになった。

つづく

【第3話】

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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