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幻獣戦争③

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序章 絶望が希望に勝利した日――③

「……ね……れ……か」
 薄れゆく意識の中で私はもはや満足に喋ることすら叶わない。あの幻獣の砲火が機体をハチの巣にし私は炎と衝撃に飲まれた。既に全身の感覚はなく、体が五体満足かすらわからない。この薄れゆく意識が今だ生きている証であり、それも間もなく潰えようとしている。

 滲んでぼやけて見える景色が少しずつ、少しずつ暗闇に落ちていく……だが、まだ死ぬわけにはいかない。助けなければ、彼を、人類の未来を、私の愛する人を……身勝手に死んでいった皆の分まで、助けないと……今この場で、生きている私が……支えなければ、人類の未来も、彼の未来も終わってしまう……
 

《――だから、助けないと!》

「……ね……しに……ら……か……らを!」
 私の祈りは虚しく生が終ろうとしている。ここまでなのだろうか? 人類は……彼の歩んできた道は――終わりにしたくない! 終わってほしくない! だって彼は――彼はまだ、戦っているのだから!

「……えっ?」
 唐突に力が湧きおこり滲んでいた視界が明瞭になる。何が起きているのだろうか? 

 私は思わず右手を目の前に晒し握りこぶしを作って戻す。確かに自分の体だ。しかも、前身の感覚が戻っている。

『――時間がありません。手短に伝えます』

「――この声は……もしかして、一樹君?」
 上から降ってきた声に私は思わず見上げると、敵の攻撃で破壊された右上部のコックピットモニターの隙間に手のひらサイズの球体が、緑色の輝きを放って宙に浮かんでいた。どういう状況なのだろうか?

『問答も無用です。時間がありません。貴方を私の使徒にしました。この情勢下ではこの方法しかありませんでしたので、私に代わり彼を助けてください。力の使い方はわかるはずです』

 球体は一方的にそれだけ伝えると緑色の輝きを放ち霧散。崩壊したコックピットを緑色の輝きで満たす。わけがわからないが、一つだけ確かなことがある。私はまだ彼を支えられる!

「……」
 私は手を組み祈る仕草で目を閉じ念じる。すると、脳内に彼が駆る90式戦略機の姿が流れ込んできた。彼はあの大型幻獣を前に真っすぐ突撃している。

彼はまだ諦めずに戦って――

 『俺が止めればこんな現実(こと)にはならなかった……俺が止めようと、皆に伝えるべきだった……全部、全部俺のせい……』 

 同時に流れ込んできた彼の絶望と嘆き。それは私達が敗北したという現実を受け入れるには十分な材料だった。彼は……舞人は、残った軍人としての責任。それだけで立ち向かっている。

《――このまま楽にさせてあげたほうが、彼のためになるのでは?》

 このまま彼を助け帰してあげても、本当に彼のためになるだろうか? 彼の気持ちを知り私の中に迷いが生じる……舞人は立ち直れるだろうか? 

 このまま死なせてしまったほうが彼のためなのかも――いや、それを決めるの私じゃない。彼の運命だ。私が助けても彼も死ぬかもしれない――私が手を下すべきじゃない! 私は組んだ手に力を込め、祈る。

《……どうか、どうか彼に力を……奇蹟を起こす力を!》

  機体の残骸と砲撃による窪地の山を抜け、亀の形状をした大型幻獣の顔正面に最接近する。相手の視線は俺の機体を正確に捉えて離さない。にもかかわらず大型幻獣は攻撃する気配がない。本当ならもう撃墜されているはずだ。

 俺は端末を操作して大型幻獣の表面をコックピットモニターの一部に拡大表示する。砲塔と呼ぶべきか砲身と呼ぶべきか迷うが、砲弾を射出する突起物が網の目状に展開され俺を確実に捕捉している。

次回に続く


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