幻獣戦争 1章 1-2 不在の代償⑥
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序章 1章 1-2 不在の代償⑥
「彼らしいなぁ……」
これが僕の率直な感想だった。若本陸将補から連絡を受けた時、驚きこそすれ予想を裏切るほどではなかった。僕は鬼籍に入った連中よりも付き合いが長く、幼少の時から家族ぐるみで彼と交流がある。僕が彼と出会った頃、彼に両親は既になく代わりに祖父母が親代わりをしていた。まあ、不幸な境遇かというと、昔も今もその辺に転がっている普通の家庭環境でそんなことはない。ただ一緒に居た時間が長い分、仲間の中でもダントツに彼の性格を熟知している自負はある。
九州要塞近辺で幻獣が発生した時、いよいよ敵の大攻勢かと身構えたが、結果はいつもと同じ小規模なテロ活動。蠢動に近いもので、いつも通り要塞の弾薬庫が腹ペコになるオチつき。本部長のため息が聞こえてくる気がするが、彼女の戦略は間違っておらず人的被害が殆どないのがそれを裏づけている。
只、彼と違い単に雑なだけだ。そんな彼がたまたま現場に居合わせてボスを撃破する英雄的な事件が起きているのは出来過ぎで、奴らが彼を狙って現れたのではないかと疑いもした。しかし、そんな出来過ぎた運命力の補正なんぞ彼にかかるわけがない。そんな補正がかかるなら今のような状況に陥っているわけが無い。本当にたまたまそこに居合わせて巻き込まれたというところだろう。彼の運が良かったのは戦略機が目の前に転がっていた点。幻獣にとって不運だったのは彼が乗って戦ったという点。もしかすればそのまま彼はそこで死んでいたのかもしれない。ほんの僅な差が彼の命を救ったのだ。
そんな彼の最大の不幸は本部長達に捕まってしまった点だろう。復帰するしかない状況に追い込まれ、まるで自分の意志で復帰したかのような錯覚を持たされているに違いない。彼は今も千切れかけの枝そのもの。大丈夫そうに見えるのは、その枝がやたらめった丈夫で硬質だからだ。誰かが樹脂で固めて包帯を巻いてやらねばならない。それに気づいて補強してやれるのは僕しかいない。
彼と別れてから4年。ここ自衛軍鹿屋基地の基地司令を任されてから惰眠を貪る毎日だったが、それも今日でおしまい……のはずだ。もしかしたら僕を要塞に呼び戻すための口実かもしれない。実際に顔を出してみたら既に彼が帰宅していた……なんていうオチも十分に考えられる。情報部の若本と言う男は軍部、政界共に死神と揶揄され恐れられている人物だ。本当に彼を復帰させるつもりなのか怪しく感じてしまう。本部長に計画書が提出されていることと技術部が裏で動いていること、この二つの事実があってもやはり彼の顔を見るまで信じることは出来ない。
僕は基地執務室で基地副司令への引継ぎの資料と、決裁が必要な書類の処理を手早く済せたところで、呼びつけた基地副司令に口頭で後任を依頼。戦略機で要塞へ向う事にした。そちらの方が一番早い。副司令はとても嫌そうな顔をしていたが、後付けで昇進させると言ったら喜んで引き受けてくれた。まあ、僕が居ても基地業務の殆どは副司令がしていたし、僕が抜けたら自動的に昇進するのに、喜ぶほどのことじゃないはずなんだけどなぁ……
この日の夕刻、僕は九州要塞に無事たどり着き格納庫の整備タラップに降り立った。そこで戦略機を見上げる彼の姿を見かけ安堵する――さて、どう声をかけてあげよう?
次回に続く
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