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【第85回】ビジネス書との出会い:権力が人を腐敗させるのか? それとも腐敗した人が権力を握るのか?『なぜ悪人が上に立つのか』

この**【ビジネス書との出会い】**シリーズでは、私が出会い、人生やビジネスの視点を変えるきっかけとなったビジネス書を、毎回1冊ずつレビュー形式でご紹介していきます。



書籍と著者

本日ご紹介するのは、政治学者ブライアン・クラース氏による衝撃のノンフィクション**『なぜ悪人が上に立つのか―人間社会の不都合な権力構造』**(原題:Corruptible: Who Gets Power and How It Changes Us)です。

著者は、世界中の「権力者」――独裁者、カルト教祖、汚職政治家、そして企業のCEO――に直接インタビューを敢行。 「なぜ、あなたはそんな人間になったのか?」という問いを投げかけ、進化心理学や行動経済学の知見と合わせて「権力の病理」を解明しました。


導入:良いリーダーが生まれない理由

前回【第83回】『恐れのない組織』【第84回】『アドバイスしてはいけない』で、私たちは「謙虚で、聞く耳を持つリーダー」こそが最強だと学びました。

しかし、現実はどうでしょう? 謙虚な人よりも、「自信過剰で、声が大きく、支配的な人」が出世していませんか? 本書はその理由を、残酷なほど明確に突きつけます。

  1. 権力は、権力を欲しがる人間を引き寄せる(自己選択)。

    • まともな神経の持ち主は、他人の人生を支配する責任など負いたがりません。結果、サイコパスやナルシストばかりがリーダーの椅子に立候補します。

  2. 私たちは、原始人の脳でリーダーを選んでいる。

    • 私たちの脳は、サバンナで生きていた頃のままです。「体が大きく、決断が速く、攻撃的な人物」を本能的に頼りがいがあると誤認してしまいます。


本書の核:システムが「悪人」を作る

本書の最大のメッセージは、「人を変えるより、システムを変えろ」です。

著者が行った実験の紹介が興味深いです。 「警察官の募集広告」の文言を変える実験です。

  • Aパターン: 「悪と戦う」「武器を携帯できる」と強調した広告。

  • Bパターン: 「市民を助ける」「奉仕する」と強調した広告。

Aの広告には、攻撃的で差別的な傾向を持つ応募者が殺到しました。 つまり、「権力のイメージ」自体が、特定の(危険な)性格の人々を磁石のように引き寄せているのです。

企業でも同じです。 「高給と激しい競争」を売りにすれば、金銭欲と支配欲の強いサイコパスが集まります。 「社会貢献とチームワーク」を売りにすれば、協力的なリーダー候補が集まります。 悪人が上に立つのは、私たちがそういう人を引き寄せるシステム(求人や評価制度)を作っているからなのです。


実践:サバンナの脳に抗う

では、私たちはどうすれば「悪人」の上司や政治家を避けられるのでしょうか?

1. 「見た目」と「自信」を疑う

私たちは、長身で、声が低く、断定的な口調で話す人を「有能だ」と錯覚します(第73回『コールド・リーディング』の原理です)。 しかし、現代社会において「自信」と「能力」には何の関係もありません。「絶対に大丈夫だ!」と叫ぶリーダーを見たら、「頼もしい」ではなく「危険だ(データを無視している)」と判断する理性を持ちましょう。

2. 「権力を欲しがらない人」を無理やり据える

最高の人材は、権力の座を求めません。 だからこそ、立候補制だけでなく、「くじ引き(ランダム選出)」や「多面評価による推薦」を取り入れるべきだと著者は提案します。 「リーダーになりたくない」と言っている優秀な人を、三顧の礼で引っ張り出すこと。これが組織防衛の鉄則です。


まとめ:監視されない権力は必ず腐る

最後に、著者はもう一つの真実を告げます。 「どんな善人でも、監視のない権力を持つと、必ず腐敗する」

私たちは「聖人君子のようなリーダー」を探しがちですが、そんな人は存在しません(あるいは、権力を持った瞬間に変質します)。 必要なのは、人徳への期待ではなく、「監査」と「透明性」です。

第83回で「心理的安全性(言いたいことが言える環境)」が重要だと学びましたが、それは悪人の暴走を止めるための「監視システム」としても機能するのです。

「あの人はいい人だから大丈夫」 そう思った瞬間、権力の魔物は目を覚まします。 リーダーを信じるな。システムを信じろ。 それが、権力社会を生き抜くための唯一の解です。


▼ 合わせて読みたい(過去の連載より)

今回の『なぜ悪人が上に立つのか』は、これまでのリーダーシップ論の「裏側(ダークサイド)」を照らす一冊です。


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