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言い訳の匠

―父の鉄壁

猛暑の中、ランチに現れた父親の杖を握る腕は、しっとり汗で濡れていた。頑張りは分かりつつも、日に日に弱る足への不安と焦りが募る。内臓の疾患と足腰の弱りという"内憂外患"の父を外へ連れ出したいが、その意に反し、引きこもりたい父。この攻防で父が繰り出す言い訳が、最近めっぽう味わい深い。重い現実を長年の知恵でうまくかわす父と、いかに連れ出すか―。わが家の可笑しな"知恵比べ"はきょうも続く。

密かな攻防戦

「この辛さは本人にしか分からない」―。この台詞こそ、父が切り札として使っている強力なカードだ。免罪符とでも思っているのだろうか。当初、これを聞いて焦りも覚えたが、よく考えれば至極ごもっとも。無理をして倒れるリスクを回避する、完璧な自己防衛だ。ちょっとズルいが、年の功が生んだ案外、合理的な判断である。

思い出すのは、かつて手術後に入院したリハビリセンターで「杖なしで50m歩いた」と、ドヤ顔をしていた姿。あの頃の覇気はどこに行ったのやら。周囲は焦って励ましについ熱が入るが、父の見事な言い訳に毒気を抜かれる。それでも諦めないのは、屁理屈をこねる元気があるなら、まだ外の空気を感じに歩けるはずだと思うから。

暑さを理由に「疲れた、寝たい」と横になる父。それならと、こちらも作戦変更。横になりながらでもできるリハビリ運動はないか。父の"省エネ理論"を逆手に取り、寝たままでもちゃっかり鍛えさせる運動を模索する。父もさるものながら、やにわに手をグーパーしだし、「握力はしっかり鍛えてるぞ」と即座に返す。参った。わが家の密かな攻防戦である。

くたびれの先

辛抱強くやってきた結果が今なのだから、「もう疲れた」と言いたくなる父の気持ちも分かる。だから、完璧な運動なんて求めない。ただ、たとえ杖が必要になろうとも、自分の足で動き、外の空気や季節の移ろいを感じることこそが、生きる気力になると信じている。父の見事な言い訳に、口がよく回るなと感心する。

一方で、発破はっぱをかけるこちらも、実のところ、少々くたびれる。それでも、手強い鉄壁の防御を少しずつ切り崩したい。きょうもまた、父の言い訳を一つ攻略する―。そんなやり取りを重ねながら、何とか一緒に前へ進む。父の切り札をすべて攻略した先には、家族揃って満面の笑みで旅行に出かける日が待っている。

そのときまで、わが家の知恵比べは終わらない。

(写真:『りすの独り言』トップ画像/麻婆豆腐ランチ=りす撮影)

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