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【第102回】ビジネス書との出会い:リーダーの仕事は「答える」ことではない。無知を認め、関係性を築く『問いかける技術』

この**【ビジネス書との出会い】**シリーズでは、私が出会い、人生やビジネスの視点を変えるきっかけとなったビジネス書を、毎回1冊ずつレビュー形式でご紹介していきます。



書籍と著者

本日ご紹介するのは、組織心理学の巨星にしてマサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院名誉教授、エドガー・H・シャイン氏による**『問いかける技術 ― 確かな人間関係と優れた組織をつくる』**(原題:Humble Inquiry: The Gentle Art of Asking Instead of Telling)です。

  • どんな本か: 組織のヒエラルキーや「指示する(Telling)」文化を打ち破り、「謙虚に問いかける(Asking)」ことによってのみ、現代の複雑な問題は解決できると説くコミュニケーションの真髄。

  • 著者の権威性: 「企業文化」や「キャリア・アンカー」といった概念を生み出し、半世紀以上にわたって世界の組織開発をリードしてきたレジェンドです。

  • 以前紹介した本との関連: 本連載でも【第42回】『人を助けるとはどういうことか』、【第45回】『謙虚なリーダーシップ』と紹介してきたシャイン教授の、「ハンブル(謙虚)」シリーズの根幹を成すベストセラーです。


導入:「教えたがり」なリーダーが組織を殺す

私たちは無意識のうちに、「リーダーたるもの、答えを持っていなければならない」「部下には的確な指示を出さなければならない」と思い込んでいます。

しかし、著者はこう断言します。 「『伝える(Tell)』ことは、相手を自分より低い地位に置くことである。一方、『問いかける(Ask)』ことは、一時的に相手に権力を譲り渡し、自分を脆弱な立場に置くことだ」

複雑で変化の激しい現代において、一人のリーダーがすべての答えを持っていることなどあり得ません。 それなのに、リーダーが「知ったかぶり」をして指示を出し続ける(Telling)と、部下は「言われたことしかやらない」、あるいは「危険な兆候に気づいても言わない」という沈黙の文化に陥ります。 これを打破する唯一の方法が、「ハンブル・インクワイアリー(謙虚な問いかけ)」なのです。


本書の核:4つの「問い」を見極める

著者は、私たちが日常で使っている「問い」を4つの種類に分類し、自分がどれを使っているかを自覚せよと説きます。

  1. 謙虚な問いかけ(Humble Inquiry): 純粋な好奇心から発せられる問い。「今、何が起きている?」「あなたはどう思う?」など、自分を無知な状態に置き、相手から学ぶための問いです。これが信頼関係の土台になります。

  2. 診断的な問いかけ: 「なぜそうなったの?」「それは誰がやったの?」など、原因や詳細に焦点を当てる問い。相手の思考を特定の方向に向けさせてしまいます。

  3. 詰問的な問いかけ: 「もっとこうすべきだと思わない?」「なぜAではなくBをやったの?」など、自分の意見や答えを「問い」の形に偽装して相手に押し付ける、最もタチの悪い問いです。

  4. プロセス指向の問いかけ: 「今の私たちの会話、どう進めればいいと思う?」など、会話や関係性そのものに焦点を当てる問い。

多くのマネジャーは「謙虚な問いかけ」をしているつもりで、実は「診断的」や「詰問的」な問いかけをして部下を追い詰めています。


現代ビジネスへの応用 / 実践:アドバイスを我慢する

では、私たちは明日からどうすればいいのでしょうか?

  • 「Here-and-now humility(いま・ここの謙虚さ)」を持つ: 地位や年齢に関係なく、「今、目の前の課題において、私はあなたに依存している(あなたが情報を持っている)」と腹を括ることです。自分の「無知」を認める勇気を持ちましょう。

  • 「アドバイス・モンスター」を退治する: 部下から相談を受けたとき、すぐに「こうすればいい」と解決策を提示(Telling)するのをグッと堪えます。「もう少し詳しく教えてくれる?」「そのとき、あなたはどう感じた?」と、純粋な好奇心で「謙虚な問いかけ」からスタートしてください。


まとめ:問いかけは「在り方(Being)」である

「問いかける」とは、単なる会話のテクニック(Do)ではありません。 それは「私はあなたをリスペクトしている」「あなたから学びたい」という、相手に対する深い敬意と自己開示(Being)の表現なのです。

リーダーが鎧を脱ぎ、「私には分からない。君の考えを聞かせてくれないか?」と問いかけた瞬間、チームの空気は劇的に変わります。 確かな人間関係を作りたいなら、まずは「伝える」ことをやめるところから始めてみませんか。


▼ 合わせて読みたい(過去の連載より)

『問いかける技術』を読んだ方には、以下の過去記事もおすすめです。本書の哲学を実践・応用するための強固なリンクとなります。

  • 【第42回】『人を助けるとはどういうことか』

    • 同じエドガー・H・シャイン氏の著作。本当の意味で人を「支援」するためには、いきなり手を差し伸べるのではなく、まずは「謙虚な問いかけ」を通じて相手の真のニーズを引き出す必要があることが深く理解できます。

  • 【第84回】『アドバイスしてはいけない』

    • シャイン教授の理論を、よりポップで実践的な「コーチングの技術」に落とし込んだのが本書です。ついつい解決策を言ってしまう「アドバイス・モンスター」を飼いならす具体的な7つの質問が学べます。

  • 【第83回】『恐れのない組織』

    • エイミー・エドモンドソンが提唱する「心理的安全性」。その安全な環境をリーダーが自ら作り出すための最も効果的なアクションが、自分の無知を認めて「謙虚に問いかける」ことなのです。


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