【第44回】ビジネス書との出会い:アマゾンに殺されかけた企業を救った「人間らしさ」の魔法『THE HEART OF BUSINESS』
この**【ビジネス書との出会い】**シリーズでは、私が出会い、人生やビジネスの視点を変えるきっかけとなったビジネス書を、毎回1冊ずつレビュー形式でご紹介していきます。
「アマゾンのせいで、実店舗はもう終わりだ」 2012年、アメリカの巨大家電量販店「ベスト・バイ」はまさに死にかけていました。店舗はアマゾンで安く買うための「ショールーム(実物を見るだけの場所)」と化し、株価は暴落。「倒産は時間の問題」と世界中から見放されていました。
通常、こうした企業の再建策(ターンアラウンド)といえば、「店舗の大量閉鎖」「大規模リストラ」「コストの徹底削減」が定石です。 しかし、新たにCEOに就任したユベール・ジョリーは、ウォール街の常識とは全く逆の行動に出ました。
「人は削減すべきコスト(資源)ではない。価値を生み出すソース(源泉)だ」 本日は、リストラを避け、従業員の「ハート(心)」に火をつけることで、不可能と言われた奇跡のV字回復を成し遂げた、新時代のリーダーシップの教科書をご紹介します。
書籍と著者
本日ご紹介する書籍は、ベスト・バイを奇跡の復活に導いた元会長兼CEO、ユベール・ジョリー氏とキャロライン・ランバート氏による**『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』**(原題:The Heart of Business: Leadership Principles for the Next Era of Capitalism)です。
どんな本か: 従来の資本主義の常識(企業の目的は株主の利益を最大化することである)を真っ向から否定し、「利益は目的ではなく、パーパスを追求した結果である」と定義し直した一冊。美しい理想論ではなく、実際に巨大企業をどん底から救い出した「実戦の記録」だからこそ、圧倒的な説得力を持っています。
本書の核:「利益」は目的ではない。「結果」だ。
ジョリーは、これからのリーダーが持つべき新しい原則を提示します。
1.利益は「呼吸」のようなもの
利益は企業が生きていくために絶対に不可欠です。しかし、私たちが生きる目的が「呼吸をすること」ではないように、企業の目的も「利益を出すこと」ではありません。 利益とは、崇高なパーパス(目的)を追求し、従業員と顧客を大切にした結果として、後から自然についてくるものなのです。
2.「ヒューマン・マジック」を解き放つ
完璧な戦略シートや数字の管理だけでは、会社は救えません。本当に必要なのは、従業員一人ひとりが情熱を持って自発的に動く「ヒューマン・マジック(人の魔法)」です。 ジョリーは、店舗で働く従業員に対して「何を売るか(家電)」ではなく、「どう役に立ちたいか(テクノロジーで顧客の生活を豊かにする)」というパーパスを徹底的に共有しました。
3.リーダーは「弱さ」を見せろ
かつてのリーダーは、すべてを知っている「スーパーマン」である必要がありました。しかしジョリーは、「リーダーこそ、自分の弱さ(バルナラビリティ)を見せよ」と説きます。 「私には答えがわからない。だから皆の力を貸してほしい」。そう正直に言えるリーダーだけが、周囲との「本当のつながり」を築き、チームの底力を引き出せるのです。
現代ビジネスへの応用 / 実践:仕事の意味を「再定義」する
ベスト・バイの復活劇の核は、従業員が「自分の仕事の意味」を再定義したことにあります。
彼らはもはや「ただ家電を箱から出して売る人」ではありません。 タブレットを買いに来たおばあちゃんに使い方を教えることで**「離れて暮らす孫とのつながりを提供する人」であり、スマートホーム機器を設定してあげることで「その家族の安全を守る人」**になったのです。
これが「本物のパーパス」の力です。パーパスが腹落ちしたとき、従業員の行動はただの「作業」から「人助け」に変わります。その熱意と人間らしさが顧客を感動させ、結果としてアマゾンの効率性には絶対に真似できない「極上の体験」を生み出したのです。
まとめ:パーパスは「お飾り」ではなく「心臓」である
パーパスとは、ウェブサイトに飾るための美しい広告コピーではありません。それは、従業員の心に火をつけ、死にかけた組織さえも蘇らせる「ビジネスの心臓(ハート)」そのものです。
「数字ばかりを追う経営に疲れてしまった」 「チームの熱量が低く、やらされ仕事になっている」 もしあなたがそう感じているリーダーなら、本書は涙が出るほどの勇気と、具体的な組織再建の地図を与えてくれるはずです。
▼ 合わせて読みたい(過去の連載より)
『THE HEART OF BUSINESS』で学んだ「パーパスの真の力」や「弱さを見せるリーダーシップ」、「現場への権限委譲」をさらに多角的に理解するための必読リストです。
【第43回】『仕事ではなく世界を変えよう「パーパスの神話」に騙されないために』 [選定理由:偽りのパーパスとの対比] 本作が「パーパスで会社を救った本」なら、こちらは「行動を伴わない偽りのパーパス(SDGsアピールなど)は社会の毒である」と喝破した本です。この2冊を合わせて読むことで、言葉遊びのパーパスと、魂の入った本物のパーパスの違いが明確になります。
【第19回】『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』 [選定理由:仕事の再定義の源流] ベスト・バイの店員が「家電を売る(WHAT)」のではなく「生活を豊かにする(WHY)」へと意識を変えたプロセスは、まさにサイモン・シネックの「ゴールデン・サークル」の巨大企業での実践例です。インスパイア型組織の構造がよくわかります。
【第99回】『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』 [選定理由:弱さを見せる科学] ユベール・ジョリーが実践した「リーダーが弱さ(バルナラビリティ)を見せる」という行動が、なぜチームに魔法(ヒューマン・マジック)を起こすのか。そのメカニズムを「弱さのループ」という行動科学の視点から完全に解き明かしたチームビルディングの傑作です。
【第40回】『マイケル・アブラショフ艦長のマネジメント―海軍の常識を覆した「最強の組織」のつくり方』 [選定理由:現場の力を引き出す魔法] アメリカ海軍で最悪の評価を受けていた軍艦を、ベスト・バイと同じように「リストラ(乗組員の入れ替え)」を一切行わず、乗組員の自主性を引き出すことだけで最強のチームへと変貌させた奇跡の実話です。
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